2017年10月16日

「映画のまち調布」がシネコンオープン記念でもりあがる

映画「太秦ライムライト」(落合賢監督)を、ワンコインで堪能

調布に、大型シネマコンプレックス「イオンシネマ・シアタス調布」がオープンして盛り上がっています。11スクリーン、総座席数1,672席というからたいしたものです。
シネコンオープン記念で「ワンコインで大きな感動を」という催しがおこなわれており、公開時(2014年)に見逃した「太秦(うずまさ)ライムライト」が上演されたので、やれ嬉しやと見にいきました。
福本清三という、50年以上「切られ役」に徹してきた俳優を、いきなり主演に抜擢したことで大きな話題になった映画です。チャップリンの名画「ライムライト」を下敷きにして、滅びゆく時代劇、滅びゆく切られ役俳優へのみごとなオマージュになっています。
福本は、これまでセリフをいう場面もない俳優生活だったからだろう、滑舌がわるい。「健さんか!」というほど寡黙な男の設定で、極端に少ないそのセリフが、聞きとれなかったりする。ところが、それが逆に、半世紀にわたる大部屋・切られ役俳優という設定に妙なリアルさをもたらす。まことに映画はいきものです。
大部屋俳優の日常、名札でキャスティングされ一喜一憂する様子、下積み俳優たちを愛する演技科の職員たち、時代劇をバカにしている演出家やタレントの言動…「映画村」の舞台裏がリアルで、切られ役の老優にスポットライトを当てる、それを無名の切られ役自身が主演するという、ちょっとありえない奇策を、みごとに映画にしています。傑作です。堪能しました。

当日は、脚本を書きプロデュースまでした、文字通りこの映画の生みの親である大野裕之の制作トークというスペシャルなおまけがついていました。
大野は、なんだか異様に多芸多才の人のようです。日本のチャップリン研究の第一人者という顔をもち『チャップリンとヒトラー』(2015年)でサントリー学芸賞を受賞している。「劇団とっても便利」を主宰し、劇作家・脚本家・映画プロデューサー・演出家・作曲家・俳優・映画研究者・振付師の顏をもつという。多羅尾伴内か!
無名の70歳の俳優が主演の映画を作るなどということは、日本の映画史上、ありえないことだった。まして、チャップリンのライムライトを翻案するなどという企画は、著作権上も不可能に違いない。
ところが、著作権者であるチャップリン家の反応は「大野が脚本を書くならいいよ」というものだった。これって、かなり嫌味な自慢話ですが、京都弁で、早口で、ぶあーっとしゃべるので、なにか冗談を聞いているような感じ。なるほど、役者でもある。
映画の最後の難関は、実は福本本人が自分を主演にする映画などありえない、できないと出演を渋りまくったことだった。2013年9月5日にクランクインという段取りまで決まっているのに、主演が決まらないので他の俳優のキャスティングもできない。7月28日の夜、大野が散歩していたら、福本夫妻が散歩しているところと鉢合わせした。福本の奥さんは財布から5000円札を出して福本におしつけ「ふたりでお茶でも飲んだら」と去っていく。つまり、奥さんは福本に引き受けてほしいわけです。入った店は300円くらいでコーヒーが飲める店でしたけど…。
まあ、なんて話がうまい、しかも映像が浮かぶ。たいへんな才能です。
惜しいことに、当日は雨のせいか、800人入る会場に観客はわずか100人くらい。これが満席近く入っていたら、どよめくような講演になっただろうと残念でした。

これからは、自転車で映画を見に行ける

それにしても調布にシネコンができたのはうれしいかぎりです。気になる映画がかかったら、自転車で、サンダル履きで見にいける。スーパ―のイオンは、シネコンにまで手をひろげていたのか。なんでも、今ではTOHOシネマを抜いて、全国でいちばん多いスクリーン数を誇っているらしい。豪華な客席の特別鑑賞ルームがあったり、立体音響とか、体感型アトラクションシアターなど、若者向けの仕掛けもあるみたいです。大いに流行ってほしい。
わたしは、昔ながらの映画館感覚のスクリーンを楽しみます。

映画「太秦ライムライト」と、生みの親・大野裕之に、乾杯。
太秦ライムライト [DVD] -   シネコン2.jpgシアタス調布
落合賢:監督「太秦ライムライト」(2014年)、2017年10月15日13:30〜調布市グリーンホール・大ホール。
posted by 三鷹天狗 at 10:36| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月03日

島田恵・監督『チャルカ〜未来を紡ぐ糸車〜』 8月25日ケインズシネマ

ガンジーのことばと実践を、みちびきの糸として

核のゴミ=高レベル放射性廃棄物の処分方法が決まらないまま、原発の再稼働がはじまっている。
「トイレのないマンション」と形容されるこの愚行を、いつまで続けるのか。まして福島原発事故で、6年たった今も10万人の人々が故郷に帰れない現実をかかえて、なお原発をストップできないのは、なんなのか。

監督・島田恵はこの現状を打破するみちびきの糸を、インド独立の父、マハトマ・ガンジーのことばと実践に見出そうとします。
ガンジーは、イギリスの植民地支配に100年あえぐ祖国の現実を「インドは自らをイギリスに売り渡しているのだ」と指摘した。そして、イギリスの支配から自立するために、自国で生産した綿花を自分たちで紡ぎ、その糸を手織りにした布(カディ)を作ろうと提唱し、実践した。綿花のすべてがイギリス本国に送られる現実を「自らをイギリスに売り渡している」と言い表し、自ら糸を紡ぎ布を織ることが、植民地支配からの脱却の糸口となるのだとインドの人々に指し示した実践は、非暴力抵抗運動として世界史に刻まれています。
わたしにも、教科書かなにかで、糸車(チャルカ)をまわすガンジーの写真を見た記憶があります。
ガンジー.png
島田が、それでは今の日本で、ガンジーのチャルカにあたる実践はなにかと問い、これがささやかながら一つのこたえなのではと見せてくれるのは、北海道天塩の酪農家がいとなむ、アイス・チーズ・カフェ「工房レティエ」です。(レティエ」とは、フランス語で「小さな乳製品加工所」)
広大な草地で育てられた乳牛の乳をしぼり、チーズや乳製品を自分たちでつくり、直接消費者に買ってもらう。その実践者である久世重嗣は、北海道幌延町で計画されている放射性廃棄物の「地下研究施設」に反対・監視する活動家でもあります。
持続でき、若者が希望のもてる農業、どんなことがあっても生き抜ける自給のシステムをつくりながら、息ながく、それこそ幾世代も後の子どもたちに安全のためのたたかいをバトンタッチしていく生き方。島田は、久世のその実践を「チャルカ的生き方」として観客に提示します。

迂遠といえば迂遠な提案です。
しかし、ガンジーがあの強大なイギリス帝国の支配に立ち向かのに、自ら糸車をまわすところからはじめたことにならうしか、解決の糸口はないのではないか、というのが島田の問いかけです。

フィンランド・オンカロの地下映像、迫力あります

映画は、まるで学校の授業で「核のゴミ」を講義するときのようにはじまります。原発を稼働すれば必ず生みだされる核のゴミ=高レベル放射性廃棄物は、無害化できない。
地下深く埋めて10万年たてば無害化するというが、地下で地殻変動がおきないという保証はだれにもできない。元動燃(動力炉・核燃料開発事業団=現在の日本原子力研究開発機)主任研究員で地質学者の土井和己は「いま日本は地殻変動まっさかり」で、地下に埋めたら安全などとまったく言えないと証言する。
元首相の小泉純一郎は、原子力は安全安価だというのは全部ウソだった。自分でフィンランドのオンカロを見てきたが、日本とは地層がまるでちがう、と脱原発行脚で語る。
島田たちもフィンランドにでかけ、オンカロの地下深くにもぐり、18億年以上動いていないという固い岩盤に作られた保管庫を見る。これだけでも一見の価値あり。現場責任者が、「ここをあけるな」という表示をすべきか否かを悩むところなど、会場に笑いがおきました。
たしかに、「あけるな」と書かれた看板を見れば、何万年後かの人間は必ずあけるだろうな。

問答無用の推進と、問答無用の反対にくっきりと分かれてしまっている日本の世論に対して、問答するしか解決の道はないでしょうとかたりかける、貴重な映画です。

島田恵の、深く静かな問いかけに、乾杯。
チャルカ2.jpg チャルカ.jpg
島田恵・監督『チャルカ〜未来を紡ぐ糸車〜』8月25日、10時30分〜、新宿・ケインズシネマ。
関連:2017年03月09日、河合弘之『日本と再生』http://boketen.seesaa.net/article/447671372.html
2016年09月26日、竹村公太郎『水力発電が日本を救う』http://boketen.seesaa.net/article/442259151.html
2016年04月20日、避難指示区域を訪ねてみたhttp://boketen.seesaa.net/article/436897574.html
2015年07月25日、『福島第一原発事故7つの謎』http://boketen.seesaa.net/article/422940747.html
posted by 三鷹天狗 at 07:47| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月27日

「呪いかけましたよ。死んだ人もいるし、3人くらい。」

さりげない美保純のことばが、怖いやらおかしいやら。

「週刊朝日」7月28日号「マリコのゲストコレクション」第875回のゲストは女優の美保純です。
林真理子が「おかしくって可愛くって、少しも変わっていない」と評する美保純。50代後半とは思えない、ハツラツとした、大物感のまるでないことばの連射が、なんとも楽しい。

対談のなかで、男関係に話が及んだ時のことばがすごい。別れるとき美保に嫌なことをしたやつは「みんな不幸せになっていて、とてもうれしい」とあっけらかんと言い放つ。
「林 呪いをかけたんんじゃない。
美保 呪いかけましたよ。死んだ人もいるし、3人くらい。
林 コ、コワイよ〜
美保 私には魔力があると思っているんですよ。私を怒らせるとか私が恨むようなことをしたやつは全員不幸になると思っている。仕事がなくなった人もいますよ。」

あの、邪気のない童顔で、にこにこしながらこゆこというか。たぶん、これぜんぶホントでしょう。
むかし読んだ小説(筒井康隆か宮部みゆき)に、OLが胸のなかで「死んじまえッ」とののしると、ほんとに相手が死んでしまうのがありました。そのまんまを、美保純がやっているわけだ。
ま、われらが「あけみ姫」の恨みをかうようなやつは、いずれロクでもない男でしょうから、死んじまったり不幸になったりすればいいのです。

美保純といえば、寅さんファンにとっては、タコ社長のわがまま娘・あけみです。
「男はつらいよ」第33作「 夜霧にむせぶ寅次郎」(マドンナ・中原理恵、1984年)にいきなり登場したあけみは、ちゃきちゃき、蓮っぱ、わがままで、人のいうことなんかなんにもきかない。いかにも下町中小零細企業の社長の娘にいそうな感じ。「タコにこんな娘がいたのかよッ。聞いてねえぞ」とつっこみをいれながらも、あまりにも冴えた登場のしかたに、いっぱつでもっていかれました。
第36作「柴又より愛をこめて」(マドンナ・栗原小巻、1985年)では、ダブルマドンナといいたいほど重要な役回りです。家出したあけみをさがしに寅さんが伊豆・下田にでかけ、そのまま二人で式根島に小旅行。島で出会った先生(栗原小巻)に夢中になり、あけみのことなどそっちのけの寅さん。放っておかれたあけみは民宿の跡継ぎ息子・茂に惚れられて…。
海岸に湧き出る温泉に入るあけみという、寅さん全シリーズで唯一の「お色気サービス」までしてくれました。日活ロマンポルノ出身であることを「誇りに思っている」と言い切る女優の、面目躍如です。

ややマンネリ気味の寅さんファミリーに、新しいリズム・テンポがわりこんできた。旧来のテンポはそのままくずさずに、もうひとつの新しいリズムが心地よい違和感・緊張感をもたらして、シリーズ全体を再活性させた。美保純のあけみ役は、シリーズ中興の名脇役です。
36作では伊豆・下田の地廻りのヤクザという役どころで笹野高史も初登場し、あけみを見つけるのに一役かいます。以後、笹野は変幻自在の役で寅さんを支えました。
美保純と笹野高史、寅さん映画で存分に魅力を放って、誰もが知る役者となりました。

東大卒と気が合う、真逆だからー小気味いいなあ。

平日の昼、NHKで「ごごナマ」という番組にレギュラー出演し「生活がNHKの職員みたいになっちゃった」。「(NHKには)東大出身者がたくさんいますけどそういう人たちとものすごく気が合うんです。真逆だから。」
ことばのひとつひとつが、小気味いい。
この対談ではじめて知りましたが、寅さんを卒業したあと交通事故をおこして、顔面を8針も縫う大ケガをしたのだという。よくぞ女優生命が絶たれなかったものです。よほど強い星のもとに生まれたのでしょう。

強運の星のもとに生まれ、呪いでイヤな奴らを不幸にするあけみ姫に、乾杯。
寅さん第33作.png 寅さん36作.jpg
第33作 夜霧にむせぶ寅次郎       第36作 柴又より愛をこめて
posted by 三鷹天狗 at 05:38| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする