2017年05月29日

岡崎慎司『鈍足バンザイ!僕は足が遅かったからこそ今がある。』

鈍足でも、ネガティブでも、トップアスリートになれる。

岡崎慎司といえば、日本代表のベテランFW。キャップ数(日本代表試合数)108、50得点(2017年5月現在)という、歴代3位の記録をもつ、れっきとしたエースです。記録はさらに伸びるでしょうから、55得点のカズこと三浦和良を抜いて、歴代2位になる可能性もある。
その岡崎が自分のことを、足が遅い、ドリブルがヘタ、視野が狭い、モテない、人気がない、いじられキャラ、ネガティブ思考…、トップアスリートとは思えない人間であると、率直に語っている本です。

高校を卒業して清水エスパルスに入団した岡崎は、フィジカルコーチ杉本の指導で、大学陸上部の女子選手と坂道を並走し、何本走っても一度も勝てなかった。それ以降、今でも杉本から走りかたを指導してもらっており、着実に成長しているのだが、ドイツに移籍してチーム内の短距離走の順番を測ったら2番目に遅いタイムだった。
つまり現役バリバリの鈍足FWというわけです。
ここから先が、通常のスポーツ成功ものがたりと少し違う。ふつうここからは、短所を嘆くのではなく、長所をのばせというオハナシにいくわけです。足が遅くとも、相手守備陣とのかけひき、裏に抜け出すスピードといった、自分の長所を伸ばせばいいんだ、少年たちよ!
ところが岡崎は、いま現在にいたるまで、自分の「鈍足」という短所の克服にとりくみ続けている。杉本の指導をうけ、ムダのない走り、トップスピードへの瞬時の移行といった、自分のいちばんの課題に挑戦し続けている。その執拗さがすごい。決して手をぬかず、科学的・合理的なトレーニングで一秒でも早く走れるようになるための努力をおしまない。
「足が遅くて良かったなあと僕はいつも思っている。足が遅いという強烈なコンプレックスがあったからこそ、今の僕があると確信しているからだ。足の速さではチームメイトに負けるから、たくさんのゴールを決めるにはどうすれば良いのかを常に考えてきた。足が遅いから、(杉本)龍男さんの提供してくれるトレーニングに全力で取り組むことで少しづつ早くなる喜びを実感できた。」
じぶんの短所にとことんむきあうという、いまどきあまり流行らない、しかし強烈な説得力をもつ考え方と実践です。

ネガティブ思考。
「怖い。試合が始まるのが怖い。プレッシャーを楽しむなんてもってのほかだ。」
「結局、僕はものすごく臆病なのだ。だから、最悪の事態を想像して気持ちをなえさせておく。つまり自分へのハードルを下げておく。そこまでして、なんとか試合に臨む。自分が臆病だとわかっているからこそ、謙虚に戦える。」
まるで「臆病剣松風」の瓜生新兵衛です(藤沢周平『隠し剣孤影抄』)。
ポジティブであることこそ一流アスリートの条件とされています。勝利のイメージ、成功のイメージを抱いて試合にのぞみ、実際にそれをひきおこす…そういう話ばかりが語られる。
しかし岡崎は「サッカーなんだから負けることもある」としか考えられない。この試合を負けたら、その次の試合どうするかということを考えてしまう。だから、勝ってもあまり舞い上がらないし、負けてもあまりおちこまない。ひとにすすめられても、流行りの「メンタルトレーニング」は、やらない。
鈍足でネガティブですが、それでなにか問題でも?という、逆張りの発想が冴えています、

一流アスリートの本は、際立ってこそ、おもしろい。

一流のアスリートの書いた本としては、落合博満の名著『采配』にならぶくらい面白いと感じました。
三冠王3回、監督をやればリーグ優勝あたりまえという、超がつく一流の落合は、「オレ流」を貫いて結果をだしてしまう。コーチのいいなりになるな、彼らの言うとおりにやって成績がおちても、だれもお前の生活の面倒などみないぞという、ミもフタもない「真実」が語られます。天馬空を行くような落合の言動は、凡人にとっては手が届かない、想像の及ばない境地をのぞく面白さに満ちています。
岡崎は、なんとか清水エスパルスに入れてはもらったが、「なんでそんなこともできないんだ」「下手くそ」という先輩の怒声におびえながら練習し、いじられキャラ・へらへらキャラで居場所を確保してきた。今でも、監督、コーチ、先輩たちが語ってくれたこんな大切なことばがあると、たからもののように語ります。
2012年に国際試合から帰って成田空港に着いたとき、香川真司のとなりにいた岡崎は、香川ファンの女性に「おとなりは…お友だちの方ですか」といわれてしまったエピソードを書いている。フツー人とみられてしまったのだ。いやはや。落合とは逆の意味で際立っています。

われらが鈍足フォワード、フツー人岡崎慎司に、乾杯。
鈍足バンザイ!  僕は足が遅かったからこそ、今がある。 -
岡崎慎司『鈍足バンザイ!僕は足が遅かったからこそ今がある。』幻冬舎、2014年、1300円+税。
関連:2015年07月03日、なでしこジャパン決勝進出。強い!http://boketen.seesaa.net/article/421700709.html
posted by 三鷹天狗 at 11:47| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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