2017年07月27日

「呪いかけましたよ。死んだ人もいるし、3人くらい。」

さりげない美保純のことばが、怖いやらおかしいやら。

「週刊朝日」7月28日号「マリコのゲストコレクション」第875回のゲストは女優の美保純です。
林真理子が「おかしくって可愛くって、少しも変わっていない」と評する美保純。50代後半とは思えない、ハツラツとした、大物感のまるでないことばの連射が、なんとも楽しい。

対談のなかで、男関係に話が及んだ時のことばがすごい。別れるとき美保に嫌なことをしたやつは「みんな不幸せになっていて、とてもうれしい」とあっけらかんと言い放つ。
「林 呪いをかけたんんじゃない。
美保 呪いかけましたよ。死んだ人もいるし、3人くらい。
林 コ、コワイよ〜
美保 私には魔力があると思っているんですよ。私を怒らせるとか私が恨むようなことをしたやつは全員不幸になると思っている。仕事がなくなった人もいますよ。」

あの、邪気のない童顔で、にこにこしながらこゆこというか。たぶん、これぜんぶホントでしょう。
むかし読んだ小説(筒井康隆か宮部みゆき)に、OLが胸のなかで「死んじまえッ」とののしると、ほんとに相手が死んでしまうのがありました。そのまんまを、美保純がやっているわけだ。
ま、われらが「あけみ姫」の恨みをかうようなやつは、いずれロクでもない男でしょうから、死んじまったり不幸になったりすればいいのです。

美保純といえば、寅さんファンにとっては、タコ社長のわがまま娘・あけみです。
「男はつらいよ」第33作「 夜霧にむせぶ寅次郎」(マドンナ・中原理恵、1984年)にいきなり登場したあけみは、ちゃきちゃき、蓮っぱ、わがままで、人のいうことなんかなんにもきかない。いかにも下町中小零細企業の社長の娘にいそうな感じ。「タコにこんな娘がいたのかよッ。聞いてねえぞ」とつっこみをいれながらも、あまりにも冴えた登場のしかたに、いっぱつでもっていかれました。
第36作「柴又より愛をこめて」(マドンナ・栗原小巻、1985年)では、ダブルマドンナといいたいほど重要な役回りです。家出したあけみをさがしに寅さんが伊豆・下田にでかけ、そのまま二人で式根島に小旅行。島で出会った先生(栗原小巻)に夢中になり、あけみのことなどそっちのけの寅さん。放っておかれたあけみは民宿の跡継ぎ息子・茂に惚れられて…。
海岸に湧き出る温泉に入るあけみという、寅さん全シリーズで唯一の「お色気サービス」までしてくれました。日活ロマンポルノ出身であることを「誇りに思っている」と言い切る女優の、面目躍如です。

ややマンネリ気味の寅さんファミリーに、新しいリズム・テンポがわりこんできた。旧来のテンポはそのままくずさずに、もうひとつの新しいリズムが心地よい違和感・緊張感をもたらして、シリーズ全体を再活性させた。美保純のあけみ役は、シリーズ中興の名脇役です。
36作では伊豆・下田の地廻りのヤクザという役どころで笹野高史も初登場し、あけみを見つけるのに一役かいます。以後、笹野は変幻自在の役で寅さんを支えました。
美保純と笹野高史、寅さん映画で存分に魅力を放って、誰もが知る役者となりました。

東大卒と気が合う、真逆だからー小気味いいなあ。

平日の昼、NHKで「ごごナマ」という番組にレギュラー出演し「生活がNHKの職員みたいになっちゃった」。「(NHKには)東大出身者がたくさんいますけどそういう人たちとものすごく気が合うんです。真逆だから。」
ことばのひとつひとつが、小気味いい。
この対談ではじめて知りましたが、寅さんを卒業したあと交通事故をおこして、顔面を8針も縫う大ケガをしたのだという。よくぞ女優生命が絶たれなかったものです。よほど強い星のもとに生まれたのでしょう。

強運の星のもとに生まれ、呪いでイヤな奴らを不幸にするあけみ姫に、乾杯。
寅さん第33作.png 寅さん36作.jpg
第33作 夜霧にむせぶ寅次郎       第36作 柴又より愛をこめて
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2017年03月29日

小森はるか:監督『息の跡』 陸前高田の希望の種

アイヌの叙事詩のような響きで、佐藤たね屋の、英語の朗読が流れる

見たことも聞いたこともないタイプの映画です。
どんなナレーションも、説明もない。
荒涼とした風景の中を、工事車輛とおぼしきトラックやダンプが、轟音をあげて走りまわっている。
その一角に「なえ たね 播きどき 植えどき 買いどき 木曜休日」という、手書きのかんばんをかかげたプレハブの店舗が営業している。「佐藤たね屋」です。
赤塚真人という役者(山田洋次『たそがれ清兵衛』などにでてくる脇役)によく似た風貌の男が、せかせかと働きながらカメラに向かっていう。
「歳なんぼだっけ、27、8?」「23」「はッ、まだそんなもんか。まるで豆粒だ」「豆粒?」…
男が、カメラをかまえている女性に好感や関心をいだいていること。カメラをかまえている女性(監督の小森はるか)が、男にただごとならぬ関心をよせ、一挙一投足を見逃すまいとしていることが伝わってきます。
やがて、男=佐藤貞一は、自分の店も含め、すべてが大津波で流されてしまった場所に、プレハブを建て「たね屋」の商売を再開したこと、商売のかたわら、自身の震災・津波体験を英文で自費出版していることが分かってきます。
まったくの自力で英文のレポートを作るにいたった動機は説明されないまま、まるでアイヌの叙事詩が朗誦されるような響きで、佐藤の声が英語で流れます。
「The seed of hope in the heart(ザ シード オブ ホープ イン ザ ハート)」(字幕:心に希望の種を)「たね屋の物語の幕が開こうとしている。震災の二日前、不可思議な出来事が私たちのふるさとに起きていた…」と英語の朗読は始まります(内容は字幕で追いながら響きを聞く)。

大きな悲劇が始まろうとしていることを予感させる、人の心をざわつかせる、独特の響きです。
なんなんだこの男は、なんで英文のレポートなんだ…という大きなとまどいのまま、映画はすすみます。感じ方や解釈は、見ているみなさんにお任せします、ということでしょう。しかし、前衛きどりの、意味不明の映画ではまったくありません。
日本に暮らしている人間なら、ああテレビでみた岩手県の陸前高田のかさあげ工事現場だな、と分かります。海外で上映されれば、日本の大津波被害を受けたどこかの地方の話しだな、と了解されるでしょう。それで充分です。大事なのは地名ではない。
巨大な自然災害の前に人間がいかに無力であるか、人間は必ずおこる自然災害にどうむきあうべきか、という普遍的な問いをこの男は発しているんだな、ということが、ゆっくりと伝わってきます。

日本語で記述された震災の記録が、またふたたびの大津波や社会変動、時間の経緯で、流されたり忘れ去られたりしても、自分の書いた記録が英文や中国語で異国の地にたどりつき、残されていく。
この男は、たったひとりでそんなのぞみを抱いている…滑稽さと偉大さが入りまじっています。

陸前高田のかさあげ大工事に、ひとりの「たね屋」の存在が、拮抗している

これから先は、呆け天の勝手な解釈なので、ご注意ください。
これは、陸前高田かさあげ工事に対する、強烈な批判・抗議の映像です。
街まるごとを、12メートルかさあげした土地に再建する。いったい誰が考えたのか、恐ろしいほどの費用を投じ、近隣の山をきりくずし、もう5年も工事は続いています。
しかし、2011年の津波の高さは18メートルだった。その規模の津波がきたらまた流されるんじゃないの?という、単純で素朴な質問には、誰もこたえない。まったくまちがった防災工事です。
住民の多くの方は、かさ上げ地ではなく、高台移転を希望・実行している。当然のことで、18メートルの津波にすべてを奪われたのだから、これまでのまちが見おろせる、18メートル以上の高台に全町移転する以外にありません。
「此処より下に家を建てるな」という石碑(1896年明治三陸大津波で建立)のおかげで、宮古市・姉吉地区の住人が死者ゼロだったニュースが、震災直後に大きく報じられました。その教訓に基づく以外の方法はないでしょう。
じゃあ旧市街地はどうするんだ、ということになるでしょうが、そこには住居を作ることを禁止する。漁業にかかわる事業所(せり市、魚介類加工場など)やビジネス用のオフィスビルなどは問題なし。津波警報がきたら大急ぎで高台に避難する訓練をふだんから徹底する。自力で避難できない幼児や老人ではなく、成人男女、しかも組織された指示命令系統の中で働いている人間は、ふだんから訓練していれば死者ゼロで避難できる。事例は『紙つなげ!』(佐々涼子、2014年)の日本製紙石巻工場にあります。
佐藤貞一や小森はるかがそう主張しているわけではなく、呆け天がそう思うという意味ですので、ご了解ください。
わたしには、人間の愚かさをむきだしにしたかさあげ大工事に、たった一人のたね屋の存在が拮抗している、とみえました。

「たね屋」にして哲学者・歴史記述者、佐藤貞一の営為に、乾杯。
巨大な悲劇の現場から、深い悲しみと希望をたたえた映像を掬い出してくれた小森監督に、乾杯。
息の跡.jpg ここより下に家を建てるな0410-kokoyorishita_NP.jpg
小森はるか:監督・撮影『息の跡』東中野ポレポレ、3月20日12:20〜
関連:2014年04月18日、陸前高田、奇跡の一本松http://boketen.seesaa.net/article/395018334.html
2016年06月07日佐々涼子『紙つなげ!』http://boketen.seesaa.net/article/438603050.html

ポレポレ座IMG_20170320_142428.jpg東中野ポレポレ
東中野ポレポレは初めて来ましたが、雰囲気いいなあ。客はあふれるほど入っている。上映後、小森監督のトークがあり、カメラをまわすことへの初々しいためらいを語ってすばらしかった。なんとこの日(3月20日)が誕生日とのことで東中野ポレポレのスタッフからケーキのプレゼント。よいところに立ち会いました。
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2017年03月13日

ファン・ドンヒョク:監督『怪しい彼女』

ビバ!調布映画祭。この傑作との出会いに感謝

調布市のキャッチフレーズが「映画のまち調布」です。
「そう言ってるわりには映画館もないし」といったつぶやきにこたえて、今年の秋には、調布駅前にシネマコンプレックス「イオンシネマ」(11スクリーン2100席)がスタートする。
日活、大映、独立系プロダクションなどの撮影所が昔からあり、今も活発に活動している。
3月5日〜12日「第28回調布映画祭」が開催され、特撮映画の展示やイベント、30数本の映画の無料公開など、意欲的な企画が実施されました。たづくり1Fの悪魔のオブジェがかっこいい。
特撮IMG_20170307_131941_.jpg 映画祭り217818.jpg
そのなかに韓国映画『怪しい彼女』(2014年)を発見。見たいと思っていたので、いそいそとでかける。わたしは韓流ドラマをみたことがないので、韓国製の映像作品をみるのはこれが初体験です。
すばらしい傑作でした。この映画と出会わせてくれた調布映画祭に感謝。

家族から疎まれ、捨てられかかった毒舌婆さんが、葬式用の写真を撮ろうと入った写真館で20歳の娘に戻ってしまう。
キュートなルックス、なみはずれた歌唱力を持つ女の子、オ・ドゥリ(シム・ウンギョン)にもどった老婆の困惑、あふれてくる喜び、生きのびるための作戦、つい口からでる毒舌や悪態。これは笑えます。
桂文珍に「老婆は一日にしてならず(ローマは一日にしてならず)」という名作がありますが、映画は笑わせながらオ・ドゥリの苦難の人生を浮かび上がらせていく。夫に死なれ、女手一つで息子を育てるためには、鬼と化して生き抜くしかなかったのだということが、断片的な映像で少しづつ伝えられます。
ゲラゲラ笑わせられ、あふれる涙をこらえきれないほど泣かされます。
たぶん、韓国固有の地口やことわざ、悪態がつめこまれた映画でしょうから、日本の観客が字幕で笑うのは一拍遅れになる。でも会場には大きな笑い声がなんどもおきました。これが2014年に韓国で公開されたときは、どれほどの笑いにつつまれたろうかと想像できます。
ネットでみると、いろんな国でリメイクされているみたいで、納得。その国の老女がまくしたてる悪口や悪態だからこそストレートに笑えるものになるということでしょう。日本でも2016年に、多部未華子、倍賞美津子主演で映画化されたらしい。

笑えない老いを、笑いとばす

少女が魔法で老婆にされてしまうー宮崎駿『ハウルの動く城』です。老女が写真館の魔術でハタチの娘にもどるという本作は、『ハウル…』を裏返したかたち。
内面少女・見た目は老女というのは、理不尽で苛酷。ソフィーはつらかったろうなあ。ハウルへの愛が、魔法をつきやぶっていく。
内面老女・見た目は少女というのは、理不尽で愉快。オ・ドゥリは楽しかったろうなあ。孫への愛が、魔術を解くことを選ばせる。
笑えない老いを、笑いとばす。こういう傑作映画がまさにそれです。

オ・ドゥリのキュートなルックス、なみはずれた歌唱力に、乾杯。
妖しい彼女164645_01.jpg
ファン・ドンヒョク:監督『怪しい彼女』2014年韓国映画、【出演】シム・ウンギョン、イ・ジヌク、
ナ・ムニ。パク・イナン、ソン・ドンイル。3月11日(土)12:45〜14:55、調布グリーン・ホール。
posted by 三鷹天狗 at 13:30| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする