2018年06月01日

菱田雄介『border │ korea』

38度線の南と北。分断された国の民族を、合わせ鏡のように見開きページに。

写真でなにができるかということの、目を見張らされるような実例です。
38度線の南と北に分断された民族が、いまどのように暮らし、生きているか。「ボーダー│コリア(=境界│コリア)」。タイトルの真ん中に、カベに見立てた、縦のケイ線が入っている。
赤ん坊、少年、少女、学生、若い母、中年の女性、兵士…。年齢・性別・職業などがほぼ釣り合っている南北のフツーの人たちが、左右見開きページで、背景やポーズなども比較的よく似せた構図で、たんたんと写っている。ことばによる説明はいっさいない。
手法としては、先に北朝鮮で撮影した写真があり、次に韓国で「この構図に似た写真が撮りたい」と協力を求めると、人々は興味深々という感じで協力してくれたそうです。南伸坊や清水ミチコに「顔マネ写真」という芸がありますが、これはいわば「構図マネ写真」です。なにかの冗談のようなユーモアがただよっている。
個人の肖像だけではなく、公園、地下鉄の入り口、海水浴場など、不特定多数の集まる公共空間も、ほぼ釣り合うように撮影されている。しかし、まったく釣り合いがとれない写真が一つだけあります。夜の歓楽街です。韓国側の居酒屋密集地域風の写真に対応する絵柄は、北朝鮮にはないらしく、ホテルの窓から撮ったような夜景でお茶をにごしています。
昼の繁華街、地下鉄車内など、人がたくさんいる場での写真では、韓国側はたくさんの人であふれ、北朝鮮側は閑散としている。南と北は、民主か独裁かという点で根本的に異なる政治体制ですが、庶民の生活レベルでは、消費の場面にくっきりとその違い・落差があらわれる。

1950〜60年代に、北朝鮮を「地上の楽園」と信じて多くの在日朝鮮人が帰国した。そのことには、日本の左翼陣営も逃れられない責任を負っている。帰国した彼らの運命が、どれほど悲惨なものであったか。加えて、横田めぐみさんなど拉致被害者の存在。いまや北朝鮮は、世界最悪の人権状況にある一党独裁国家だということに、議論の余地はありません。
「地上の楽園」から「地上の地獄」への、あまりにも極端なイメージの転換で、北朝鮮にはわたしたちと同じように暮らしている人々がいることを忘れがちになります。金一族にだまされ踊らされて、飢餓線上にあえいでいる悲惨な人たち…それが北に抱くイメージになってしまっています。しかしここには、そうした悲惨な写真は一枚もありません。

今から70数年前、日本人は「鬼畜米英」と叫んでいた。いっぽう米英側からみれば、ヒロヒトや東条にだまされ踊らされて丸腰で突撃してくる愚かな兵士、飢えた庶民としか見えなかったはず。しかし、当時の日本でも、庶民は泣いたり笑ったりして生きていた。
どれほど無惨な支配体制のもとでも、その人たちの多くは、ことさら自分が不幸だとも思わず、生まれた時からの独裁国家で必死と生きている。70数年前の日本の庶民に想いをはせれば、北に暮らす2500万の人々へのまなざしは、おのずから変わってくるはず。
この写真集は、政治体制がどうであれ、人は生きていくという単純な真実を伝えてきます。

米朝会談が「朝鮮戦争・終戦宣言」への一歩になることを願う。

実現するかどうかはまだ不明ですが、米朝首脳会談の予定日時が、目の前にせまっています。トランプと金正恩という、世界のきらわれ者が、いまだ休戦状態にある朝鮮戦争(1950〜53年)を終わらせ、「終戦宣言」にふみきれるか。ふたりへの嫌悪がどれほど強かろうと、関係ありません。終戦宣言がなされることが、朝鮮半島の非核化に向けた前提条件です。まさに歴史的な場面であり、会談が「朝鮮戦争・終戦宣言」への一歩になることを願います。
トランプの中止声明でいったん白紙に戻るかにみえた米朝会談が、韓国・文在寅大統領の活躍で修復されつつある。すばらしい。
トランプの中止声明をいちはやく承認した安倍政権は、米朝会談がおこなわれないこと、失敗することを願ったことが、世界中にバレバレです。修復と開催が決まると、自分の政権期間中なにひとつ手をうたなかった拉致問題でトランプにすがる。なんという情けない。
歴史は、南北に分断された民族の、平和的な再統一を可能とする方向に動いていると、信じたい。

菱田雄介の卓抜な着眼、朝鮮半島の平和への願いに、乾杯。
border | korea
菱田雄介『border|korea』 リブロアルテ、2017年、5500円+税。
関連:写真家・菱田雄介が見た南北のボーダーと、分断された世界に対して写真ができることhttps://ztokyo.net/articles/korea_hishidayusuke/
posted by 呆け天 at 09:14| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月30日

映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよV』(監督:山田洋次)

そうか、へそくりは冷蔵庫の奥に隠すのか

山田洋次監督『家族はつらいよ』シリーズの第3作。同じ顔ぶれの役者の家族もの、という意味では第4作ともいえるか。どうやら、寅さんシリーズのような感じで、続く気配もしてきた。

実際には、このごろの日本ではありえないような家族の姿です。
横浜で3世帯同居する平田家は、老親・長男夫婦・孫ふたりの6人家族。
すぐ行き来できる距離に、税理士事務所を開いている長女とその連れ合いが住んでいる。
母親のお気に入りの次男は、賢く美しい働き者の看護士と新婚で、やはり近くにいる。
この4夫婦が、なにかといえば全員集合し、家族会議をやっては、あれこれもめる。
いまどきそういう家族いないでしょうと、設定だけで引く人もいそうな感じですが、わたしは山田洋次が作った映画というだけで満足なので、なんの不満もありません。

第4作の主人公は、長男夫婦の妻・史枝(夏川結衣)です。
家事のさなかについ居眠りしてしまったところを空き巣に入られる。実直な老サラリーマン風のいでたちのコソ泥(笹野高史)は、手慣れた雰囲気で冷蔵庫の奥に隠してある史枝のへそくり約40万円をみつけだす。
目ざめて泥棒と遭遇した史枝は、恐怖でへたりこみ、叫ぶこともできない。コソ泥は歩いて去っていく途中、すれちがったお巡りさんに笑顔で会釈する…。みごとな数分の映像です。

そうか、今どきのへそくりは冷蔵庫の中に隠すのか。きっと、いまいちばんありがちな隠し場所なんだろうな。昔の映画では、なげしにかかっている先祖の写真の裏側というのがあったし、ぬかづけの底というのもあった。
コソ泥がなんの迷いもなく、冷蔵庫の、しかも小さい引き出しの奥に手をいれる。あんのじょう、封筒に入った札束がでてくる。こういうあるある感は、寅さん映画のいたるところに散りばめられていました(笹野は、寅さん第40作『寅次郎サラダ記念日』でもコソ泥役やっています)。
こんな場面だけでも、山田洋次の映画をみた満足感があります。

たまたま香港出張中だった夫・幸之助(西村まさ彦)は、妻の恐怖に思いをはせるゆとりもなく「俺が働いているときに昼寝とはいい身分だ」「俺の稼いだ金でへそくりをしていたのか!」など、いまどきそういうセリフをいう夫はいないでしょうという逆上したセリフを連発。
アタマにきた史枝は、たまっていた不満を爆発させて家出をします。
といっても、次男の妻・憲子(蒼井優)にだけは行き先(いまは誰も住んでいない佐久市茂田井の実家)を伝えているので、行方不明ではありません。ま、やがて夫にも伝わって迎えに来ることを想定したプチ家出です。

史枝の田舎・佐久市茂田井の映像がすばらしい。古い宿場町の風情、老舗の酒造に嫁いだ同級生との交歓、「別れて帰ってきてしまえ。ミス茂田井だったあんたが帰ってきたら…」のセリフで、そうだよな、この夏川結衣という女優、ずいぶん美人だよななどと思わされたり。
最後は、本シリーズの定番・鰻の特上の出前で締める。

平日の昼、客席はもれなく高齢者です。泣いたり笑ったり、途中でトイレに行く人もチラホラというけっこうな上映でした。

イオンシネマ・シアタス調布、なかなかいい映画館です

イオンシネマ・シアタス調布は3回目。これまでみた映画はイマイチでブログに書く気になれませんでしたが、今回やっとお気に入りの映画で大けっこう。4Dとかは最初から見る気はないので、ごく普通の映画だけみてます。
チケットの買い方が楽。いまどきの映画館は、客があれこれキーボード操作、ストレスたまる時間かかるでウンザリ。ここはキーボード操作機はもちろん何台もありますが、カウンター嬢がにこやかに「シニアでよろしかったでしょうか」などと対人販売してくれる。
座席がゆとり。かなりいいほうの新宿ピカデリーだって座席の前の空間がなくて人は通りにくい。ここは、客が立ったり体をねじったりしなくとも前を通れる。客席の勾配はかなり急なので、前の人の頭が気になるということもない。

ぜひ、ながいこと栄えて、調布の映画文化をささえてほしい。
山田洋次『家族はつらいよ』シリーズが何作も続くことを祈って、乾杯。
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映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよV』(監督:山田洋次)5月29日13:30〜イオンシネマ・シアタス調布
関連:2016年03月25日、映画『家族はつらいよ』http://boketen.seesaa.net/article/435607619.html
posted by 呆け天 at 09:21| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月28日

第11回(通算26回)みんなちがってみんないい

八王子の河川敷で、ゆっくりゆったり

5月27日(日)八王子市役所前の浅川河川敷広場で行われた「第11回(通算26回)みんなちがってみんないい」をのぞいてきました。
多種多様な音楽、踊り、体験イベント、エスニック料理、雑貨などであふれています。ふりそそぐ陽光のなかで、色彩、匂い、音がごたまぜになって心地いい。
カルビ串焼き、鮎の串焼きなどほおばりながら、生ビールがすいすいと体内に入っていきます。ゴクラクゴクラク。会場をぶらぶらしていると、青空ヨガ、羊の毛刈り、人間ジュークボックスなど楽しいイベントがたくさん。
踊りや音楽のステージは東西二つもあり、沖縄エイサー、タヒチダンスなど、18ものグループが出演しています。
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わたしが特にこころ魅かれたのは「AYNU RUTONITE(アイヌ ルトゥムテ)」の演奏と踊りです。
ルトゥムテとは、ル(道)トゥムテ(照らす)。若い世代の道を照らす、という意味だそうで、明るいユーモアがあり、深い祈りがあり、すばらしい演奏でした。演者の一人は幼い少女、愛くるしく、こまちゃくれていて、なんだか見ているだけで幸せな気持ちになります。
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こういうイベントが26年も続いている。八王子という街のふところの深さに感嘆します。
金子みすずの童謡「わたしと小鳥とすずと」からとられた「すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい」は、いまやシンプルな「多文化共生」のメッセージとして世の中に浸透しています。連れ合いが参加している沖縄三線サークルのなかまが、25年前からスタッフとして関わっている。あいさつに行って雑談すると、「スタッフの高齢化が問題」とのことです。若い担い手が、次代に引き継いでいってほしい、すばらしいイベントです。

みんなちがってみんないい、スタッフと出演者に、賞賛の乾杯。
「第11回(通算26回)多文化・環境共生型野外フリーイベント みんなちがってみんないい」5月27日(日)10:30〜16:30。八王子市役所前の浅川河川敷広場。参加無料。
posted by 呆け天 at 10:15| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする