2018年04月10日

吉田類『酒は人の上に人を造らず』

天下一品のとりとめなさ。さすが酒場詩人。

呑兵衛は居酒屋でなにをしゃべっているか。
どうでもいいことを、とりとめもなくしゃべっている。ただそれだけ。
意味も、価値も、なにもない。泡のように消えていくことば。だからいい。
本書には、まるまる一冊、どうでもいいこと、とりとめもないことだけが綴られている。さすが酒場詩人です。
呑み助に人気の「酒場放浪記」でも、吉田類はエラソ―なこと、りっぱなこと、人に感心されそうなことをひとことも口にしない。店からでたあと、一句さらりと詠んで夜の巷に消えていく。
本書でも、とびきりの一句が載っています。
「月渡る女酒場の身の上を」
下町の居酒屋、女店主に贈った吉田の挨拶句とのことで、みごとなものです。

一冊を通じて伝えたいメッセージといったものも、脈絡もない。なので、ヘンなフレーズ、「なにそれ」の一語だけひろってみる。
「そんなもん、洗(あろ)たら、また使えるやん」(吉田と対談時の高知女・西原理恵子)
「飽きないね!」(そんなに飲んで飽きないかと問われた坂崎重盛と吉田がハモって即答)
「所得が低いわりにゃあ、土佐人の酒代はぶっちぎりのトップぜよ」(高知の居酒屋店主)
「『ミス日本酒』北海道地区選考会の幕開け、冒頭の『カンパーイ!』はビールだった」
「トラウマは、心へ秘めて癒しましょう」(酒で失敗した酒友の弁)
「税務署が来たぞ〜」(吉田の故郷・高知の山奥で密造酒をつくる村人たち)

本のタイトル「酒は人の上に人を造らず」は、高知出身の民権運動家・植木枝盛が作詞した「民権数え歌」の「一ツトセー、人の上には人ぞなき、権利にかわりがないからは、コノ人じゃもの」からとられている。吉田は「あくまで民権を第一義とする植木枝盛にしてみれば、福沢(諭吉)らの啓蒙思想はご都合主義として相いれなかった」と記し、福沢諭吉ではなく、植木枝盛からだとケジメをつけている。けっこう骨太。

飲み方で、高知人とすぐわかる

吉田類は幾人もの人から「あなたの飲み方を見て、すぐ高知人と分かった」と言われるという。酒場で見ず知らずの客と乾杯し、すぐさまその場に馴染んでしまう。「テーブルを囲んで飲めば分け隔てなし」という飲み方が、植木の歌詞とぴったり重なるということのようだ。
たしかに、同じ酒場めぐり番組でも、太田和彦は居合わせた客たちと乾杯したり言葉を交わしたりはしない。
ルーツが東北のわたしは、居酒屋に一人で入ってとなりの客と談笑するという場面は、相手から話しかけられたときに限る。自分から話しかけたりはしない。
しかし、吉田流の「飲めば分け隔てなし」という飲み方もいいですね。その場に居合わせたら、大いに賛同して飲みつぶれるまでつきあいそうです。

酒場詩人の、とりとめもない酒席思い出ばなしに、乾杯。
酒は人の上に人を造らず (中公新書) -
吉田類『酒は人の上に人を造らず』中公新書、2018年、760円+税。
関連:2015年03月14日、太田和彦『居酒屋を極める』http://boketen.seesaa.net/article/415579123.html
2013年09月10日、大竹聰『まだまだ酔ってません』http://boketen.seesaa.net/article/374461694.html
posted by 呆け天 at 09:45| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月19日

山田真由美・文、なかむらるみ・絵『おじさん酒場』

奇特な「おじさん萌え」に笑えます。

文・山田真由美(推定40代)は、居酒屋で飲んでるおじさんに奇特な思い入れをする。
「酒場にたたずんでいるおじさんたちの背中や横顔」に、「まだ見ぬ世界の入り口」や「引き出しの宝庫」を感じるなどという。
山田にかかれば、独りでじっと飲んでいるおじさん、2〜3人で談笑しているおじさん、女とみれば声をかけてくるおじさん、そのどれもが、それぞれに好もしいらしい。
不思議なことをいうものだと感心するしかない。
年代的にはこちとら観察される側のおじさんとして何十年も居酒屋で飲んできましたが、ここで著者が思い入れるような「まだ見ぬ世界」とか「引き出しの宝庫」とかは、まったくありません。
一人でふらりと入る、仕事帰りに「ちょっと寄る?」と連れ立って入る、酒好きと誘い合わせて評判の店に行ってみる、旅行先であてずっぽうに入る…居酒屋に行くいろんなバリエーションがありますが、飲みたいから飲んでるだけで、「背中」だの「横顔」だのといわれる筋合いはない。
なんでこんな勘違いをしてるんだろうと思ったら、第15回「センセイなおじさん シンスケ・湯島」に太田和彦がでてきて納得。巻末では「酒場の作法あれこれ」という山田・なかむらとの鼎談もしています。山田は太田の著作のファンで、そこに書かれている太田の姿にメロメロ。その投影として酒場のおじさんたちを見ているようです。

太田は『居酒屋百名山』『居酒屋を極める』など数々の居酒屋本を書き、テレビでも「いい旅いい酒いい肴」などに出演している。私も太田の本の愛読者です。
「古くて小さい店」がいい。そこに一人で飲みにいって、黙って飲む。他の客とも店主とも、「うわべだけのつきあい」にとどめる…。こういう太田の「居酒屋流儀」は確かにひとつの見識です。しかし、大田には「居酒屋で一人前の男になる」だの「一目おかれる存在になる」だのという、つまらない「ダンディズム」があり、わたしはこれには「なに言ってんだか」という感情しかわきません。「そっちで勝手に一目おかれてろ」てなもんです。
だいたい「チェーン店にはぜったい入らない」という思い入れも、わたしにはありません。いつでもどこでもどんな店でもOK。おやじが勘違いして能書きたれるような店とか、学生が騒いでうるさい店とかには、二度といかなければいいだけの話しで、存在を否定するようなことを思いも言いもしない。
酒を飲むことに、理屈も、流儀もいりません。「酒乱」(酒を飲んで暴力沙汰にいたる)という、絶対に許せないバカ者をのぞけば、どんな飲み方も自由です。

しかし、わたしが、大田の中の「余計なこと」と思っている部分に、山田は強く反応するようで、呑兵衛おじさんの背景などに勝手な思い入れをふくらませる。
私が好きなマンガ『あたしンち』(けらえいこ)のどこかに、弟ユズヒコの友だちが、勝手に姉みかんの洗濯物の下着を想像してコーフンし、ユズヒコは姉の現実の姿を思い出して、ばっかじゃないのと反応する場面がありました。山田の、おじさんの「背中」や「横顔」へのコーフンは、ユズヒコの友だちの、みかんの下着へのコーフンと同じです。
しかし、妄想のコーフンでまるまる一冊読ませる筆力があることも確かです。次作がでたら、また読みたい。

なかむらるみの描く「ヘンな生きもの」としてのおじさんにも笑えます。

山田の思い入れとは対照的に、イラストのなかむらるみ(推定30代)は、ヘンな生きもの、おもしろい生きものとしてのおじさんを活写して笑えます。
二人のコンビだから、最後までもたれずに読むことができた。なかむらは『おじさん図鑑』(2011年)という、みもふたもないおじさんスケッチ集をだしています。
むかし、20年近く毎週1〜2回通っていたM駅南口の居酒屋「Y」の親父は、「女性の一人客おことわり」という、フェミニストに見つかったら騒動になるような経営方針だったなあ。

女性客が、身構えずに居酒屋で飲む時代が来ていることに、乾杯。
おじさん酒場 -
山田真由美・文、なかむらるみ・絵『おじさん酒場』亜紀書房、2017年、1400円+税。
関連:2015年03月14日、太田和彦『居酒屋を極める』http://boketen.seesaa.net/article/415579123.html
posted by 呆け天 at 11:14| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月02日

痛風との対話

朝の散歩をしていると、まれに左足親指のつけねを、つんつんしてくるやつがいる。
「あのう、痛風ですけど…」と遠慮がちにはなしかけてくる。
5月に1週間の激痛を体験した身としては、あの痛みの再現だけはごめんということで、細心の注意をはらっています。
なにより好きなビールは、週一回、囲碁・飲み仲間との最初の乾杯のときのコップ一杯だけときめている。あとはプリン体ほぼゼロの焼酎を、そのときの気分でロック、お湯わり、水割りのいずれかで飲む。日本酒も極力自制している。
前は一ヶ月に1〜2回だった休肝日を、今は週に2回くらい設けている。プリン体の多いとされる酒の肴(干物、モツ系)はできるだけ避けている。

それなのに痛風の出先機関のようなやつが、ときどき左足親指のつけねをつんつんしてくる。
いきなり暴れまわるようなことはなく、「えっと、ここだっけ」と定期訪問みたいにノックしてくる。
「なんの用?呼んでないよ」
「さいですか。ちょっとごきげんをうかがいに」
「だいたい、きのうだって日本酒一合だけだよ。お前さんがでてくる筋合いじゃないでしょ」
「先週の土曜日はかなり大量に摂取されたような」
「だって焼酎だけだよ。プリン体はほぼゼロだろ」
「いえ、ゼロではありません。それに大量摂取されますとわたしどもにも連絡がくるようになっておりまして」
「わかった。今日は休肝日にするから」
「さいですか。そゆことなら」
というような会話で、引っ込む。

これがくると、その日の夜は休肝日。ややもすれば次の日も休肝日になる。ま、たしかに抑止効果はあります。
こいつの秘めている凶暴さは経験済みなので、きまぐれなつんつんのバカっぽさにも、油断するわけにはいきません。
ヤな奴に好かれてしまったなあ。いつまでつきまとわれるのか。憂鬱です。
20年もまえに痛風をやっているのに、いまはビールなどガンガン飲んでる飲み仲間。早くあの境地にたどりつきたい。
痛風を知りたい方へ 痛風の歴史  痛風の原因と対策
イラストは、愛読する「痛風財団」HPより。
posted by 呆け天 at 09:54| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする