2018年03月03日

練馬・石神井公園で開かれている藤沢周平展

誠実な人に、天才はいない。藤沢周平は、誠実でありながら天才だった。(阿部達二)

藤沢周平は、1976年から亡くなる1997年まで約20年間、練馬区大泉学園町で暮らした。自身のエッセイでも、娘・遠藤展子の2冊の著作(『藤沢周平 父の周辺』『父・藤沢周平との暮し』)でも、田舎の風景の残る練馬を愛したことが、さまざまに綴られています。
練馬区立石神井公園ふるさと文化館と同分館で「生誕90年記念藤沢周平展」(2/20〜4/1)が開かれているので見学しました。昨年、没後20年を記念して開かれた藤沢周平展をベースにしながら、「藤沢周平と練馬」という、もう一つのテーマをほりさげたとても良い展覧会でした。
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本館の展覧会の一画で「海坂(うなさか)へ〜藤沢周平心の故郷」(2007年、時代劇専門チャンネル制作)というビデオが流されています(約30分)。遠藤展子、黒土三男(映画監督)、高木文彦(文藝春秋・編集者)阿部達二(同)の4人が対談し、対談内容に即した映像が挿入される。
遠藤展子が、父・周平の毎日の散歩道を歩き、なじみの喫茶店や本屋に立ち寄り、必ず休んだという小さな公園に着くと、そこで写した藤沢周平のスナップがオーバーラップしてくる。藤沢周平ファンにはたまりません。たまたま一緒に見ていたご婦人の二人連れが、小さな声で「ほらあのお店、あなたの家の近くの…」などと話しているのも好ましい。地元の人たちも、藤沢周平がここで暮らしたことを誇らしいと感じている。
「マイブックス」という近所の本屋では、経営者夫妻が「藤沢さんはこんな本を注文されていました」と、小説のための資料や気象雑誌、翻訳物のミステリーなど毎月のように膨大な注文をしていたことを明かす。そうか。資料は神保町で集めるというのではなく、近所の小さな本屋で入手できるものはそうしていたのか。「普通がいちばん」という信念を、資料集めですら貫いていたことがわかります。

4人の対談で、黒土が高木と阿部に「担当編集者の目から見た藤沢はどんな人間だったか」と問うと、高木が「誠実な人でした」と答える。阿部がそれを引きとって「誠実な天才でした」と重ねていく。
阿部「ふつう、誠実な人に天才はいないわけです。しかし、藤沢周平は、誠実な人でありながら、天才だった」。
これは初めて聞いた藤沢評です。確かに、言い得て妙。
若くして病魔に犯され、幼い展子を残して亡くなった妻・悦子は、藤沢が小説を書くことを誇りに思っていた。藤沢が業界誌記者をやめて作家専業になったのは、そうすればいつでも悦子の忘れ形見・展子と一緒にいられるからだった。誠実に締め切りを守り、良質な作品しか書かない。作家として生きることが悦子への供養であり、展子との「普通の暮らし」を守る術だった。
阿部「いい加減に書いて、ゲラの段階で直せばいいやという作家もいます。藤沢さんは、原稿の段階で最上の作品に仕上げていた。ゲラのときにさらによくできないかと推敲をかさねた」
阿部「名前入りの原稿用紙をつくりませんかと勧めたことがあります。藤沢さんは頑としてそれをしなかった」
展子「近所の文房具屋さんでコクヨを買って書いていました」
こもごも語る4人のことばから、在りし日の藤沢が浮かんできます。

分館では「ふるさとへのメッセージ」(1983年、YBC山形放送制作)という約10分のDVDが流されており、まだ50代半ばの若々しい藤沢の映像を見ることができます。展子が、若いころの父について「佐田啓二に似た美男子」と評していますが、あながち言いすぎともいえないほどいいオトコです。

和子夫人が昨年末に亡くなられたそうです、ご冥福をお祈りします。

展覧会入口に、平成29年12月29日に和子夫人が亡くなられた(享年86歳)とあります。合掌。
藤沢は、幼子と老母をかかえて溺れそうになっていた小菅留治が、藁をもつかむ思いで和子夫人にすがったのだと、率直にエッセイに書いています。
その割には、和子との間には子どもはつくらない(展子のため)だの、展子が家出したときに「ただですむと思うなよ」と言ったとか、「それがすがったやつのセリフかよ」と言いたくなる言動もありますが。
和子夫人は展子に「わたしの趣味は藤沢周平」といったそうですから、よほど惚れてくれてたんでしょう。悦子の死という理不尽が、作家藤沢周平を産んだ。和子の支えが「普通の暮らし」を可能とさせ、「誠実でありながら天才」藤沢周平の、数多の傑作を育んだ。

藤沢周平と二人の妻に、敬意をこめて、献杯。
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練馬区立石神井公園ふるさと文化館「生誕90年記念藤沢周平展」同分館「藤沢周平と練馬展」ともに2月20日〜4月1日。3月2日に見学。
関連:2017年01月13日、「没後20周年記念 藤沢周平展」http://boketen.seesaa.net/article/445877050.html

追記。この展覧会も例によって「撮影禁止」です、ほんとに意味がない。先端の美術展などで「撮影可。みんなに拡散して」という動きになっているのを研究してないのか。せっかく工夫した展示を撮影させないでどうする。
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2018年02月27日

碁会所に「そだねー」の声とびかう

いつものように武蔵境の碁会所で打っていると「そだねー」という声が聞こえる。
相手がなにか言ったのに合わせて「そだねー」と語尾下げの合いの手をいれる。世の中の動きに敏感な常連・Kさんが、平昌オリンピックのカーリングチームから拝借して使ったらあっという間に流行ったもようです。数年前に「あまちゃん」ブームで「じぇじぇッ!」が流行って以来の現象です。

碁会所から居酒屋に移動しての飲み会では、最初から最後までオリンピックネタでもりあがります。
「あのロシアの二人は(女子フィギュア)、出てきただけで10ポイントくらい加点されてんじゃないのか」
「そ、なにしろ10代のロシア女性は世界でいちばん美しいっていわれてるからなあ」
「それで年とるとビア樽みたいに太るんだろ」
「パシュート、あれだけオランダとの体格差があっても勝ったのはすごい」
「オランダから来たコーチの指導や作戦が、えらいみごとだったそうじゃない」
「それでオランダに勝ったんじゃ申しわけないようなもんだな」
「そういえばパソコンの格闘技ゲームなんかをオリンピック種目にするハナシがあると聞いたけど、それはないだろ」
「ありえないよ。オリンピックはからだを使って競うゲームだろ」
「いや脳も体のうちだ」
「じゃ、囲碁将棋もオリンピック種目にするのか」
「よくわかんないけど、そうなったらなったで面白いかもしらん」
…果てしなく平和な議論がつづく。これだけでもオリンピックの功徳です。

2月19日の朝日新聞スポーツ面、小平奈緒の写真がすばらしかったので模写してみました。
小平奈緒2.jpg
すばらしいオリンピックを運営した韓国・平昌に、乾杯。
健闘した日本選手、各国選手を讃えて、乾杯。
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2018年02月23日

追悼、金子兜太さん

原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ

「闘う戦後俳句」を体現してきた俳人・金子兜太さん(98歳)が2月20日、亡くなられた。合掌。
季語があってもなくてもいい、今このときを詠むのが俳句なんだと説き、実践してきた。
精力的な風貌、ざっくばらんな語り口。ときおりテレビや雑誌で見かける姿は、俳句を趣味としない者にとっても、強いインパクトがあった。2月21日朝日新聞夕刊には、2017年7月に丸木美術館を訪れたときの写真が掲載されています。原爆を詠んだ、忘れられない二句。

湾曲し火傷し爆心地のマラソン
原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ

金子兜太.jpg

海軍主計中尉として南洋・トラック島で戦場を体験し、15か月間の捕虜生活を終え、日本へ帰る船上で詠まれた一句。

水脈(みな)の果て炎天の墓碑を置きて去る

苛酷な戦場体験と、反戦への意志がみなぎっています。その決意の通りに、「有季定型」の枠を打ち破り、現実の人間社会と切り結ぶ句をつくり続けてきた。最近では「すべての日本語が詩言語だ」と語っていたという(作家・いとうせいこうの談話)。それもすごい。
安モノの酒(=ナショナリズム)に酔ったような安倍政権への怒りを、ストレートに吐きだした「アベ政治を許さない」の揮毫は、2015年の反安保法制の闘いのシンボルとなった。亡くなった今となっては、遺言です。偉大な俳人の遺言が、強い霊力で官邸をにらんでいます。

金子兜太さん、「今このとき」を詠んできた戦後俳句の巨人に、献杯。
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関連:2016年08月01日、『寅さん、何考えていたの?』http://boketen.seesaa.net/article/440625583.html
2016年01月01日、深大寺初詣。今年も祈ること多し。http://boketen.seesaa.net/article/431965873.html
2015年04月05日、菅原文太『ほとんど人力』http://boketen.seesaa.net/article/416798418.html
2016年03月31日、「原爆の図 丸木美術館」を訪ねるhttp://boketen.seesaa.net/article/435965685.html
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