2018年04月22日

なでしこジャパンアジアカップ優勝を祝す

「メンバーとポジションを固定しない」という高倉監督のサッカーが、花開いた

なでしこジャパンが、ヨルダンで行われたアジア杯決勝で、オーストラリアを1−0で破り優勝した(4月20日)。おめでとう。すばらしい。
試合展開としては前半も後半も押されっぱなしでした。世界ランク6位のオーストラリアに対して日本は同11位。フィジカルでも個人技でもオーストラリアのほうがまさっている。前半はGK山下杏也加が絶体絶命のペナルティキックを止めてチームを救った。
後半も押され気味の試合展開を変えることがなかなかできない。ところが、後半39分に投入されたFW横山久美が、長谷川唯からのパスを受けると2人のデフェンダーをするりとかわし、強くて速い完璧なシュート。みごとに決まった。これが後半日本の初シュート、初ゴール。ほんとにサッカーは怖い。
そのまま逃げきってアジア杯2連覇。みごとです。高倉監督にとっては初の公式戦優勝となりました。

2011年のワールドカップを制して、東日本大震災でうちひしがれていた日本に大きな感動と勇気を与えたなでしこジャパン。その後も世界の強豪とわたりあってつねに優勝争いを繰り広げてきた。
しかし、リオ五輪アジア最終予選(2016年)でまさかの敗退を喫する。ある高みに達したチームが、なかなか世代交代・新陳代謝できないというのは、常におきる。さしもの名将・佐々木則夫監督もこの難題をクリアできなかった。
バトンを受けた高倉麻子監督は「誰がでても戦えるチーム」を掲げ、選手やポジションを固定しない驚くような采配をみせてきた。今大会でも、全5試合に先発・フル出場したのはキャプテンでセンターバックの熊谷紗希と、最優秀選手賞を獲得したFW岩渕真奈の二人きり。それで優勝したのですから信じられないようなことです。世界中さがしたって、こんなチームはありえない。
常識的にいって、11人中6〜7人は「不動の」という形容詞がつくレギュラー陣が占め、4〜5人が対戦相手や試合展開に合わせて交代メンバーとして投入される。それがわたしたちがこれまでみてきたサッカーというゲームです。
高倉監督には「不動の」という考え方がまったくないということは、就任から2年間の采配を見ていれば分かります。テストマッチであれ公式戦であれ、ありとあらゆる組み合わせを試し、ポジションを試す。「勝敗度外視」にみえる采配で、アルガルベカップの対オランダ戦2-6の大敗を喫したときは「この監督で大丈夫なのか」といった不安の声がWeb上でだいぶやかましかった。
近著『個を生かし和を奏でる』(2018年)で高倉監督は「極論を言えば、私はポジションなど要らないとさえ思っています」と述べています。ポジションやメンバーを固定しなければ組み合わせは無限であり、そのほうが「サッカーは絶対に面白くなる」という。そりゃそうかもしれないけど、それで世界に通用するチームは作れるの?という素人ファンの危惧に、今回はっきりとひとつの答えをみせてくれました。
「どう?面白かったでしょ」という、監督のドヤ顏が浮かぶようです。ヘイ、面白かったです。
だって、やっとこさ一次リーグを突破してのぞんだ準決勝対中国戦に、なんと先発5人を入れ替えてきた。「ありかよ」「だいじょうぶかよ」とテレビの前でつぶやいたなでしこファンは推定8割をこえる(呆け天の勝手な推測)。ところがボランチの宇津木・隅田という初めての組み合わせがきっちり機能して、攻守の切り替えがすばやく、岩渕の目のさめるような先制弾、途中出場横山の追加点で終わってみれば3ー1の圧勝。「この監督で大丈夫か」という声は完全に消えました。そして優勝という最高の結果。
これで、来年のW杯、再来年のオリンピックまで雑音が発生する余地はなくなりました。あとは「次の試合は、誰がどのポジションで先発して、どんな試合展開になるんだ」ということがまったく読めないハラハラドキドキなでしこジャパンを楽しむしかない。面白い監督がでてきたものです。

寝不足アジアカップ、見とどけた甲斐がありました

一次リーグの3試合(ベトナム、韓国、豪)は夜10時半からですからなんでもありませんでしたが、準決勝・決勝は午前2時以降ですから起きていられません。しかし寝てもいられず、結局全試合テレビの前で釘付けになって観戦しました。高倉体制3年目の、難しいパズルを解いて見せられているような選手起用と試合展開で、素人にはとてもむずかしかった。
佐々木則夫前監督は、相手のボールを外に追い出すのではなく、内側に呼びこんで澤・阪口のボランチのところで奪取、一気に反撃に転じるという作戦で世界を制した。これは「弱者の戦術」として佐々木監督が考え出したもので、サッカーのセオリーとは異なるものらしいですね。
今回高倉監督は「メンバーとポジションを固定しない」という驚くような考え方を打ち出し、2年間徹底的に追及してついにアジア杯優勝という結果をだした。こういう独自性が一流と言われるレベルの監督には必要なんでしょう。常識で勝てるなら苦労しない。わたしが預かったチームで勝つためにこの方法で行くんだ、という強い信念をみせてもらいました。

新生なでしこジャパンのアジア杯優勝に、乾杯。
「メンバーとポジションを固定しない」異次元サッカーの登場に、乾杯。
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関連:2017年12月16日、なでしこジャパンの未来に期待するhttp://boketen.seesaa.net/article/455579796.html
posted by 呆け天 at 07:00| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月16日

村田諒太のミドル級王座初防衛を祝す

元欧州王者を圧倒。ほんとうに強い。

4月15日、WBAミドル級王座・村田諒太(32)は、同級6位のエマヌエーレ・ブランダム(38)=イタリア=を8回TKOでくだし、初防衛に成功した。おめでとう。
相手はカメレオンと呼ばれる技巧派の元欧州王者。実力的には、素人目にも格下とわかる相手ではありましたが、おごらずたかぶらず、じっくりと圧力をかけ続ける。村田のジャブでロープにとばされるブランダムの背中が赤く腫れてくる。すごいね。最後は右ストレートの一撃であざやかに倒した。ものすごく強い。
勝利者インタビューで「戦いたい相手はゴロフキン。そこを目指してやりたい」と挑戦の意志を明らかにした。
村田は、さまざまな媒体で「僕はリアルなチャンピオンじゃなく、ゴロフキンがリアルチャンピオン」と語っている。村田がいうリアルチャンピオン、ゲンナジー・ゴロフキン(36)は、カザフスタン出身。アマチュアボクシング時代に350戦345勝5敗、プロに転向後は38戦37勝(33KO)無敗1分という、完全に怪物級のボクサーです。YouTubeで試合の映像を見たら、彼と戦うのはやめたほうがいいのでは、といいたくなります。
村田は「ボクシングファンなら誰でも僕がミドル級最強じゃないことを知っている」と率直に自分の実力がゴロフキンにおよばないことを認め、そのうえでゴロフキンとの対戦を望んでいる。強がりも、卑下もない。たいしたものです。
所属する帝拳ジムでは、次の試合をアメリカ・ラスベガスでアメリカ選手と対戦、それに勝ったあと東京ドームで対ゴロフキン戦という青写真を描いているようです。
楽しみのような、こわいような。
哲学するボクサー、村田諒太に栄光あれ。
村田防衛.jpg

比嘉大吾の減量失敗・王座剥奪とTKO負け。なんという無惨な。

当日は「ダブル世界戦」と銘うたれ、WBCフライ級王者・比嘉大吾(22)とクリストファー・ロサレス(23)=ニカラグア=の対戦も行われた。比嘉は前日の計量に失敗、王座を剥奪されている。当日朝にぎりぎり計量をパスし、試合に臨んだ。はっきりいって「死ななくて良かった」という状態、9回TKO負け、無惨です。
前回の試合からわずか2ヶ月での世界戦。比嘉はそれまでも約12キロの減量に耐えきれずパニック障害をおこしたこともあるという。本人はフライ級からもっと上の階級に転向したいのに、具志堅会長ら関係者がこの試合を強行したということのようだ。
信じられん。具志堅は自らボクサーとしての頂点をきわめた人なのに、なんでそんな誤りを犯す。
むかし、ボクシングへの熱が冷めたのは、日本人選手が明らかに負けている試合で判定勝ちする映像を見せ続けられてのことだった。その後も、ボクシング界を覆う商業主義の弊害は、アメリカでも日本でもさまざまに報じられている。
どうしても噴き出してくるこの病理が、村田を損なうことがありませんように。
比嘉が、身心の傷を癒して、階級をいくつかあげて世界戦の舞台に戻ってきますように。

関連:2017年07月07日哲学するボクサー・村田諒太が輝いているhttp://boketen.seesaa.net/article/451588684.html
2017年10月30日、村田諒太、世界ミドル級王座獲得。万歳!http://boketen.seesaa.net/article/454518422.html
posted by 呆け天 at 09:38| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月26日

プロフェッショナル 仕事の流儀「プロ野球スカウト・苑田聡彦」

「誠意は金じゃ」と素人さんがいい始めた。そんなやつ、いらん!

12月25日、NHKプロフェッショナル「仕事の流儀」は、広島カープスカウト・苑田聡彦。プロ野球ファンにとっては周知の有名人でしょうが、私はこの人の名前も存在も、この番組で初めて知りました。
エライ人がいるもんですね。
選手の平均年俸がソフトバンクや巨人の半分以下という球団が、2年連続でセリーグを制した。それは、レギュラー全員が育成選手という、貧乏球団故の智恵と努力による、というくらいのことはなんとなく知っていた。囲碁仲間に広島出身の人がいて、カープ愛を熱く語りますしね。
球界最年長72歳の現役スカウト・苑田は、いまも年間300試合以上を見にいく。データではなく、生身の人間を見て、その素質や将来性を見抜く。
バッターのなにを見るか。三振の仕方を見る。あてに行くのではなく、振り抜くバッターか否か。
ピッチャーのなにを見るか。内野手の動きを見る。1球ごとに内野手がポジションを調整する投手は、チームメートに信頼されるコントロールを持っている。
そういった、プロならではの視線も、なるほどなあと思わせます。
まだ他球団が目をつけていないダイヤの原石を、いかにみつけるか。そのことに心血を注いできた苑田が大きなピンチに立たされたのは、ドラフトに「逆指名」がもちこまれた35年前だった。「誠意は金じゃ」と素人が言いはじめた。どれほど熱意をもって掘り起こした選手も、競合する他球団があらわれて金でもっていかれる。
苑田はいう。「まだ働きもせんうちに何億よこせとか、なにを言うとるんじゃ。そんなやつ、いらん!」
苑田聡彦、カッコいい!

プロ野球球団のスカウトの活動を、内側から6ヵ月も撮影し続けるというのは、きわめて異例のこと。ドラフト会議に臨む前の、作戦会議にまでカメラが入る。「放送はドラフト後」という約束だったとはいえ、よくも撮らせたものです。
広陵高校・中村奨成捕手というスター選手が広島からでてきた。これを取りにいかないわけにはいかない。しかし広島は昨年、坂倉将吾という捕手をとっており、2軍で急成長している。中村をとれば、1年違いの有力選手二人がポジション争いをすることになる。苑田は、中村には内野手としてかつての長島のような輝きをみせる可能性があると考える…。

中日との競合で中村を引き当てる場面をハイライトに、番組はつくられています。「神様はみている」というように結ばれています。しかし、たとえ中村を中日にもっていかれても、苑田は別の作戦を組み立てたでしょう。
番組の最後に「プロフェッショナルとは」という、決まりの質問があり、それぞれにいい言葉が発せられるのですが、苑田はまるで力まずにいう。
「この仕事は野球が好きじゃないとできない。足を運ぶだけです」
職人さんの言葉です。

こういう人がいるんだなあ。どんなビジネスの現場にも。

「誠意をみせろ」と金を脅し取るのは、暴力団の常套句です。それを35年くらい前に、素人が言いはじめた。行きついた先が、あの狂乱のバブル経済だったなあ。
たぶん、わたしなんかがプロ野球に魅力を感じなくなったのは、そのころと重なっている。金満・金権チームが支配するスポーツ、んなもの誰が見るか、というアンチ巨人感情のはてのプロ野球離れだった。
だが、どんなビジネスの現場にもエライ人はいるもんですね。こういう人が見出した選手が、どういう風に成長し花ひらくのか。はたまた夢破れてどんな第2の人生を歩むのか。そういう目で見始めたら、はてしない奥行きのあるドラマが、プロ野球の世界にはあります。

「そんなやつ、いらん!」という辣腕スカウトの矜持に、乾杯。

プロフェッショナル 仕事の流儀「プロ野球スカウト・苑田聡彦」2017年12月25日(月) 午後10時00分(50分)
関連:2014年01月17日、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」井山裕太の勇姿に見とれる
http://boketen.seesaa.net/article/385396023.html
posted by 呆け天 at 10:14| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする