2017年04月10日

吉村昭記念文学館がすばらしい

ほどの良さ、内容の充実。吉村昭にとてもよく似合っている。

荒川区町屋につくられた区立複合施設「ゆいの森あらかわ」の一角に、吉村昭記念文学館が設立されました。
3月26日のオープンから12日目の4月6日、好天気に誘われて、のぞきにいってきました。
いやあ、すばらしい記念館でした。
吉村MG_20170406_121011_.jpg 吉村IMG_20170406_121215_.jpg
1、こじんまりとしたスペース。吉村の意志をしっかり体現。
たてもの全体は地上5階、地下一階の堂々たるかまえです。
中央図書館(蔵書60万冊)、子どもひろば、、吉村昭記念文学館の三つの要素を複合した施設ですが、圧倒的なスペースは図書館です。見なれた、ギッシリと本が詰め込まれた図書館ではありません。背の低い、開架式の書架。あちらにもこちらにもフリースペースがあり、ゆったりと本を読む人の姿が見えます。子どもひろばの要素も複合しているので、こどもの数がとても多い。親子連れ、家族連れがいたるところでくつろいでいる。
そして、2階と3階の一角、とてもこじんまりとしたスペースに、吉村昭記念文学館が設けられています。小冊子に描かれた平面図でいえば、2階部分の約10分の1、3階部分の約6分の1を占めるにすぎません。地上部分5階の総床面積からしたら、たぶん何十分の1でしょう。
この、こじんまりした、ひっそりした作りが、吉村の意志を充分に受け止め、体現しています。
荒川区長西川太一郎が、吉村昭の生前に吉村昭文学館をつくりたいと申し出たとき、吉村は「区民の税金をそんなことに使うべきではない」と峻拒している。これは、下町の商人の子どもとして生まれ育った吉村の価値観を、よくあらわしています。
自分自身は文学に生涯を捧げたことを誇りに思い自負もあるが、世間の多くの人は小説など読まないし、作家としての自分を知っている荒川区民など、きわめて少数だろう。自分の名を冠した記念文学館に区民の税金が使われるなど、まっぴらごめんだということです。
しかし「文学中年」である西川区長は引き下がらず、吉村は根負けしたかたちで「図書館の一角にコーナーを設ける」というような形なら、と妥協します。今回作られた記念文学館は、まさにその通りのものになっています。ほんとにささやかなスぺースにつくられていて、これなら吉村が生きていたとしても了解しただろうと思われます。

2、内容充実。書斎の復元と、映像資料がとくに良い。
狭いスペースではありますが、吉村作品のパネルによる展示と解説、吉村昭年譜など、とてもよくまとまっています。
圧巻は再現された吉村昭の書斎です。妻であり作家である津村節子が深くかかわり、吉村の蔵書が全部寄贈された。段ボール箱170個に達したという。吉村作品が生みだされた工房はかくあるか、こういう資料を読んでいたのかと、興趣がつきません。
吉村2.jpg撮影禁止なのでパンフレットから拝借
映像資料として「長崎と吉村昭」などテーマ別に編集された3分〜20分弱のビデオ8本が見られるもの楽しい。率直なことばで吉村の思い出をかたる津村節子のインタビューが複数の映像にでてきます。自然体で、愛にあふれて、泣けます。

3、企画展で映画無料上映。「密会」を鑑賞。
企画展では3月26日〜7月23日「映像化された吉村作品の世界」が行われ、「密会」(日活、1959年)と「桜田門外ノ変」(松竹、2010年)が日替わり無料上映されています。訪れた日は「密会」でした。心理サスペンス風のつくりで、主演女優の桂木洋子が美しくて驚きました。
津村節子が、アパートを転々とする暮らしに疲れ、吉村の「密会」津村の「華燭」の映画化原作料がほぼ同時に入ったときにすばやく東伏見に一戸建てを建てた話は、津村のエッセイに繰り返しでてきます。「この映画がそうか」などという雑念が入りました。

吉村の全著作が閲覧できるのはもちろんですが、吉村の没後にさまざまな文芸雑誌が特集を組んだものも展示されています。初見のものが複数あり、時を忘れて読みふけりました。11時頃につき、夕方5時まで、とちゅう館内の「カフェ・ド・クリエ」で昼食をとったりして、ほぼ一日楽しみました。また来たい。
      ゆったりとした1F カウンター前               「カフェ・ド・クリエ」 
吉村IMG_20170406_120853_.jpg 吉村IMG_20170406_120900_.jpg
津村節子『時の名残り』を読みながら帰路に 
3月30日に発売されたばかりの津村節子最新エッセイ『時の名残り』が一階カウンタ―で販売されています。吉村没後に読む津村のエッセイはこれで何冊目になるのか。すでに読んだエピソードが、なんどもでてきます。純文学系作家だった吉村が『戦艦武蔵』を書きあげたときの鬼気迫る姿など、なんど読んでも胸がふるえます。読みふけりながら帰路につきました。

吉村昭に良く似合う記念文学館に、乾杯。
時の名残り -  吉村IMG_20170406_121233_.jpg
津村節子『時の名残り』新潮社、2017年、1600円+税。
posted by 三鷹天狗 at 09:33| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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