2020年05月13日

恐竜の子孫と男の子

野川沿い散歩をしていたら、対岸で2歳くらいの男の子が数十羽のハトに囲まれている。ハトといったって、元をただせば恐竜の子孫、高い知能もするどい嘴(くちばし)も持っている。だいじょうぶか。
ハトと子ども3.jpg ハトとこども4.jpg
おたがいにひるまない。恐竜の子孫たちがエサをついばんで足元まで迫っても男の子は恐れる様子がない。男の子がときに手をひろげて「わぁッ」と迫ると恐竜の子孫たちはトトッと身をそらす。何度もくりかえしている。
平和です。しばらく見とれました。
多くの子どもたちが川の中に入って遊んでいます。メダカや川エビが採れるらしい。
川遊び1.jpg 川遊び2.jpg
野川沿い、ふつうの民家の庭ですが、美しいバラの庭園に仕上げているお宅がある。みごとです。
バラ1.jpg バラ2.jpg
閉ざされたままの神代植物公園では、バラが今を盛りと咲きほこっているはず。
見たいなあ、春のバラ園。
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2020年05月11日

川嶋康男『ラストアイヌ 反骨のアイヌ歌人森竹竹市の肖像 』

「自分たちこそは真正日本人」と主張したアイヌの歌人

違星北斗(いぼしほくと)、バチェラー八重子とならんで、アイヌ三大歌人と称せられた森竹竹市(1902〜76)の評伝です。
敗戦からほぼ半年後の1946年3月13日、北海道知事の認可を受けた「社団法人北海道アイヌ協会」が設立された。森竹竹市は常任幹事として設立に参与し、協会機関紙『北の光』創刊号に「あいぬ民族の明確化」と題する一文を寄せた。

「私共アイヌ民族は、自分たちこそは真正日本人である自覚の下にアイヌ民族の誇りをもって平和日本建設の為にスタートを切ろう。嘗て侮蔑の代名詞として冠せられたアイヌー自分たちもさう呼ばれることに依って限りない侮辱感を抱かせられた此の民族称を、今こそ誇りを以て堂々と名乗って歩かう。(中略)

時々詠草(じじえいそう)
アイヌてふ名をば誇りに起ち上がり
奴隷の鎖断てよウタリー等

侵された掠められた土地を還せよと
ウタリーは起てり強く雄々しく 」

ときに森竹竹市44歳、激しい主張であり、叫びです。
ネットで検索すると、森竹竹市研究会の山本融定さんという方が、講演で「森竹さんは、死ぬまで(自宅に)国旗を揚げていた」と語っています。先住民としての誇りの、森竹一流の表現でしょう。

とても一筋縄ではいかないアイヌの老闘士・歌人です。
「優秀なアイヌ」として奮闘する鉄道員時代、日本海軍連合艦隊の室蘭入港をアイヌの舞踊で歓迎しようとする企画に対して「見世物扱いを中止せよ」と新聞投稿する激しさ、詩や短歌、檄文でアイヌ同胞の覚醒をうながす先覚者、離婚・再婚のときに見せた恋に対する一途さ、晩年の「町立白老民俗資料館館長」として見学者に接するみごとな髭の長老としての風貌・貫禄。
そのときどきを全力をかたむけて生き抜いた。『北の光』に「雄弁にして熱の人、(中略)好漢惜しむらくは短気の性が玉に疵」と紹介されたケンカ上等の人生です。

「ラストアイヌ」というタイトルは、森竹が自分を「最後のアイヌ」と称していたことからとられています。「若いウタリー(同胞)に対しては自分のような過酷な歩みを断ち切らせたい」という願いから発せられたことばだろうと、著者は推察しています。

新谷行『アイヌ民族抵抗史』での森竹竹市

新谷行は名著『アイヌ民族抵抗史』(三一新書、1972年)に「アイヌ・民族の世界の発見」という一章をもうけ、違星北斗、バチェラー八重子、森竹竹市を論じ、称えています。民族の滅びることのない魂が、彼らの短歌の叫びとなって噴出しているという論考は、いま読んでも新鮮です。
森竹の「真正日本人」という主張についても触れています。それは
「アイヌ民族が日本人の中に同化したのではなく、アイヌ民族の中に天孫族が同化したのだ」という考えであり「古代東北における安倍貞任や藤原秀衡もアイヌ民族であったという自信」からきている、いわんとするところは分かるが「真正日本人」というのは「同化主義の一変形でしかなかったといわれてもやむをえない」と指摘しています。
わたしは、複雑な老闘士の、万華鏡のような人生の一断面とみればそれでよく、「同化主義の一変形」といった、紋切り型のことばは不要と感じます。

反骨のアイヌ歌人、表紙のみごとな肖像に献杯。
ラストアイヌ 反骨のアイヌ歌人森竹竹市の肖像 - 川嶋 康男, 掛川 源一郎
川嶋康男『ラストアイヌ 反骨のアイヌ歌人森竹竹市の肖像 』柏艪舎、2020年、1500円+税。
関連:山本融定(森竹竹市研究会)講演「アイヌ民族の歴史」https://www.ff-ainu.or.jp/about/files/sem1722.pdf
2020年04月24日、宇梶静江『大地よ!宇梶静江自伝』http://boketen.seesaa.net/article/474737279.html
posted by 呆け天(ぼけてん) at 07:45| Comment(2) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月09日

原田マハ『喝采』(Web小説)

ロックダウンのパリ、夜8時、連帯の拍手喝采が轟く

原田マハがツイッターで書いた小説です。
パリにも拠点を持ち、日本と往復しながら小説を書いている原田は、パリ滞在中に新型コロナウイルスによるロックダウンに遭遇する。
その日々を、心情の吐露ではなく、小説として書き留めた。さすがです。

ものの5分もあれば読み終える超短編です。
活字の本にすれば3〜4ページくらいの分量でしょう。
そのなかに、いくつも印象にのこるシーンやことばが仕掛けられている。

・ロックダウンはいきなりはじまる。
あの自由と民主主義の国で、大統領の演説一発で、その日のうちに、全土が閉鎖(ロックダウン)される。部屋から出るには外出許可証が必要で、所持しないで外出すれば罰金を課せられる。国の命令だから、当然補償とセットになっている。国が、事業活動も個人の暮らしも補償するから、部屋から出るなと命じる。だからみんな従う。
補償なしで、国が責任をとらない形でなんとかしようという日本の「自粛要請」とは、根本的にちがう姿がそこにはある。同じ「自由と民主主義」を掲げていても、フランスと日本では社会と国家の仕組みが根本的に異なっているんだろうなあ。
この問題、速断せず、じっくりと考えてみたい。

・ロックダウンのパリに夜8時、連帯の拍手喝采が轟く。
茫然としながらも部屋に閉じこもっている原田の耳に、夜8時、さざなみのようになにかの音が聞こえる。窓をあけると、セーヌ川沿いのありとあらゆる部屋の窓が開けられ、住人たちが拍手をしている。叫び声も聞こえる。命がけでコロナとたたかっている医療従事者への、感謝と連帯の拍手喝采だ。グッとこみあげるものがある感動的なシーンです。
筋違い、場違いかもしれませんが、わたしは映画『アルジェの闘い』のラストシーンを思い浮かべました。フランスの抑圧に抗するアルジェリアの女性たちの甲高く長く続く叫び声がアルジェの夜空に轟く。130年にわたった圧政・植民地支配からの、解放の叫びです。
あの、アルジェリアで暴虐をほしいままにしたフランス人の末裔たちは、パリの5月(1968年)で全世界の若者を鼓舞し、黄色いベスト運動で不屈の闘争精神をみせ、コロナ禍のなか全市をおおう拍手で連帯を確かめあいもする。人間の可能性を感じないではいられません。

・完璧な静寂を、ふつうに保つ日本人帰国者たち。
自著『キネマの神様』の映画化で主役をつとめてくれる予定だった志村けんがコロナで亡くなった。訃報を聞いた原田は、日本への帰国を決意する。
「4月1日。/帰国便は日本人乗客でほぼ満席だった。/ 搭乗前も機中も、私たちはずっと無言だった。/着陸後、防護服の検査官が機内へ乗り込んできても、検査待ちの列に並んだ時も、私たちは静かに全てを受け止めた。/人前で喋らない。/ それが日本人の強さなのだと、到着ロビーに出てから気がついた。」
これまた意表をつかれる観察・考察です。
パリでは、人々はみつめあい、ハグし、頬ずりし、口角泡をとばしてしゃべりあう。
日本では、視線をさけ、ふれあわず、人前でしゃべらない。
なるほどなあ。これって、マジで日本がまだ感染爆発していない理由なのかもしれないなあ。ヤマザキマリもイタリア人の大家族主義と熱い人間関係が感染拡大の原因かもと語っていたし。
日本人の特性がこのウィルスには有効だなんて、言われてみなければ分からない。

初めて読んだWeb小説

小説は印刷媒体だけで読んできた。すすめられてもWeb小説は敬遠してきた。本作を読んだことで考えが変わるかも知れない。数行ごとに、原田自身が撮ったパリの情景写真が掲載されていて読みやすい。
コロナ禍でいろんなことが変わるかもしれないと言われている。ハラリ(イスラエル)の大学では、20年議論しても導入できなかったオンライン授業が全科目1週間で実現したという。在宅勤務があたりまえと化し、職住接近、ムダな残業ゼロ、時短などがはじまるかもしれない。全国民10万円を、毎月やればベーシックインカムの始まりになる…。
コロナ禍転じて福となる、ってそう都合よくはいかないか。

夜8時、全市民の拍手喝采で医療従事者に連帯するパリっ子に、乾杯。
原田マハ2.png
原田マハ『喝采』(Web小説)https://haradamaha.com/topics/20200417_1347/
関連:2018年06月05日、原田マハ『たゆたえども沈まず』http://boketen.seesaa.net/article/459797003.html
2016年12月25日、原田マハ『暗幕のゲルニカ』http://boketen.seesaa.net/article/445233798.html
2013年11月07日、原田マハ『キネマの神様』http://boketen.seesaa.net/article/379619832.html
posted by 呆け天(ぼけてん) at 08:37| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする