2017年09月24日

ノーム・チョムスキーほか『人類の未来 AI、経済、民主主義』

理解できないまでも、賢い人たちの話しを聞いてみる

サイエンスライター・吉成真由美が、AI(人工知能)、経済、民主主義などのテーマについて、その分野の最前線を走っている碩学5人にインタビューした一冊。5年前に出版された『知の逆転』の続編という位置づけです。
それにしてもインタビューアーの吉成という人がすごい。学者たちからただ聞いているのではなく、うてば響くように二の矢三の矢を放っていく。学者たちの持論・主張を熟知したうえで、読者にも伝わるように彼らの話しをひきだし、ある時は専門外の領域まで語らせる。学術世界の阿川佐和子です。
とてもではないが、学者ご本人の著書をまともに読む気力・知力に欠ける老人にとっては、じつにありがたいご仁です。

1、トランプ政権と民主主義のゆくえ ─ノーム・チョムスキー
この人は『知の逆転』にも登場していますから、吉成が「世界はいまどうなっているか」を聞くのはこの人!と思っているんでしょう。『知の逆転』では、民主主義、核廃絶、中東の混乱についての欧米の責任などについて歯切れよく語っていましたが、本書ではやや精彩を欠きます。
「トランプの確かな点は、彼が不確かだということです」とし、彼がなにをするのかはまったくわからないとサジを投げています。あそこまでハチャメチャだと、こういう筋道だった理性の人の範疇を越えるんでしょうね。
トランプについては映画監督マイケル・ムーアにまかせておいたほうが良さそうです。
意外なことに、チョムスキーは、シンギュラリティ(AIが人間を超えるとき)を全面否定しています。
「空想です。完全なるファンタジー。信ずるべき何ものにも基づいていません」と断言する。
これは、次のレイ・カーツワイルのインタビューとまったくの正反対で、笑えます。

2、シンギュラリティは本当に近いのか? ─レイ・カーツワイル
カーツワイルは2029年(わずか12年後)にはAIがすべての面で人間を凌駕するようになり、2045年には人間の知能が現在の10億倍にもなる飛躍的変化をとげる=シンギュラリティがやってくると断言します。その結果なにがおきるか。
@人間は生命をデザインするようになり、不老不死を手にする。
A20年以内に、全エネルギーは太陽エネルギーで賄えるようになる。
B衣食住の革命。食料はすべてビルの中でつくられ食料不足はなくなる。衣服は3Dプリンターで自由にプリントできるようになる。住居も同様に3Dプリンターで、安価に短時間でつくられる。
まるでSF世界ですが、カーツワイルはこれらは実現することがもはや約束されていると断言します。人間がAIの奴隷になるのではなく、(AIと相関して)人間自身に爆発的な知能の飛躍がおきる。人間は「危機を乗り越えてサバイブし」太陽系のエンジニアリング、銀河系のエンジニアリング、宇宙全体を相手にするエンジニアリングができるようになる。「それが進化のゴールである」と言いきります。
チョムスキーが正しいのか、カーツワイルが正しいのか。
ま、読む限り、素人の判定ではカーツワイルに分があるとみます。2045年まで生きることは不可能ですが、2029年まで生きている可能性はある。カーツワイルの語る世界をながめながら死んでいくことになりそうな気がします。
ただしカーツワイルは、政治については一言も発言していません。その革命的な技術進歩が、どんな政治システムのもとで運用されているのかが、気にかかります。

3、グローバリゼーションと世界経済のゆくえーマーティン・ウルフ
フィナンシャルタイムズの経済論説主幹であり、以前に7年間、世界銀行のシニア・エコノミストでもあった。
グローバリゼーションこそがアジア(特に中国)を貧しさから脱却させた。それは正しかったが「われわれは税の分配などについてもっと介入すべきでした。もっとデンマークやスエーデンのような、福祉国家を目指すべきだった。」
世界の、繁栄した国々はすべて民主主義の国であることを「驚くべきこと」と表現し、どれほど脆さを内包したシステムだとしても、民主主義を守り、独裁主義を許してはならないと説く。
理性的であるべきで、理想主義に走ってはならないという、落ちついた保守的なものいいが、とても心地よい。

4、都市とライフスタイルのゆくえービャルケ・インゲルス
1974年デンマーク生まれの建築家。その建築にかかわるすべての人々(施主、自治体、居住者、利用者、企業…)の要求を満足させる建築というコンセプトで、世界のいろんなところでプロジェクトを推進している。
コペンハーゲンのゴミ処理発電所と公園の融合など、うそだろというほど美しくかつ合理的・機能的だ。環境をデザインすれば人の暮らし方も変わるという実践が、とても面白い。こういう建築家が、世界中にでてきているみたいで頼もしい。

5、気候変動モデル懐疑論ーフリーマン・ダイソン
「アインシュタインの後継者」と尊敬される理論物理学者が、「気候科学はもはや宗教と化している」と気候温暖化説に異議を唱える。炭素削減に費やしている議論、おカネを、被災地域の開発・救援にまわせというこのひとの意見が、科学界の主流にどうしてならないんだろう。不思議です。

カーツワイルの描く人類の未来を民主主義のもとで

『知の逆転』ではジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』の著者)が、世界各国の格差を是正するための解決策は「世界中の生活水準の均衡化」しかないと主張していました。中国・インド・ブラジルなどの開発途上国が先進国と同じ生活水準を求めれば、世界はそれを支えきれない。だから、開発途上国の生活水準をあげながら、欧米と日本の生活水準を下げていくしかないというわけです。なんだか、暗鬱になるご意見でした。
ところが本書では、カーツワイルが「さあさ、みなさんご陽気に!」とはやし立ててくれます。なんだか、こっちに乗りたくなります。凡人としては、暗いハナシより明るいハナシのほうが嬉しいもんね。
ただし問題は、カーツワイルの描く未来は、どんな政治システムのもとでなのか、です。マーティン・ウルフの、繁栄した社会はすべて民主主義のシステムのもとであったという指摘を、信じたい。

賢い人たちの、人類の未来についての考察に、乾杯。
人類の未来―AI、経済、民主主義 (NHK出版新書 513) -
ノーム・チョムスキーほか『人類の未来 AI、経済、民主主義』NHK出版新書、2017年、940円+税。

付記:チョムスキーの発言で大きな疑問が一つ。プーチンのロシアにふれたくだりで、1990年代、ソ連崩壊後のロシアで「スターリンの粛清スケールに匹敵するといってもいいくらい、何百万人もの人たちが死んでいます」と言っている。これには驚きました。ソ連崩壊がハイパーインフレをうみ、市民の生活がギリギリまで追いつめられたことはあらゆる本に書かれている。しかし、何百万人もの餓死者がでたというニュースは知らない。佐藤優の書いたものなどで、あの混乱で餓死者が出なかったのは、近郊に小さな畑つきの別荘をもつことが庶民レベルでできていたから、とか、互助精神が生きていたなどのレポートを読んで感心していた。チョムスキーのような学者が口からでまかせにこういうことをいうはずはなかろうし、吉成も訂正せず、かつこのように本にしたということは自信があってのことなのだろう。調べてみる必要がある。
posted by 三鷹天狗 at 09:37| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月22日

沖縄の友人より(38)平和キャンプ石垣島

日韓台の80人が交流、若者を中心に。
ー国境を越えて手をつなごうー平和の海・国際ピースキャンプ

平和の海・国際ピースキャンプが8月16〜20日の4泊5日の日程で、石垣青少年の家を舞台に開催された。済州島をはじめ韓国、台湾、日本本土、沖縄島、宮古、与那国そして石垣の各島から総勢80人にのぼる人々が集まった。2014年の済州に始まり、沖縄、台湾と続き、第4回目の今年は石垣島での開催となった。
夜の森の鳴き声や星座の観察、国際ピースシンポジウム、石垣の戦跡巡り、戦争体験者の講話、ミサイル配備が計画される地域住民との交流、東アジアの連帯に向けた討論、マングローブ散策やカヌー体験、キャンプファイアー、宣言発表、ピースウォークなど多彩な内容だ。
石垣島には米軍の上陸がなかったが、宮古島と合わせて3万人もの日本軍が陣地を構え、住民の労力・食料を奪っただけでなく、波照間島の全住民をはじめ各地の住民をマラリア地域に強制移住させ3600人以上の命を奪った。1997年に建てられた「八重山戦争マラリア犠牲者慰霊の塔」は、日本軍の戦争犯罪を告発する慰霊碑だ。
来年は済州島で開催される。平和を求める草の根の交流は、未来をきりひらく貴重な実践です。
@2017.8.16〜20 石垣島でのアジア平和の海キャンプ。日本軍の強制移住により3600人以上が死亡した「戦争マラリア」の碑。A手書きの絵を説明しながら戦争体験を語る潮平正道さん。B沖縄戦当時の海軍平得飛行場の航空機掩体。C台湾チームが原発に反対する運動を報告。D韓国チームが持参した横断幕。
㉓2017.8.16~20 石垣島.jpg@㉔2017.8.16~20 潮平正道.jpgA
㉒2017.8.16~20 石垣島.jpgB㉑2017.8.16~20 台湾チーム.jpgCS16~20 韓国チーム.jpgD

10月25日には、カヌー100艇による海上座り込みを予定
ゲート前座り込みは、ねばり強く続いている

朝鮮半島の危機のエスカレートに対応して沖縄基地は戦闘機、偵察機の離発着、海兵隊の訓練でフル稼働している。一番の問題は67年前の1950年に勃発した朝鮮戦争がまだ終わっていないことだ。1953年の休戦協定はあるが、戦争を終結させる講和はまだない。米国、朝鮮国をはじめ関係国の講和条約により朝鮮戦争に終止符を打たなければならない。
沖縄県が提訴した辺野古・大浦湾の埋立工事差し止め請求訴訟の第一回口頭弁論が10月10日に開かれる。10月25日にはヘリ基地反対協議会がカヌー100艇による海上座り込みを行なう。

E9.16 キャンプ・シュワブゲート前。議員行動日の9.16土曜行動には、照屋寛徳、赤嶺政賢、二人の衆院議員をはじめ、県議、市町村議を含め150人がゲート前に座り込んだ。F9.16 広島県尾道市の退職教職員の会。G9.15違法ダンプの取り締まりを求めて、 沖縄総合事務局との交渉の席に着く県民会議のメンバー。新都心の合同庁舎5階。
H9.13 警官隊の強制排除に抗し、違法な埋立工事の中止を訴える。I9.13「沖縄と連帯する島根の会」。J9.9 メインゲート前で、不法な埋立て工事に抗議してデモ。K9.9 米軍人・軍属の車の前に立ちはだかり、新基地NO!をアピール。
E2017.9.13 米軍車両.jpgH@2017.9.13 島根の会.jpgIR2017.9.9.jpgJO2017.9.9.jpgK
L9.7 沖縄戦の日本軍「降伏調印式」の日に合わせて開催された「命どぅ宝うまんちゅコンサート」。M8.31 高江。H・Gゲート(旧揚水発電所ゲート)を封鎖し、ヘリパッド工事の中止を訴えN8.30キャンプ前、兵庫県尼崎市から参加の21人
L2017.9.7 命どぅ宝うまんちゅコンサート.jpgL㉘2017.8.31 高江%u3002H・Gゲート.jpgM㉗2017.8.3兵庫県尼崎市.jpgN
創意・工夫をこらした沖縄のみなさんのたたかいに、敬意と連帯を表します。
10・25海上行動.jpg
posted by 三鷹天狗 at 09:45| Comment(0) | 沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月19日

亡き友を偲んで、秋田に集う

8月に亡くなった旧友を悼んで、「偲ぶ会」が秋田市で開かれ、参加した。参集したのは全員60代後半〜70代の老人10数名。故人との思い出話しを一人ひとりが語り、酒好きだった故人がその場にいるような酒席となった。
亡くなったKさんは、高校時代の先輩であり、「番長グループ」の一人として知られた、いまでいうツッパリだった。ただ、50数年前の秋田県南部の不良というのは、大坂の『岸和田少年愚連隊』(中場利一)に出てくるような不良ではまったくなく、他校の腕っぷし自慢とケンカしたり、隠れて酒を飲んだ、タバコを吸ったという程度の、牧歌的なものだった。
そのKさんが、やや遅れて学生運動に参加し、第2次羽田闘争(1967年11月12日)であわや失明というケガをおったあたりから、東北地方にも「新左翼」や「全共闘」の影響が広がっていった…。
当日は秋田城跡・千秋公園でおおがかりな花火大会が行われており、宴席となった居酒屋「からす森」2階の窓からもときおり花火が見えるという絶好のロケーション。夕方5時に始まった会が、おひらきとなったのが10時。酒豪だったKさんを偲ぶのにふさわしい、酒また酒の会でした。
Kさん、おつかれさまでした。残された者たちは、もう少し生きてからそちらに行きます。

次の日は、千秋公園、美術館、民俗芸能伝承館などを歩きまわって、久々の秋田にひたりました。
千秋公園。城跡にしてはゆるやかな丘です。いかにも太平の江戸時代の城にふさわしい。春はつつじ、秋は紅葉が美しい公園ですが、この時期は緑の濃さ・深さが印象に残ります。お濠は、蓮で埋めつくされています。
千秋公園6.jpg 千秋公園.jpg 千秋3.jpg
秋田県立美術館。2013年に新館がオープン。旧館同様、藤田嗣治の大作『秋田の行事』が圧倒的なメインです。写真撮影禁止なのでWebサイトにある写真を借りますが、いつ見てもみごとな作品です。2階ラウンジからの、美術館の水庭と千秋公園の堀を一体化させた景観が秀逸です。
秋田の行事.jpg 県立美術館.jpg
民俗芸能伝承館・ねぶり流し館では、ちょうど竿燈の実演・体験中でした。2階に展示の秋田萬歳の人形が、なぜか志の輔によく似ている。
民俗伝統.jpg 竿燈.jpg 秋田萬歳.jpg
赤レンガ郷土館は1912年(明治45年)建築の旧秋田銀行本店を活用した施設で、国の重要文化財指定を受けています。秋田の風景を版画にした勝平得之(かつひらとくし)のすばらしい作品が常設展示されている。企画展で、秋田市出身のマンガ家・倉田よしみの作品展が行われており『味いちもんめ』の原画やみごとなイラスト多数が展示されています。
赤レンガ2.jpg 勝平得.jpg 倉田よしみ.jpg
東海林太郎音楽館を初めて見学。私設で、無料で、こういう記念館を運営しているのはたいしたものです。同じ場所に「大鵬」ギャラリーもある。ふたつを支えているのは秋田では有名な老舗の菓子舗「榮太楼」です。創業1883年(明治16年)ですから、134年の歴史がある。「榮太楼」は戦後、系列の旅館「榮太楼」を営んだ(1947年〜2006年)。秋田巡業のとき宿泊した横綱大鵬が、旅館の長女・小国芳子さんを見染めて結婚したエピソードは、大鵬の伝記のハイライトのひとつになっています。
旧友、Kさんの冥福を祈って、献杯。
ふるさと秋田の、弥栄を祈って、乾杯。
2015年01月28日、中場利一『この子オレの子!』http://boketen.seesaa.net/article/413090688.html
posted by 三鷹天狗 at 05:16| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする