2017年05月22日

柴又帝釈天界隈をぶらぶら散歩

「見送るさくら」の像、寅さん記念館、山本亭、川千屋のうなぎ…

6年ぶりくらいに、柴又帝釈天(たいしゃくてん)界隈をぶらぶらしました。同行してくれた囲碁・飲み仲間は「いつ来たか忘れたくらい久しぶり」の由。ま、けっきょく川千屋かどこかで、ウナギや鯉などの川魚を食べて酒を飲むという、エンディングがはっきりしてる散歩です。
今年3月25日に除幕式がおこなわれたばかりの、「見送るさくら」の像、いいですねえ。
けんかしたかフラれるかして、プイと「とらや」をとびだした寅さんが、柴又駅の前で家の方向をふりかえる、というのが寅さん像。さくらの像は、その寅さんを見送る姿になっています。「お兄ちゃん!」というさくらのセリフが聞こえてきそうな臨場感、うーむ、少し泣かせすぎでは。
それにしても、若い頃の倍賞千恵子の、切ないようなひたむきさがにじみでた良い像です。エプロンしてるブロンズ像なんて、ほかにはないでしょう。台座には山田洋次の「ある別れ」と題した、「男はつらいよ」の一場面のような文章が刻まれています。
柴又寅さん.jpg 柴又さくら.jpg 柴又ある別れefcc1cfba.jpg
帝釈天、自慢の彫刻と庭をゆっくりと見学。いつきても、いいお寺です。
柴又115446_.jpg 柴又120250_.jpg 柴又121249_.jpg
寅さん記念館。展示がすごくよくて、まえに来たときは見てないようなのもいろいろあります。なんでもすぐ忘れるからかなあと思って、案内役のかたに「何度かきてるのに、展示内容すっかり忘れてました」と声をかけたら、「3年に1回、リニューアルしてるんです」とのこと。なるほど、努力してるんだ。
山田洋次ミュージアム。日本のお宝です。そういえば、「家族はつらいよ2」がもうじき公開だ。
寅さん記念館.jpg 柴又23351_.jpg 山田ミュージアム.jpg
山本亭。実は、今回のいちばん大きな動機が山本亭の庭園をみることにありました。
雑誌かなにかで、アメリカの日本庭園専門雑誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』があげる日本の庭園ランキング上位に、葛飾区の「山本亭」が必ず入るのだという。寅さん記念館と共通チケットでみられるとまで書いてある。なにそそれ。帝釈天に初めてお参りしたのがだいたい40年前。寅さん記念館だって、矢切の渡しだってなんども来ている。なのに「山本亭」はまるで視野に入ってこなかった。風流を解さないというのはしょうがないもんですね。ほんと、寅さん記念館と隣接してる。なんでこれに気付かなかったんだろ。
庭園はこじんまりとした美しいもので、なるほどアメリカの庭園雑誌にはこれがうけるのか。ただ、これが日本の庭園ベスト3に入るとかいわれると「へーッ」となります。これくらいの庭は、お寺とか、昔の地方の名家の庭とか、いろいろなところで見たような気がするからです。もちろん「庭園美」の鑑賞の仕方などまるで知らない朴念仁の感想です。葛飾区のお宝、すばらしい。
柴又山本_130615_.jpg 柴又山本_130724_.jpg

寅さん映画の話しをしながら、昼間っから日本酒。たまりません。

時間が2時近くなったおかげで、川千屋は数分待っただけで席につけました。鯉のあらい、鯉こく、日本酒、〆にうな重。久しぶりの川魚料理、いいね。
好きな寅さん映画や山田洋次作品の話しをしながら、昼間っからだらだらと飲む酒、たまりません。ふと気がつけば店にはわたしたち二人しかいない。あんなに満員だったのに。
「あれ、まずかった?営業時間外になってしまってた?」と聞くと、ぜんぜんそんなことありません、どうぞごゆっくりとのこと。客のほとんどは昼の食事をとるために入るわけで、居酒屋気分で酒を飲む客がマレなんでしょうね。
夕方の客のかげがちらりと見えたあたりでおひらきにしました。

いいなあ寅さんの故郷柴又。川魚で、心ゆくまで酒を酌み交わす。「男はつらいよ」全48作に、乾杯。
柴又31748_.jpg 柴又川千屋153121_.jpg
5月17日(水)三鷹→お茶の水→千代田線・金町→京成・金町→柴又。
posted by 三鷹天狗 at 09:06| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月20日

森まゆみ『明るい原田病日記 私の体の中で内戦が起こった』

自己免疫疾患という難敵にたちむかう日々と、最愛の父の死

森まゆみは2007年4月、100万人に5人しか発症しないという自己免疫疾患、原田病にかかった。
全身のメラニサイト(=メラニン細胞)を自分の免疫が攻撃し、両眼の急性ぶどう膜炎でものがよく見えなくなったり、頭痛、耳鳴りなどさまざまな症状をひきおこす。失明の危険もある。発見者・原田永之助医師の名を冠して原田病(原田氏病とも)とよばれる。
モノカキにとって、眼に変調をきたすことほどやっかいなことはないだろうとは、素人でも想像がつく。比較的早期に「原田病」という診断がつき、ステロイドを投与すれば症状はおさえられるという療法も定石とされていることで、一進一退しながらも快方に向かっていく、約1年半の記録です。
悪いことは重なるもので、著者が愛してやまない父親がガンになり、8月に亡くなる。たぶん、人生にそうないような大ピンチの数ヶ月だったでしょう。
さすがに年功を経た作家として、取り乱すことなく、自分の大波のような心の揺れも含めて、しっかりと描きとめられています。
母親が父の遺品を整理しながら「ほんとにいい人だったね」と涙ぐみ、「でもそう面白い人でもなかったね」とつぶやく場面など、おもわず吹きだしてしまいます。

発症から3年たった2010年に「ほんとうに聞きたかったこと」と題して、信頼する医師にインタビューしている。津田篤太郎という、まだ30代の若い医師(北里大)のことばがとても鮮やかです。
「免疫というのは働きすぎもよくないし、働かなすぎもよくないんですよ。国家における警察とか、軍の権力みたいなもんで。」
なるほど。免疫は警察・軍隊か。弱ければ治安が乱れる。強すぎると国民を制圧して苦しめる。
森が「私の体の中で内戦が起こっている」と例えると「まさに内戦です」と即応し、免疫がいちどかかった病気のことをよく覚えていて二度と許さないというのは、朝鮮戦争やボスニア・ヘルツェゴビナの内戦で傷ついた人々の記憶がその後何十年も怨念として残ることと同じと説明していく。
人体と人間社会というのは、こんな鮮やかなアナロジーで説明できるものなのか。なるほどなあ。

病気にみまわれる、病気とたたかう、病気とつきあう。人間が決して避けることのできない難問のひとつに、朴訥なスタイルで向きあう森まゆみから、多くのことを吸収できる一冊です。

大野更紗と丁宗鐵を思い出しながら

自己免疫疾患といえば大野更紗『困ってる人』です。皮膚筋炎で全身が痛みにさらされる日々を綴った闘病記は壮絶です。彼女はいまもその難病とたたかいながら学者への道を歩んでいる。
最近では、丁宗鐵・南伸坊『丁先生、漢方って、おもしろいです。』のなかで、丁宗鐵が「免疫貯蓄の総量はみな同じ。ムダ遣いするな」と語っているのを聞いて、そゆことは中学生くらいの時に教えといてくれよな、と思いました。

森まゆみの「体の中で起きた内戦」のレポートに、快癒を祝って、乾杯。
明るい原田病日記―私の体の中で内戦が起こった -  明るい原田病日記: 私の体の中で内戦が起こった (ちくま文庫) -
森まゆみ『明るい原田病日記 私の体の中で内戦が起こった』亜紀書房、2010年、1600円+税。現在、ちくま文庫。
関連:2017年03月07日、森まゆみ『昭和の親が…』http://boketen.seesaa.net/article/447614846.html
2016年05月13日、大野更紗『シャバはつらいよ』http://boketen.seesaa.net/article/437773872.html
2015年04月13日、丁宗鐵・南伸坊『丁先生、漢方って…』http://boketen.seesaa.net/article/417170179.html
posted by 三鷹天狗 at 08:27| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月18日

春風亭一之輔・古今亭文菊二人会 5/14三鷹芸術文化センター

一之輔初体験。なるほど、一世代若い人たちの落語です。

世評のたかい春風亭一之輔、初体験です。
客席は、われわれの年代もたくさんいるが、30〜40代の、しかも女性客がかなり多い感じです。
開口一番(春風亭きいち)に続いて登場。
なんと「ああ、くたびれたなあ」という雰囲気の出です。マクラのでだしも「忙しすぎて疲れてます」感から入ってくる。なにしろ年間900席演じるという、超のつく売れっ子落語家、客席のほうもなじみの客が多い雰囲気。むかし小朝が「信者のみなさんようこそ」と入って笑わせたが、なにかそれに似た雰囲気が客席との間でかもしだされています。ふーむ。

マクラは「今日が誕生日なんです(笑いと拍手)」「いえ、私じゃなくて森元さんの(笑い)」「初めておみえになったかたには何のことやらでしょうが」とはじまる。
「森元さん」というのは三鷹芸術文化センターの名物企画者森元隆樹さんのこと。三鷹の落語会が、かくも充実して楽しいのはこの人の功労による。他の演者もよく彼の「開演前ご注意」をマクラにふります。この「二人会」も5年前にふたりが真打になったとほぼ同時に始まっており、売れ筋をはずさない森元さんの慧眼が光ります。
こどもが通っている小学校から落語会を頼まれた。まだ大学をでて2〜3年の若い女性教師から「一之輔さんは新進気鋭の落語家さんで」ってお前からいわれたくねえよッ、というあたりでもう会場はどっと沸きます。笑いをひきおこすスピードが早い。子どもたちは素直に笑ってくれているが自分の子どもだけは笑っていない。「受けてるかなあ、恥かかない程度に」という目で左右の雰囲気をみている…このマクラなら初天神か真田小僧、生意気なこどもが出てくるネタかな、とおもっていたら違いました。
美人のカミさんをもらうと早死にするという『短命』です。
『短命』は出入りの職人八五郎のボケで笑いをとる噺ですが、一之輔の場合、隠居のツッコミで笑いをとる。ものわかりが悪すぎる八五郎に「帰れッ!」とキレる隠居に笑いがくる。なるほど、笑いのリズムやポイントが他の落語家と違う。
とちゅう、わたしには聞きとれない固有名詞に客席のなかの若い層が笑う場面があり、なるほど、たぶん「団塊ジュニア」(30代後半40代前半)世代にうける言葉・情報・センスが、この人の落語の核になってるんでしょうね。マクラでトランプのことを「地球規模のジャイアン」といったらどっと受けたのも、ドラえもんが身体にしみついている世代向けです。
まさに「世代交代の旗手」、一世代若い人たちの落語家なんだなと了解しました。

相方の古今亭文菊は、2015年8月1日の悠遠忌で「吉村昭と学習院大学」という企画があり、学習院出身の落語家として登壇しました。そのときは『井戸の茶碗』をキレイに演じて、好印象でした。
独特の、踊るような、オネエ歩きが入っているような登壇で、クスクス笑いが起きています。「剛」の一之輔に「柔」の文菊という、対照の妙をねらった二人会というのが、出の姿からもうかがえます。
演じたのは『心眼』。極端に笑いの少ない人情話でした。
仲入りのあと再登壇した文菊が「さっきは変な噺をおきかせしてごめんなさい。日曜日の昼からやるような噺じゃなかったですね。客席の後ろ半分が寝ているんで焦りました。」とはじめて客席は大笑い。
『湯屋番』の、能天気な若旦那という、姿形からして文菊にいちばんぴったりの噺で大いにわかせました。
トリは一之輔の『五人廻し』。ふられて荒れる客たちを演じ分け、最後は相撲取りをだして「まわしの勝負なら、花魁にはかなわない」とさげる。もてない男の噺が好きなんだなあ。そういえば『一之輔、高座に粗忽の釘をうつ』(白夜書房、2012年)で、「部室落語」ということば使ってます。モテない野郎ばっかりが集まってぐしゃぐしゃとじゃれあってるような落語という意味で、男子校のむさい部活と落語をくっつけたようなことば。考えてみれば江戸は男ばっかし多くて、女日照りのようなところだったといいますから、あんがい、ことの本質をついてるのかもしれません。

軟弱文系サークルっぽい文菊。汗くさい体育会系部活っぽい一之輔。たしかに対照的、たいへん結構な二人会でした。

    演目
一目あがり きいち
短命    一之輔
心眼     文菊
   仲入り
湯屋番    文菊
五人廻し  一之輔

「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK、4月10日)でも取材対象に

チケットは2月に入手してあります。座席が250なので、油断するとすぐ売り切れる。
そしたら、4月10日のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に一之輔が登場したので驚きました。落語家でこの番組にとりあげられるのは二人目だそうです。一人目はかの人間国宝・柳家小三治です(2008年10月14日。リアルタイムで見ました)。その次が一之輔か。ふーむ。
放送のなかの一之輔は、こどもとじゃれあう、ゴミ捨てする、よく倒れないなと感心するほどのハードスケジュールの中で新作を創る、原稿を書く。カメラに向かって愛想よくふるまう場面はいっさいなし。こわもて、無愛想。最後に「これ、ギャラ出るんですか」というセリフをかまして終わる。
前に「酒とつまみと男と女」(2014〜15年。BSジャパン火曜21:00〜)という番組があり、「不良隠居」こと坂崎重盛の相手役「聞き上手」の落語家で一之輔がでていた。この時の一之輔は、老人・坂崎にどんな話でもあわせる柔らかい表情を見せていた。
「プロフェッショナル 仕事の流儀」での一之輔は、それとはぜんぜん違っていました。
実に興味深い。どんな噺家になっていくんだろう。

世代交代の旗手。マクロンの同級生(マクラのセリフから)一之輔に、乾杯。
一の輔2.jpg 一の輔.jpg
春風亭一之輔・古今亭文菊二人会 5月14日(日)14:00〜 三鷹芸術文化センター星のホール
関連:2015年08月02日、第七回悠遠忌 吉村昭と学習院大学http://boketen.seesaa.net/article/423439066.html
2014年06月04日、坂崎重盛『東京煮込み横丁評判記』http://boketen.seesaa.net/article/398659398.html
posted by 三鷹天狗 at 07:59| Comment(0) | 落語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする