2017年12月26日

プロフェッショナル 仕事の流儀「プロ野球スカウト・苑田聡彦」

「誠意は金じゃ」と素人さんがいい始めた。そんなやつ、いらん!

12月25日、NHKプロフェッショナル「仕事の流儀」は、広島カープスカウト・苑田聡彦。プロ野球ファンにとっては周知の有名人でしょうが、私はこの人の名前も存在も、この番組で初めて知りました。
エライ人がいるもんですね。
選手の平均年俸がソフトバンクや巨人の半分以下という球団が、2年連続でセリーグを制した。それは、レギュラー全員が育成選手という、貧乏球団故の智恵と努力による、というくらいのことはなんとなく知っていた。囲碁仲間に広島出身の人がいて、カープ愛を熱く語りますしね。
球界最年長72歳の現役スカウト・苑田は、いまも年間300試合以上を見にいく。データではなく、生身の人間を見て、その素質や将来性を見抜く。
バッターのなにを見るか。三振の仕方を見る。あてに行くのではなく、振り抜くバッターか否か。
ピッチャーのなにを見るか。内野手の動きを見る。1球ごとに内野手がポジションを調整する投手は、チームメートに信頼されるコントロールを持っている。
そういった、プロならではの視線も、なるほどなあと思わせます。
まだ他球団が目をつけていないダイヤの原石を、いかにみつけるか。そのことに心血を注いできた苑田が大きなピンチに立たされたのは、ドラフトに「逆指名」がもちこまれた35年前だった。「誠意は金じゃ」と素人が言いはじめた。どれほど熱意をもって掘り起こした選手も、競合する他球団があらわれて金でもっていかれる。
苑田はいう。「まだ働きもせんうちに何億よこせとか、なにを言うとるんじゃ。そんなやつ、いらん!」
苑田聡彦、カッコいい!

プロ野球球団のスカウトの活動を、内側から6ヵ月も撮影し続けるというのは、きわめて異例のこと。ドラフト会議に臨む前の、作戦会議にまでカメラが入る。「放送はドラフト後」という約束だったとはいえ、よくも撮らせたものです。
広陵高校・中村奨成捕手というスター選手が広島からでてきた。これを取りにいかないわけにはいかない。しかし広島は昨年、坂倉将吾という捕手をとっており、2軍で急成長している。中村をとれば、1年違いの有力選手二人がポジション争いをすることになる。苑田は、中村には内野手としてかつての長島のような輝きをみせる可能性があると考える…。

中日との競合で中村を引き当てる場面をハイライトに、番組はつくられています。「神様はみている」というように結ばれています。しかし、たとえ中村を中日にもっていかれても、苑田は別の作戦を組み立てたでしょう。
番組の最後に「プロフェッショナルとは」という、決まりの質問があり、それぞれにいい言葉が発せられるのですが、苑田はまるで力まずにいう。
「この仕事は野球が好きじゃないとできない。足を運ぶだけです」
職人さんの言葉です。

こういう人がいるんだなあ。どんなビジネスの現場にも。

「誠意をみせろ」と金を脅し取るのは、暴力団の常套句です。それを35年くらい前に、素人が言いはじめた。行きついた先が、あの狂乱のバブル経済だったなあ。
たぶん、わたしなんかがプロ野球に魅力を感じなくなったのは、そのころと重なっている。金満・金権チームが支配するスポーツ、んなもの誰が見るか、というアンチ巨人感情のはてのプロ野球離れだった。
だが、どんなビジネスの現場にもエライ人はいるもんですね。こういう人が見出した選手が、どういう風に成長し花ひらくのか。はたまた夢破れてどんな第2の人生を歩むのか。そういう目で見始めたら、はてしない奥行きのあるドラマが、プロ野球の世界にはあります。

「そんなやつ、いらん!」という辣腕スカウトの矜持に、乾杯。

プロフェッショナル 仕事の流儀「プロ野球スカウト・苑田聡彦」2017年12月25日(月) 午後10時00分(50分)
関連:2014年01月17日、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」井山裕太の勇姿に見とれる
http://boketen.seesaa.net/article/385396023.html
posted by 呆け天 at 10:14| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月16日

なでしこジャパンの未来に期待する

東アジアEー1選手権で優勝を逃すも、新戦力も芽吹く

高倉麻子監督が指揮する初めての公式戦、東アジアEー1選手権にのぞんだなでしこジャパンは、韓国との第1戦、中国との第2戦を勝利するも、優勝をかけた昨日(12月15日)の北朝鮮戦では、力及ばず0−2で敗れた。
あの衝撃的な「オリンピックアジア予選敗退」から、高倉監督のもとで再出発をはかって1年半、チームはいまだ発展途上であり、世界と互角にたたかう段階にはいたっていない。
しかし、旧なでしこジャパンの主力で常時招集されるのは阪口・熊谷・鮫島の3人だけという、やや過激とも思える世代交代をしながら、新戦力の発掘を続ける高倉監督のねらいは、2年後3年後のW杯とオリンピックだ。
FW横山久美(今回は海外チーム所属のため未招集)、MF長谷川唯(初戦韓国戦でケガ)といったすばらしい選手もでてきている。
若い彼女たちが揺るぎない主力となったチームに、必要に応じて川澄・永里(大儀見)といった旧なでしこの主力が控えとして招集される、そんなこともあるような気がする。いずれにしても、この模索の先に、2011年(大震災のあった年になでしこジャパンW杯優勝)とはまた違った物語で、さらに大輪の花が、ひらくときがくると信じたい。
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「宇宙人、でてこいっていうの」いいなあこのセリフ

12月2日(土)朝日新聞beの「フロントランナー」に高倉監督が登場した。
見出しの「宇宙人、でてこいっていうの」というセリフ、いいなあ。
高倉は、2014年4月に17歳以下のW杯で日本を初優勝に導いた。このときの選手発掘の手腕は、テレビやスポーツ誌でもたびたび取り上げられた。「宇宙人枠」ということばをつかい、多少コミュニケーション能力に問題があろうが足が遅かろうが「これぞ!」という一芸をもつ選手を発掘・起用するチーム作りだった。
旧なでしこは、11人が一人の人間のように連動する、神業レベルの「和のチーム」に仕上がった。日本人がなにより好む「あうんの呼吸」でものごとがすすむところに、しびれるような魅力があった。
その完成形はいったん、粉微塵にくずれた。高倉がそのカケラを拾い集めてくっつけようとするのではなく、まるで違った発想で別次元のチームを作ろうとするのは実に理にかなっている。

大器の予感のする監督のもとで、なでしこが、ふたたび大輪の花を、しかもまるで違った色合いの花を咲かせる日に、乾杯。
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posted by 呆け天 at 10:03| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月30日

村田諒太、世界ミドル級王座獲得。万歳!

勝ってなお「僕より強いチャンピオンがいる」と告げる

第8ラウンドのゴングが鳴らない。ゴングが鳴る寸前に、エンダム陣営が棄権したのだ。7回TKO勝ちで村田諒太ミドル級チャンピオンが誕生した瞬間だ。
村田は、両腕をつきあげ、顔をクシャクシャにゆがめて「ありがとう!」と観客席に大声で叫んでいる。村田が、泣いている。こちらの涙腺もゆるむ。
いやはや、ボクシングでこんなに嬉しい場面を見る日がこようとは。10月22日(日)夜、奇しくも、衆院選の投開票日に重なった日に。

素人目には、村田やや優勢くらいにしか見えなかった。エンダムもさすが王座で、村田のパンチをうけつつも倒れない、手数は多い。ところがスロービデオを見ると、内容は「圧勝」だったことが分かる。相打ちにみえるパンチの応酬では村田のパンチは強く相手を射抜き、エンダムのパンチは威力を削がれている。前回の王座決定戦ではあまりなかったボディ攻撃が、ものすごいダメージをエンダムに与えていることが分かる。なるほど、これでは戦意喪失するのも無理はない。
勝利者インタビューでアナウンサーが「泣いている村田さんを初めて見ました」と言ったら「泣いてません!」と即座にかえして、会場を笑いにつつんだ。
なんで。泣いてたし。泣いてもなんの問題もない。うれし涙に値する勝利だよ、と思いながら見ていると、支援してくれる人々やスタッフへの感謝を述べたあと村田がいう。
「4団体あり、僕より強いミドル級のチャンピオンがいることもみんな知っていると思います。そこを目指してがんばります」
エッ、そうなの、にわか村田ファンの呆け天など、おおいに驚きました。チャンピオンになった村田が、他団体には僕と同じくらい強いボクサーがいるというのなら、わかります。団体が乱立していることくらいは知っていますから。しかし、はっきりと「僕より強いチャンピオン」というのは、日本的な謙譲の美徳を超えています。
実況中継終了後すぐに調べたら、ゲンナジー・ゴロフキンという、カザフスタンのボクサーが、WBC、IBFの統一王者であり、38戦37勝(33KO)1引分けというものすごい戦績です。ユーチューブにKOシーン特集など映像がたくさんあり、怖いほど強いボクサーであることが分かる。
村田は、プロへの転向を決意したときから、この絶対王者ゴロフキンを見据えていたのか。この男を倒さなければ、自分は本当のチャンピオンではない、だから泣いてる場合じゃないんだと、リングの上から宣言したわけです。よおおッく、分かりました。
でも、ゴロフキンとやるのはしばらく先にして、何試合かは、WBA王座としての防衛戦をみせてほしい。その積み重ねのあと、宣言通り、ゴロフキンと闘う村田諒太をみせてほしい。
人生の楽しみが、ひとつ増えました。

NHK「村田諒太 父子でつかんだ世界王座」で勝利の味をかみしめる

10月28日(土) 午後9時〜NHKスペシャル「村田諒太 父子でつかんだ世界王座」は、試合にのぞむ前の村田に、よくぞこれほどと思うほど密着した、すばらしいドキュメンタリーでした。父子の意味は、村田諒太と父・誠二さんとのことであり、村田諒太と息子・春道クンとのことでもある。
父・誠二さんは、村田に哲学・心理学の本をすすめ、村田が哲学するボクサーとして生きていく土台を作った。
息子・春道クンは、試合の2週間前の保育園の運動会で一生懸命走る姿を見せることで、村田の迷いを取り去った。春道クンが走る映像をスマホで見ながら「家族ほど大切なものはない。ボクサー村田が消えても、父村田はなくならない。それでいい。ボクサーが負けて失うものなど、大したものではない」という村田の独白は、22日の村田の勝利の真因を明らかにしています。

村田諒太WBAミドル級王者の誕生に、乾杯。
哲学するボクサーが、ゴロフキンと闘う日に、乾杯。
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関連:2017年07月07日、哲学するボクサー・村田諒太が輝いているhttp://boketen.seesaa.net/article/451588684.html
posted by 呆け天 at 08:31| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする