2017年02月17日

斎藤美奈子『文庫解説ワンダーランド』

ベテラン読書代行業、今日もヒマネタで楽しませる。

たとえば夏目漱石『坊ちゃん』の文庫は、いくつもの出版社からだされ、10種類を超えるという。そのいちいちに解説がついており、解説者間での攻防戦が勃発している。
敗者の文学(旧幕臣の出の坊ちゃんと「会津っぽ」の山嵐)であり涙なくして読めないとか(バカじゃなかろか)、そゆこというのは落語を聴いている人に「君の楽しみ方はまちがっている」と講釈たれるようなもんだとか(いいね)、マドンナが東京帝大出の赤シャツに惚れるのは当然だとか(そりゃ鋭い)、いろんな説がバトルを繰り広げているらしい。
斎藤はそれをいちいち読んで、要約と解説を書き、判定をくだす。
ヒマというかなんというか。読書代行業者の面目躍如です。

田中康夫『なんとなくクリスタル』の33年後の新装版文庫解説に高橋源一郎は「これは現代版資本論だ」と書いたとか、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』の解説で丸山眞男が、これぞ「資本論入門」と絶賛したことなどをひきあいに、向坂逸郎が1970年、72歳のときに『資本論』岩波文庫版に書いた「解題」を引用する。労働者階級に絶大な信頼をよせる向坂を「すげえ(中略)!革命的主体としての労働者階級を、1970年の向坂はまだ信じて」いる、とはやす。
その守備範囲の広さ、面白がり方の軽さ。才人です。

『あほらし屋の鐘が鳴る』(1999年)前後の10年くらい、斎藤の全盛期の著作の鮮やかさは忘れらません。『趣味は読書。』(2003年)で、「くだらないベストセラーなんか読んでられるか」というみなさまに替わって、はい私が読みましょうと「読書代行業」を自称しました。
以来15年たっても、忠実につとめを果たしている。おつかれさまです。

北上次郎『勝手に!文庫解説』と、斎藤の仕事

私が好きな書評家は北上次郎と斎藤美奈子です。二人がすすめる本は、とりあえず手にしてみたくなる。はずれもあればあたりもある。本の「好み」はまったくもって人それぞれですから、しょうがありません。
北上は『勝手に! 文庫解説 』(集英社文庫)をだしています。出版社からの依頼があって初めて書くものである文庫解説だが、依頼もきていないのに、あんまり面白いから勝手に書いてしまう。それを一冊にしました、という本です。
考えてみれば、『本の雑誌』そのものが、目黒孝二(=北上次郎)が勝手に書いている読書感想文を、椎名誠が面白がって雑誌にまで育てていったものです。素人の読み手が、たまたま手にとった本を「面白い!」と叫んでいる。作品誕生までの経緯だとか、作家の経歴だとか、他の類似作品との対比だとか、プロの書評家が踏むような手順はいっさい無視。その新鮮さが『本の雑誌』の魅力でした。
いまや、れっきとしたプロの書評家である北上が、素人にたちかえって『勝手に』文庫解説するその楽しさ。
これと比べれば、斎藤の「文庫解説の解説」は、てまもヒマもかかるお遊びで、割りにあわないことおびただしい。
しかし、それが二人の芸風のちがいですからしょうがありません。

活字世界でムダに遊んでる楽しさに、乾杯。
文庫解説ワンダーランド (岩波新書) -  勝手に! 文庫解説 (集英社文庫) -
斎藤美奈子『文庫解説ワンダーランド』岩波新書、2017年、840円+税。
北上次郎『勝手に! 文庫解説 』集英社文庫、2015年、640円+税。
posted by 三鷹天狗 at 09:22| Comment(2) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
文庫解説ワンダーランド、読みました。第3の新人達の作品の文庫解説を続編で読みたいなぁ。紹介してくれた呆け天に乾杯🍻
Posted by 山田孝司 at 2017年03月04日 16:15
コメントありがとうございます。
「第3の新人達の作品の文庫解説を続編で読みたい」とはまたシブい要望。もしかしたら斎藤の書評の、ぽっかり空いた穴のような気がします。
斎藤は、いまをときめいているもの、エラソなものをおちょくるときに冴える書評士ですからね。
Posted by 呆け天 at 2017年03月04日 20:52
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