2018年03月27日

畠山理仁『黙殺 報じられない¨無頼系独立候補″たちの戦い』

民主主義についての、愚直で真摯な問いかけ

世に「泡沫候補」と呼ばれる人々(著者は敬意をこめて「無頼系独立候補」とよぶ)がいる。彼らを20年追いかけているジャーナリストのルポルタージュです。彼らを愚直に取材し続けることが、期せずして「日本の民主主義ってなに?」という真摯な問いかけになっている。
日本の現実に迫る、こういう切り口があったか。意表をつかれました。
これまで、いわゆる「泡沫候補」の人びとにあまり関心をもったことがなかった。本書を読みおえても、マック赤坂をはじめ、本書でとりあげられている人たちの政策への共感や、政治家としての期待はわいてきませんでした。
しかし、彼らがあるときには借金までして高額の供託金を準備し、世間の無視に耐え、身を削って選挙に立候補し続けていることが、日本の選挙制度や民主主義の、重大な欠陥の告発になっているということは、よくわかりました。「選挙に出るのは、自分ではない誰か」と思い込んでいる有権者の怠慢にも、批判の刃は向いています。

1、供託金制度は民主主義に反している
日本では、衆参両院の選挙区と都道府県知事選に立候補するには300万、政令指定都市の首長選で240万の供託金が必要とされる。世界では、供託金という制度がない国(アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア…)が大半、ある場合でもイギリス7万5千円、カナダが9万円程度、高いと言われる韓国で150万円くらい。日本だけがとびぬけて高い。
これは、1925年の普通選挙法の制定までさかのぼる制度だ。それまで「直接国税3円以上の納税者である満25歳以上の男子」に制限されていた選挙権が、「すべての満25歳以上の男子」に拡大された。このとき、「売名行為での立候補を抑制するために」という口実で設けられたのが供託金制度だった。じっさいには社会主義者の立候補を妨げるためだったという説もあるという。
戦後の民主化がなされたときにも、この制度は是正されなかった。社会党や共産党などの野党勢力や、はじめて選挙権を得た女性候補たちは、この問題にどういう態度をとったのだろうか。
供託金廃止というのは、民主主義の入口のように感じます。
2、選挙(=民主主義)を楽しむシステムの不在。選挙期間と候補者数。
畠山が2003年に取材したアメリカ・カリフォルニア州知事選挙には、135人が立候補した。全員に出演依頼し、ひな壇に100人近い候補者がならんだテレビ番組があった。2016年のアメリカ大統領選には1746人が立候補を届け出、ほぼ1年にわたってお祭り騒ぎの選挙戦が行われる。
選挙=民主主義を楽しむという文化を、日本では作ってこなかった。衆議院12日間、参議院や知事選で17日間、町や村の首長や町議会選挙は5日間。こういう短い選挙期間は、候補者から政策を訴える機会を奪い、有権者から候補者を見定める機会を奪う。二世三世議員、有名人やタレントが当選してしまう欠陥だらけの選挙システムになっている。なるほどなあ。
都知事選なんか、せめて1ヵ月は必要だね。その間に、有権者が候補の政策の品定めをしながら、ああでもないこうでもないと考え議論する。途中でセクハラやパワハラ、家庭内暴力などが明るみにでた候補者が立候補をとりさげるなんてドラマがおきる。
供託金ゼロで誰でも立候補でき、戸別訪問もネットアピールも自由。ヘイトスピーチなど悪質な人権侵害は厳しく監視される。ぜひそういう選挙システムになってほしい。
3、選挙報道の不公正。
大手マスコミは、主要候補以外の政策や動向をいっさい伝えない。これは民主主義への背信行為だ。加えて、そのことに慣れ、あたりまえだと思っている有権者も民主主義の自殺に手を貸している。
グウの音もでません。
畠山は大手マスコミに怒るだけではなく、みずからニコニコ動画で「無頼系独立候補」の政策発信の場をつくるなど、次世代の選挙のありかたを模索しています。エライ。

このほかにも、さまざまな指摘や提言がされています。政治学者が論じているのとは根本的にちがうスタイル。生きて、傷ついて、血を流している「無頼系独立候補」たちに肉迫しながら、「日本の政治システムおかしくね?」と問いかけてくる。たいしたジャーナリストです。

選挙制度をいじるのは、百害あって一利なしと思ってきたが。

むかし、選挙制度改革と称して導入された小選挙区制と政党助成金は、日本の政治に厄災だけをもたらした。あれ以来、選挙制度をいじるのは百害あって一利なしと思ってきたが、本書で、民主主義の根幹をなすものとして適正な選挙制度改革が必要ということを認識させられました。
政治家が選挙制度を決めている今の制度は、どろぼうが戸締りについて決めるようなもの。選挙制度を国民が決めるシステムというのはどうすれば可能なんだろうか。そういう方面の本をさがしてみよう。
本書は、講談社ノンフィクション賞を受賞した由。食うのにも難儀しているフリージャーナリストが、受賞で有名になり、本が売れますように。

無頼系独立候補にスポットをあてた異色の労作に、乾杯。
黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い -
畠山理仁『黙殺 報じられない¨無頼系独立候補″たちの戦い』集英社、2017年、1600円+税。
posted by 呆け天 at 09:17| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月25日

高野秀行『メモリークエスト』

他人の記憶(メモリー)を探検(クエスト)するー高野秀行の奇妙な旅

「はじめに」で、「今まで世界の誰も書いたことのないノンフィクション」と高らかに宣言しています。
読者から、旅で出会った忘れられない事件や人についてのお便りをいただき、その現場にわたし高野秀行がでかけていって、その事件や人が現在どうなっているかをレポートします、というもの。テレビで、初恋の人や昔世話になった恩人と再会するといった映像はよくあった。それとなにが違うのかという気がしますが、高野はこの思いつきに夢中になり、雑誌社(幻冬舎Webマガジン)をまきこんで実行にうつします。
求めに応じて集まった依頼のなかから、5人にターゲットを絞る。タイの山奥で出会ったスーパー小学生、タイ・ミャンマー国境の小さな町で出会った日本への密入国希望のガイド、南洋・セーシェル諸島で古今東西の春画コレクションを誇るインド系老人、南ア・喜望峰めぐりの不機嫌なガイド、アメリカ留学時代に知り合った旧ユーゴスラヴィア出身の学生ボブは生きているか。
20年くらい前の、きままな旅でふと出会ったにすぎない人間についての、あやふやな記憶に基づく依頼。それを探しにでかけて行くというのもなんだかなあという気がしますが、高野はさすがの探索力で対象をみつけます。
いちばん面白いのが南アの喜望峰ガイドの項です。高野は着くなり依頼の件への関心を失う。代わりに、自分が10年ほど前にウガンダの安宿で助けたコンゴ(旧ザイール)人青年・リシャール・ムカバが「南アに逃げる」と言っていたことを思い出し、彼に会えないかと探索をはじめます。
旧ザイールの隣国ルワンダで起きた1994年の大虐殺(3ヶ月で、50〜100万人のツチ族が、フツ族に殺された)から3年ほどが過ぎたころに、高野はルワンダ、エチオピア、スーダンなどナイル川添いの国々を4ヶ月ほど旅していた。虐殺された側のツチ族は、反撃に転じてフツ族から政権を奪取し、その勢いで隣国のザイール(当時内戦中だった)にも攻め込んでザイール人軍閥・カビラを助けて大統領の座につかせた。カビラは国名をコンゴ民主共和国とあらためた。当時のザイールには大量のフツ族難民がおしよせており、ツチ族寄りのカビラ政権がフツ族を虐待していないかという懸念が世界から寄せられていた。
フランスの通信社AFPはたまたまコンゴ人青年・ムカバを通訳兼ドライバーとして雇い、難民キャンプで多数の死者をみつけ、スク―プをものにした。AFPはさっさとフランスに引き上げたが、ムカバは虐殺の目撃者としてコンゴ政府に追われ、逮捕・投獄される。しかし、看守が知りあいだったので脱獄でき、ウガンダで出会った高野からの支援(高野は100ドル渡したと思っていたが、実際はわずか20ドルだった)やもろもろの幸運のおかげで、決死の国境突破を繰り返して南アにたどりつく。
もう、明らかに高野向きのネタです。
いったいどこにいるか、南アにいるのかさえ不明の彼と、高野はみごとに再会します。それができたのは、たまたま高野が投宿した宿のスタッフがコンゴ人だったからだった。彼らのコンゴネットワークで、あっという間にムカバが見つかる。
ムカバは旅行会社をおこし、カナダ人のリベラルな恋人と豪邸に住んでいる…ウソだろという展開です。
高野の真骨頂、事実は小説より奇なり、がみごとに決まった一編でした。高野の場合、高野本人にまつわるハナシが、いつでもいちばん面白い。

さすがに続編はなさそう

他の事例も、高野のじたばたぶりが面白く、退屈はさせません。しかし、なんにせよみつけだす対象がフツーの人間ですし、ハナシは見つけるところまでで、依頼者との感動の再会といった盛りあがりもない。さすがに続編はなさそうです。
相撲に取りこぼしがあるように、ごひいきの作家にも読みこぼしがある。ほとんど読んだと思っていた高野に、こんな変わった本があったのかという、意外な一作でした。

逃げのびたコンゴ人青年・リシャール・ムカバに、乾杯。
メモリークエスト (幻冬舎文庫) -
高野秀行『メモリークエスト』幻冬舎、2009年、1400円+税。(現在幻冬舎文庫)
関連:2018年01月06日、高野秀行・角幡唯介『地図のない場所で眠りたい』http://boketen.seesaa.net/article/456022129.html
posted by 呆け天 at 10:11| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月21日

ルーシー・バーミンガム他『雨ニモマケズ 外国人記者が伝えた東日本大震災』

原子力ムラの最悪の姿と、被災現場で生き抜いた人々の無私無欲・勇気

日本在住の、二人の外国人フリージャーナリストが、東日本大震災を体験し、外国メディアに発信した記事を一冊にまとめた。震災翌年(2012年)にアメリカで出版され話題になった本の翻訳です。
ルーシー・バーミンガムはアメリカ生まれ。1980年代から来日し、長年米国タイム誌の記者。日本在住は25年を超える。2014年から2期、外国特派員協会長を勤めた。デヴィッド・マクニールは はアイルランド出身。2000年から日本在住。エコノミスト誌、ザ・インディペンデント紙記者。上智大学講師。

ふたりは、「普通の人々」の目を通して大震災を描くという作戦をたて、6人の人たちへの継続的な取材をおこなっている。そのひとつひとつが感動的です。
ユーチューブで世界に救援を訴えた南相馬市・桜井勝延市長(福島)。間一髪で自分の船を外洋に出した漁師イチダ・ヨシオ(福島)。原発現場で注水作業に身を挺して携わった契約社員ワタナベ・カイ(福島)。陸前高田で夫を失ったウワベ・セツコ(岩手)。東松島で子どもたちに英語を教える地域講師として働いていたデヴィッド・チュムレオンラートの恐怖の津波体験(宮城)。東北大学に合格しているが、被災によって進学の危機にたたされた青年サイトウ・トオル(宮城)。
それぞれの人生に深くたちいった取材が、この大震災が東北の人々にもたらした厄災の深さ大きさを浮き彫りにする。みごとなドキュメンタリーになっています。

本書の魅力はもうひとつあり、日本のジャーナリズムが口ごもるようにしか言わないことを、明瞭なことばで語っている。
1、菅直人が介入しなければ、東京を含む3500万人が避難する事態になっていた。
東電社長・清水正孝はいっさい公の場にあらわれず、官邸に第1原発スタッフの撤退を認めるよう要請した。管は激怒し、東電に乗り込んでスタッフの撤退を認めず、注水作業の継続を命じた。これが分かれ目で、もし管がこれをしなかったら、3500万人が避難生活を強いられる事態=東京壊滅がもたらされていた。
今日ではこの事実はまるで逆に描かれている。専門家でもない菅直人があれこれと口出ししたことが現場を混乱させ、復旧作業を困難にさせたというお話しが、読売・産経などの右翼ジャーナリズム、東電幹部、自民党によってつくられ、国民の多くはむしろそっちの認識にかたむいている。清水など東電幹部は誰一人刑事罰も経済的な制裁もうけなかった。
2、「震災は過去の方法と決別させるだろう」という予想は完全に覆された。
第1原発事故からわずか1年の2012年5月に、あろうことか野田民主党政権は「原発再稼働」を決める。自民党・経団連・右翼ジャーナリズムはどのような被害が国民にもたらされようと、原発の維持をごり押しした。野田たち、愚かな民主党幹部はこれに圧倒された。これが同年12月の民主党の壊滅的敗北を決定づけた。原発の維持・再稼働を求める勢力は、日本の核武装のために原発を手放さない。
3、南相馬市桜井勝延市長の奮闘。
南相馬市の桜井勝延市長は11分のビデオを作ってユーチューブにアップし、世界に向かって救援をよびかけた。政府からも、東京電力からも十分な情報を得られず孤立しているわれわれを助けてくれ、というよびかけは世界の反応をひきおこし、援助や、ボランティア、ジャーナリストが南相馬にかけつけた。日本の政治家には珍しい行動力だった。そのとき、日本の大手メディアは南相馬からひきあげ、一人も現場にいなかった。

ふたりの発信は、世界の人々からの支援の呼び水になったことでしょう。心からお礼をいいたい。
日本のジャーナリズムは、二人のレポートに負けない報道のために、がんばってくれ。

印象に残った、NHKの二つの特集

3月11日の大震災に合わせて、多くの特集番組が放映されました。
NHKスペシャル「めざした¨復興″はいま 震災7年ー被災地からの問いかけ」(3月11日)が鋭かった。大越健介キャスターが宮城、岩手、福島の「復興の現状」に丁寧にせまり、エンディングで「政府は復興の総仕上げというが、ある意味むなしさを感じる」というメッセージを放ちました。いまなお、原発事故で避難を余儀なくされている人々が7万人を越えている。その根本問題から目をそらした「復興の総仕上げ」というかけごえのむなしさ。
もうひとつ、同じく3月11日放映のNHK・BS1スペシャル「福島タイムラプラス」の映像もすばらしかった。「タイムラプス」というのは、連続撮影した写真をつないで動画にする技法。福島県出身のカメラマン清水大輔が、福島の被災地を訪ねて「原発避難指示」を拒絶し富岡町(原発から11キロ)で暮らし続ける人や、相馬馬追いにかける人たちを丁寧に撮った。
ふたつの作品を見ていると、安倍のオトモダチの異様な会長が去ったNHKは、少しは正気に戻りつつあるのかという期待をいだかせます。

大震災の姿を世界に伝えた二人のジャーナリストに感謝をこめて、乾杯。
雨ニモマケズ: 外国人記者が伝えた東日本大震災 -
ルーシー・バーミンガム/デヴィッド・マクニール『雨ニモマケズ 外国人記者が伝えた東日本大震災』えにし書房、2016年、2000円+税。
関連:2015年07月25日、NHKスペシャル「メルトダウン」取材班『福島第一原発事故7つの謎』http://boketen.seesaa.net/article/422940747.html
posted by 呆け天 at 09:54| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする