2018年01月26日

金革(キムヒョク)『自由を盗んだ少年 北朝鮮悪童日記』

自由のために、生命を賭けたコッチェビの脱北記

北朝鮮で、7歳から18歳までコッチェビ(浮浪児、ストリート・チェルドレン、アウトロー)として生き抜き、脱北者となった青年の手記です。
「今日の食事」のために、ものもらい、ひったくり、窃盗、スリなどあらゆることをする。飢えのまえでは、正邪も良否もない。孤児院や感化院など、じっさいには不良少年を飢えや体罰で抹殺するための施設での暮らし。そして命がけの脱出行。冒頭30ページを費やして描写される中国からモンゴルへの国境超えは、さながらサスペンス映画、冒険活劇映画の趣きです。
運よく韓国にたどりついた金革は、自分の人生を自分で選ぶことができる韓国を、天国と呼ぶ。奨学金を受けて大学院に学び、修士論文を書くまでにいたる。
よくぞ生き抜いた。
人間は、食うためならなんでもする。自由のためなら、生命を賭ける。
国民を飢えさせ自由を剥奪する金王朝は、崩壊する以外にないのだということが、なまなましく伝わってきます。

金革の修士論文は、版元の大田出版が「補論・北朝鮮のコッチェビ研究」として、Web公開サービスをしています。大田出版、エライ!
北朝鮮の現状を、平易な文体でレポート・分析しており、広く読まれてほしい価値ある論文です。
北朝鮮当局は、大きく3つの方法で国民を統制している。
「徹底した配給制度のもと物質で人を統制する物質統制、『唯一指導体制』の正当性を浸透させる理念統制、そして警察の徹底した監視と処罰を通じて住民を統制する警察統制だ。これは北朝鮮社会のすべての住民に例外なく適用される。」
国民を「3階層45成分」に分類し、食糧配給、住居、教育、職業…すべてについて徹底的に差別・監視・統制をする。
金革は、もはやコッチェビ(統制社会の枠外の人間たち)は、北朝鮮社会が排除できない闇市場を形成していると書いています。ソ連崩壊時のロシアマフィアが果たした役割りと同種のものになっている。北朝鮮の崩壊の一要因となり、かつ、崩壊時の混乱を最小限に止めるための装置にもなりうると予見している。
金革の予見の当否は分かりませんが、悪夢のような統制社会からこぼれおちざるを得ない人びとに、幸あれと祈らずにはいられません。

金王朝崩壊は、どうやってもたらされるのか

佐藤優は、武力ではなく経済で北朝鮮の独裁を終わらせるべきと主張しています。ハリネズミのようになっている北朝鮮を、武力で制圧しようとすれば途方もない犠牲が発生する。戦争を避け、金一族の生命を保証し、改革開放経済にひきこんで国民に豊かさをもたらすべきだ。国民の「欲望」を解放すれば、欲望の阻害要因である金王朝独裁は退場せざるをえない、という筋書きです。
金革の、コッチェビ闇市場が統制社会を揺るがすという考えは、佐藤優の主張と通底するところがあります。

苦難を経た金革は、終章で言います。
「結局僕の結論はこうだ。赤(共産主義)か青(韓国人が好む色)のどちらかでなければならないわけじゃない、腹を満たすことができ、誰にも束縛されない生活ができるのなら何色でも関係ないじゃないか?」

生き抜いたコッチェビをたたえて、乾杯。
自由を盗んだ少年−−北朝鮮 悪童日記 -
金革(キムヒョク)『自由を盗んだ少年 北朝鮮悪童日記』太田出版、2017年、1400円+税。
関連:金革「北朝鮮のコッチェビ研究」http://www.ohtabooks.com/press/2017/09/08124500.html
2017年10月12日、佐藤優「トランプの『北の核容認』に備えよ」http://boketen.seesaa.net/article/454109454.html
posted by 呆け天 at 08:38| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月24日

深大寺、神代植物公園、雪に覆われる

4年ぶりの大雪となった東京。
散歩コースの、深大寺も神代植物公園も、すっぽりと雪に包まれました。
近所総出の道路雪かきが一段落したあと、さっそくチェックにでかけました。

深大寺の山門は雪がよく似合います。境内も雪で埋まっています。
布袋様、水車小屋、数ある蕎麦屋。みな雪に覆われています。
神代植物公園は職員が人ひとり通れる通路を作ってくれています。おつかれさまです。
雪景色の神代植物公園を撮ろうと、かなりの数のアマチュアカメラマンが来園しています。
リタイアした身には、雪景色はひたすら美しい。ただしこれは、降るのが一晩だけ、一夜明ければ快晴のもとで雪が溶けていく地だからいえるセリフです。
来る日も来る日も雪が降りつづける故郷・秋田に暮らす親戚や友人からすれば「なにを寝言こいでる」というハナシです。ま、人間は勝手な生きものだとかんべんしてもらいます。

雪におおわれた深大寺と神代植物公園に、乾杯。
posted by 呆け天 at 10:19| Comment(0) | 散歩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月22日

キタコマ沖縄映画祭2018 愉快なプレイベント

冊封使・徐葆光(じょ・ほうこう)は、「破壊される前の琉球」の姿を書き残した。

朝日新聞の告知記事で知った「キタコマ沖縄映画祭2018」のプレイベント(1月21日)に参加しました。
キタコマとは、小田急線・喜多見駅(世田谷区)と狛江駅をさす。隣り合わせの両駅近くにある公民館やイベントホールを使って約2週間、20本近い沖縄関連映画を上映する。
正式名称は「第4回 喜多見と狛江で小さな沖縄映画+α(色んなライブ)祭」というもので、ネーミングから分かるようにマイナー・手づくり感たっぷりの催しです。

プレイベントは入場無料で、「徐葆光が見た琉球」というドキュメンタリー映画の上映からはじまりました。
徐葆光(じょ・ほうこう)は、18世紀の中国の官僚で、冊封副使として琉球を訪れた。そのこまやかな観察力で《中山伝信録》や《奉使琉球詩》などの第一級の歴史資料を残した。その記述をルーツとして葛飾北斎の「琉球八景」が描かれた…。
そうでしたか、初めて知りました。
北斎の「琉球八景」は、雪景色があったり富士山が見えたりという、うけるためならなんでも描く浮世絵師の本領を発揮した怪作です。そのもとになったのは、冊封使・周煌の絵図「中山八景」であり、周煌は徐葆光が琉球を描写した漢詩や紀行文を基にその絵図を描いた。
徐葆光が書き残した琉球の政治・文化・風俗・人間の記述は、「薩摩侵略」「琉球処分」「アメリカによる占領」という、三つの破壊によって跡形もなくされた琉球王国の姿を、今に伝える。この記述を基に、冊封使を迎えるときの儀礼、饗宴の料理、舞踊・芸能をできるかぎり忠実に再現しようとする試みが、さまざまにおこなわれている。
なるほどなあ。歴史文献というものが持つ力というのは、たいしたものです。
上海生まれで、徐葆光に関する数々の歴史的発見も行ってきた女性研究家ウ・ヤンファの、歯切れのよい解説、中国ロケもふんだんにもりこまれ、清とヤマトの二重支配をうける琉球の姿が、いきいきと伝わってきます。

どういう形になるかは分かりませんが、やがて必ず独立への道を歩きはじめるだろう沖縄の、学究的な基礎工事の一つと感じました。

盛りだくさんの演しもの、愉快な司会進行。

映画のあとは、琉球舞踊、琉球民謡など盛りだくさんの演しもの。そのどれもが結構でしたが、特にえぐさゆうこの「朝顔節」(奄美民謡)はすばらしいものでした。えぐさの唄にあわせて演じられた井上ミウの舞踊も魅力的。これで無料では申し訳ないので、えぐさのCD、泡盛、ビール、つまみ、おみやげなどいろいろ購入して、ささやかながら売り上げに寄与しました。
演しものと同じくらい面白かったのが、実行委員長・高山正樹の「しゃべりすぎる」司会進行です。
「渋谷とか下北沢でやればこの何倍も集まることは分かってるの。だけど、この辺鄙なところでやって、ご近所の人が来てくれる催しをやりたいの。」
「反基地とか分かりやすい主張なら記事にしやすいんだけど、と新聞社の人はいう。わたしは、基地に賛成も、基地に反対も、ひっくるめて沖縄だと思ってる。」
「沖縄独立っていうけど、本土と沖縄本島の距離より、本島と八重山(石垣、宮古等)の距離が遠いよ。本島が独立すんなら俺たちは島ごとに独立するって言ってるよ。どうすんの。」
「全労連の集会で琉球舞踊やってくれっていうから行ってみたら、始まる前の人寄せだという。舞踊は拒否して、唄だけやったけど、だれも聞いてやしない。それで小池という男が出てきたらみんな食いつくような目をして聞いている。北朝鮮かっていうの。」

いやはや、いいたか放題、自由奔放、思わず吹き出す毒舌漫談。
主義は嫌いだ、ありのままの沖縄とつきあっていこうよという、熱いメッセージが伝わってきました。高山の熱に感応して、1月26日〜2月5日のあいだに、何度か足を運ぼうと思います。
辺鄙な地の、マイナーな「沖縄映画+α祭」に、乾杯。
関連:キタコマ沖縄映画祭2018 http://kitamitokomae-artfes.com/okinawa_4th/index.html
posted by 呆け天 at 12:06| Comment(0) | 沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする