2017年12月10日

藤田祥平『日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと』

そうか、これが26歳「失われた世代の寵児」の実感か

宋文洲のメルマガ配信を受けて愛読しています。
同意できることも、小首をかしげることもありますが、宋のオリジナリティあふれる言論には刺激をうけます。
12月8日配信の「戦略とはどう勝つかではない」(論長論短 No.309)では、中国のシルクロード経済圏構想(一帯一路)と日本との関係が論じられています。

ここで紹介されている藤田祥平『日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと 』(Webマガジン「現代ビジネス」12月2日掲載)という一文が、なんともはや傑作です。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53545
仕事で、中国の「ヴァーチャル・リアリティ市場」を取材するために深セン(広東省)を訪れた藤田は「負けた!」と実感します。活気に溢れた街、行き交う人々、取材する若い企業人たちの乱暴と思えるほど素早い決断…「これが高度経済成長というものか」と実感する若者の驚愕が、なまなましく伝わってきます。
藤田は自分のことを「バブル崩壊の暗雲立ちこめる1991年に生まれた、失われた世代の寵児」と規定する。いたいたしいまでに自虐的な自己描写です。
中国の経済発展をまのあたりにして、「おれたちを先の見えない国内戦で消耗させるのをやめろ。おれたちをビジネスの『鉄砲玉』として中国に送れ」と叫びます。中国に(経済的に)完敗したことを認め「中国とも独自の協調路線を取れ。読み終わった英語の教本を売り、中国語の教本を買え」と訴えます。
なるほどなあ。
感触は『「丸山眞男」をひっぱたきたい--31歳、フリーター。希望は、戦争。』(赤木智弘、2007年)に似ているともいえます。しかし、赤木の主張に充満する救いのなさを、突き抜けていく明るさが藤田の文章にはあります。
藤田は「経営者、権力者、決定権をもつオッサン」たちに訴えているわけで、無力なリタイア・オッサンにおもしろがられても屁のつっぱりにもならないでしょうが、「いいね!」1クリック、ざぶとん一枚。26歳といえば人生これから。紆余曲折がまっているだろう藤田青年の未来に幸あれ。

宋文洲は、藤田のレポートを興味深いと紹介しつつ、「中国に勝つか負けるか」という問題の立て方をする「日本の病理」を指摘しています。
そういう感覚は「中国人から見ると実に一方的な勝手な話です。日本の十倍の人口と25倍の国土と、日本に文化を伝授した国にライバル心を燃やしてどうするのでしょうか。そんな時間を日本自身の問題解決や国家ビジョン作りに使うべきではないかと思うのです。」と、言い放ちます。
これ、宋ブログにまとわりついて「中国共産党の手先」とか「日本の悪口言いたいんなら中国帰れ」とか、毎号毎回飽きもせずに書き募るネトウヨ爺さんたちを挑発した感じです。ふだんはなかなかここまでは言わない。26歳藤田の、「中国に完敗してる」というレポートで、宋の筆も走ったようです。

それはともかく、宋の「戦略とはどう勝つかではない。どう生きるかです」ということばには、耳を傾けるべきでしょう。「反中従米」右翼が支配する日本に対して、実はいちばんまともな忠言をしているのが宋ではないかと感じます。徹底的に「商人」としての立ち位置からの発言ではありますが。

関連:宋文洲メルマガの読者の広場http://www.soubunshu.com/
2016年02月23日、宋文洲による安倍政権の三カ年総括。http://boketen.seesaa.net/article/434165575.html
2015年08月25日、むのたけじ100歳、石原慎太郎に吠えるhttp://boketen.seesaa.net/article/424712773.html
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2017年12月06日

下斗米伸夫『神と革命 ロシア革命の知られざる真実』

まったく知らなかった、もうひとつのロシア革命の姿

1917年にロシアのボルェビキはわずか5000人にすぎなかった。それが「全権力をソビエトへ」というスローガンで魔法のように権力奪取までつきすすんだのは、ロシアにおける革命の古層・永遠の反乱者=古儀式派(ロシア正教の異端派)の支持を得たからだ。「ソビエト」という呼称は、もともと古儀式派の「信徒集団」に由来する…。
なにか、陰謀論とかトンデモ本とかに分類されかねない主張に聞こえますが、強い説得力があります。ソ連が崩壊したことで、これまでタブーとされてきた宗教に関する資料・史実研究が可能となった。そこから浮かび上がってくる「知られざる真実」に迫る本です。

しかし、まあ、驚きの内容です。
通説として知っているロシア革命史の裏側に、透かし絵のようにあぶりだされてくるもう一枚の絵を見ている。そんな気分になります。
ものすごく乱暴に要約すると 次のようなことです。
1、ロシアには、350年以上も前にロシア正教会から「異端」の烙印をおされた古儀式派があった。
1666年にロシア正教は分裂した。「モスクワこそ第3のローマ」と考え、第2のローマたるコンスタンチノーブルがオスマン・トルコに奪われても別に奪回戦争などしなくていい、と主張したのが異端派だ。メシアニズム、大ロシア主義的なナショナリズムが根底にある。首謀者は火あぶりにされ、信徒は徹底的に弾圧された。
ロシア皇帝のいるペトログラードを背教者の都とみなし、モスクワこそ「聖なる都」と考えている。教会を持つことを禁じられ、主にボルガ河沿いに住む。数十の分派に分かれてはいるが、ロシア正教会に対する反逆の意志を常に保持している。かれらは、自分たちの信徒集団を「ソビエト」と呼んでいた。
2、1905年、地方都市イワノボに姿を現わした「ソビエト」は、古儀式派の労使協議機関だった
古儀式派は、勤勉、世俗的禁欲を旨とし、西欧プロテスタンティズムが資本主義を生んだように、ロシアにおける産業勃興の推進力となった。モスクワとボルガ沿岸の大工場は、労使ともに古儀式派だった。1905年ロシア第1革命のときに初めて歴史に登場した「ソビエト」は、実は古儀式派の労使の協議機関だった。だから、当時のレーニンはソビエトをまったく重視していない。
1917年ロシア革命時が古儀式派の最盛期でもあり、ロシア人口の3分の1を占めていたともいわれる(ソ連崩壊後の現在は約200万人)。
3、「全権力をソビエトへ」がモスクワで圧倒的な支持を得る。
レーニンは1917年4月テーゼで、ソビエトをパリコミューンの再来と位置づけ、「全権力をソビエトへ」と叫んだ。このスローガンがロシア革命の決定的な動因となった。それまで、ボルシェビキはソビエトをうっとうしく思っており、革命委員会とか、もっと効率的な党支配の貫徹する方法を好んでいた。もともと古儀式派の信徒集団の「ソビエト」は、食料の分配や暮らしにかかわるあれこれを民主的な話し合いで決めるものであったから、全員参加型の、非効率な決定機関だった。
「全権力をソビエトへ」は、2月に勃発したロシア民主主義革命が、労働者階級によってのみ完遂されることを告げる雷鳴となり、ボルシェビキによる権力奪取へとつながった。古儀式派のリーダーも信徒も、全力でこれを支持した。
4、「労働組合論争」「クロンシュタットの反乱」「教会弾圧」「食糧調達と農民鎮圧」…
以下、脆弱なスタートをきったプロレタリア独裁という名の共産党一党独裁と、労働者・農民・兵士との軋轢が、古儀式派との絡みで延々と叙述されていきます。著者自身が研究途上にいくつかの雑誌・学会誌に発表したものであるため、素人が要約するのは手にあまります。
これだけ面白いはなしですから、新書などの形ですっきりと整理したものが、近いうちに上梓されるのではないかと期待します。

佐藤優『自壊する帝国』には「分離派」として登場

それにしても、これまでロシアやソ連に関する本の中に「古儀式派」という言葉を聞いたことが一度もないのはなぜなんだろう。あれほど、キリスト教とマルクス主義の両教義に詳しい佐藤優の本のなかにだってでてこなかった…と思って、念のため『自壊する帝国』を調べてみたら、「分離派」という名称で、ばっちりとでていました。
モスクワ大学で知りあった反体制活動家サーシャに連れられて、ラトビア共和国の首都リガで、分離派のしかも壊滅したはずの無司祭派の修道院を訪ねる印象的な記述があります。
さらに、ソ連維持派の国家主義者「黒い大佐」ことビクトル・アルクニクスは、分離派を出自とする政治家だった。彼は、日本政府に逮捕された佐藤優を救出するため、ロシア上下院議員の署名を集めることを提案してくる。佐藤は弁護人を通じて固く辞退したという挿話もでてきます。いかにも「永遠の反乱者」古儀式派出自の政治家らしい申し出です。

『神と革命』の最後に、1922年のシューヤ紛争がとりあげられている。飢饉に対処するために教会のイコン等を収奪して売却すべきだという強硬派(レーニン、トロツキー、スターリン等)と、教会と和解して飢餓に対処すべきという古儀式派系穏健党員(カリーニン、ルイコフ等)が対立し、レーニンは抵抗する聖職者や信徒への発砲を許可した。
1990年、ペレストロイカのさなかに、この時のレーニンの指示文書が公開されたことで、レーニンとスターリンは別であるという伝説は崩れ落ち、「レーニンに帰れ」というゴルバチョフのペレストロイカは崩壊した。

まだまだ、これくらいではすまない「ロシア革命の暗部」が、長期にわたって、あらゆる角度からでくるでしょう。なにをなすべきか、なにをなすべきではないか。ロシア革命についてのあらゆる角度からのタブーなき検証が必要です。そうしてこそ、20世紀最大の転換点となった革命の、真実の意義が明らかにされる。

透かし絵のように浮かび上がる、もう一つのロシア革命の姿を描いた労作に、乾杯。
神と革命: ロシア革命の知られざる真実 (筑摩選書) -
下斗米伸夫『神と革命 ロシア革命の知られざる真実』筑摩書房、2017年、1800円+税。
関連:2017年11月09日、ロシア革命100年にあたって、呆け老人が思うことhttp://boketen.seesaa.net/article/454760200.html
posted by 三鷹天狗 at 09:07| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月26日

鈴木敏夫『ジブリの文学』

鈴木さんは弟じゃない。ぼくらのお父さんなんだよ

35年前に、鈴木敏夫がはじめて宮駿崎と組んで仕事をすることになったとき、鈴木は大塚康生(宮崎の大先輩にして元上司『作画汗まみれ』 )に「宮さんと仕事で付き合う上で、大事なことを教えてください」と質問した。
大塚は答える。
「大人だと思えば腹が立つ。子どもだと思えば腹も立たない」

これには、対になるエピソードがついている。
鈴木のアシスタントがあるとき宮崎に「鈴木さんは、かわいそうです。宮崎さんと高畑さんという、お兄さんふたりがとんでもない人たちだから」というと、宮崎は大真面目な顔でかえしたという。
「鈴木さんは弟じゃない。ぼくらのお父さんなんだよ」

これだけだと、宮崎をこども扱いする鈴木の自慢話本かと思われかねませんが(そういう要素も確かにありますが)、もちろん根底には宮崎の天才的な創造性に対する、尽きせぬ畏敬の念があります。自分自身はクリエイターではなく、プロデュース業向きの人間という、諦念かつ自負がある。
宮崎が制作中に行き詰ったり袋小路に入ったりしたときに、鈴木相手に相談のようなぼやきのような言葉をもらす。鈴木はためらいや逡巡を捨てて「それは○○でしょう」と断定的な言葉を発する。宮崎は、同意したり反発したり、あるいはまるで違うことを思いうかべたりして次のステージに進む。
宮崎の側にも、経営者・プロデューサーとしての鈴木に対する、絶対的ともいえる信頼があればこその、火花の散る対話がさまざまに再現されていて、興が尽きません。
『千と千尋の神隠し』で、魔女・湯婆々(ゆばーば)の声を任された夏木マリは、宮崎に「夏木さんこの役を悪役だと思ってません?違うんです。自分の経営する湯屋を守ろうとして必死に働いているだけの女なんです。うち(ジブリ)の3階に鈴木というのがいて朝から晩まで銭勘定ばかりしてますがそれと同じなんです」といわれ、いっぺんに役がつかめたという。
夏木がテレビ番組で泉谷しげる相手に披露したエピソードですが、宮崎の鈴木観をこれほど端的にあらわしたことばは他にないでしょう。

鈴木が、さまざまな媒体で書いたり語ったりした短文、雑文をよせあつめた本ですが、宮崎アニメファン、ジブリファンにとってはどんなハナシも楽しい。
あとがきで鈴木は「『レッドタートル』がジブリの最後の作品として公開される、それは我慢がならない」というのが、宮崎の本音だと明かしています。業の深さにためいきがでます。
なら、引退宣言なんかしなきゃいいじゃないかと凡人は思うわけですが、あの引退宣言もまた天才宮崎には、どうしても必要だったんでしょうね。

宮崎駿が『君たちはどう生きるか』を制作開始したという

今朝(11月26日)の朝日新聞読書欄に、「漱石生誕150年」を記念して宮崎駿と半藤一利の対談が行われたという記事が載っている(「漱石と日本、そして子どもたちへ」)。
対談の冒頭に宮崎が、制作中の新作長編のタイトルが「君たちはどう生きるか」であると発表したとある。「君たちはどう生きるか」といえば、吉野源三郎が戦前(1937年)に少年向けに書いた人生論のような、社会・経済の仕組み解説のような、あの本か。丸山眞男が、これぞ「資本論入門」と絶賛したことで有名になった。
タイミングも同じ今朝のNHKニュース(朝7時台)で、今年8月に発売された『漫画 君たちはどう生きるか』( 羽賀翔一・イラスト) が数十万部のベストセラーになっているというのが流れた。
フーム、あの本が宮崎アニメになるのか。いったいどんな作品に仕上げるんだろう。もっとも、宮崎は「完成に3〜4年かかる」と言っているらしい。
元気で鑑賞できるように、カラダをきたえておこう。

宮崎駿の新作アニメ制作開始に、乾杯。
ジブリの文学 -
鈴木敏夫『ジブリの文学』岩波書店、2017年、1900円+税。
関連:2013年09月03日、半藤一利・宮崎駿『腰抜け愛国談義』http://boketen.seesaa.net/article/373838012.html
2014年05月02日、泉谷しげる『昭和の歌よ、ありがとう』http://boketen.seesaa.net/article/396069931.html
posted by 三鷹天狗 at 10:46| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする