2017年08月08日

國分功一郎/山崎亮『僕らの社会主義』

マルクス・レーニン主義とは無縁の社会主義が、熱く語られる

ともに40代前半の学者ふたりが、社会主義について熱く語りあっている。
ただし、呆け天世代が社会主義を論じるときの前提になっている「社会主義=マルクス・レーニン主義」という等式は、ふたりにはまったくない。
ふたりにとってマルクス・レーニン主義は「失敗した全体主義」、過去の遺物として扱われている。
そうか、無理もないか。ソ連崩壊(1991年)のときに16〜7歳だったふたりが、大学に入った時のアカデミズムの世界では、マルクス経済学は総退場していた。中国では、ケ小平が南巡講話(1992年)で「社会主義市場経済=一党独裁資本主義」の実験をはじめていた。
わかもの用語でいう「オワコン=終わったコンテンツ」が社会主義であって、そりゃあ見向きもしなかったろうな。当時40代なかばで、呆然として世界の動きをながめていた呆け天とは、見えている世界がまったく違っている。

ふたりは行動する学者、現実世界と密接にかかわって思索を深めるタイプの学者だ。
國分は、東京都小平市の都道建設計画の見直しを問う住民投票に深くかかわり、地方自治、民主主義、住民参加などについて魅力的な提言をしてきた。
山崎は「コミュニティデザイナー」として活躍し、人口減少に悩む地方自治体や集落でさまざまな実績をあげてきた。藻谷浩介との共著『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』(2012年)は、停滞する日本社会に風穴をあけるような爽快さに満ちている。

ふたりが熱く語る社会主義は、エンゲルスが「空想的社会主義」とレッテルを貼って切りすてた、イギリスの初期社会主義思想です。ロバート・オーエン、トマス・カーライル、ジョン・ラスキン、ウィリアム・モリスなどの著作や行動が、くわしく、豊かに論じられる。
恥ずかしながらわたしは、ここにあげられたイギリス初期社会主義思想家たちの著作を、一冊も読んでいない。読むにあたいしない、社会的使命をおえた「空想」と思い込んでいた。
ところがふたりは、いま世界が格差と貧困の問題に直面している事態は、当時(19世紀)のイギリスの格差と貧困問題と向きあったモリスたちの思索と行動から学ぶことで、突破の糸口がみえると予感しているようなのです。エンゲルスのレッテル貼りがいかに不当か、ボルシェビズムに一元化された社会主義がいかに貧しく楽しくないか、モリスたちの実践がいかに可能性に満ちているか…。
トホホ。いまからラスキンとかモリスとか、読めるかなあ。

2006年に亡くなった米原万理は「世界史的に見ても、共産党が政権を奪取して国民が幸福になった例は皆無。しかし野党である限りは、かなり頼りになる」(『偉くない「私」が一番自由』)ということばを残した。「マルクス・レーニン主義」は、体制批判の武器としては使えるが、人々を幸せにする社会の建設には使えない、という米原の断定です。
「全体主義的な解決を求めるのではなく」ということばは、ふたりの対話で繰り返しでてきます。いま生きている人々が「日和をみながら」楽しく生きていける方策を探り続けるーそれが、ふたりのいう「僕たちの社会主義」のようです。オビのキャッチコピーが「いまこそ楽しい社会革命を語ろう」です。

「主義は病気だ」という山崎の上司のことば

ふたりが、民主主義、コミュニティ、まちづくり、楽しさの自給自足(楽しさ自給率)、社会主義のつまみぐいなど、自在に語っている立場も思考も用語も、呆け天世代の「右派、左派」といった感覚とは完全に断絶している。
対談中に、山崎が研究所の上司(経済学者・林敏彦)から言われたという「主義は病気だ」ということばが、対談全体を貫く基調になっている。どんな主義も「正しさの体系」のトリコになり、日和見や楽しさは放逐される。日和を見て、楽しく生きることこそ、豊かな生活なのに…という風に。
なるほどなあ。「主義は病気」か。「正しさの体系」を追い求める人間の病気が、全体主義という牢獄をつくりあげるのか。
いまさら捨てることもできない左がかった価値観のまま、これからもふたりの著作には注目していきます。

息子世代の学者たちの、エネルギーと希望に満ちた対話に、乾杯。
僕らの社会主義 (ちくま新書 1265) -  國分.jpg
國分功一郎/山崎亮『僕らの社会主義』ちくま新書、2017年、800円+税。
関連:2016年07月14日、米原万理『偉くない「私」が一番自由』http://boketen.seesaa.net/article/440021757.html
2016年06月19日、國分功一郎『民主主義を直感するために』http://boketen.seesaa.net/article/439128234.html
2016年06月28日、村上稔『買い物難民を救え!』http://boketen.seesaa.net/article/439478200.html
posted by 三鷹天狗 at 08:25| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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