2017年02月15日

片渕須直監督『この世界の片隅に』

空襲・原爆の恐怖を、明るい暮らしとの対比で浮かびあがらせる

第2次世界大戦さなかの1944年(日本敗戦の1年半前)に、広島市江波に暮らす少女・浦野すず(18歳)は、請われて同じ広島の呉市に嫁いだ。絵が好きで、すこし夢見がちな少女です。夫・北條周作がどこかですずを見初めたのだという。
映画は、軍港の町に嫁いだ少女が、けなげに、力をつくして生きる姿を、ていねいに描きます。
1945年3月以降、呉は猛烈な空襲をうける。悪夢のような不幸が町全体(国全体)を覆っているが、すずの日々の暮らしは明るい。
野菜がすくなくなれば野草を摘み、すくない配給で家族のおなかを満たす料理をくふうする。不器用な手でモンペを手作りする。小姑・黒村径子(出戻りの姉)のいびりはきついが、したってくれる姪・晴美(姉の連れ子)や、やさしい夫が心をいやしてくれる。
浦野すずの声を演じているのがのん(能年玲奈)で、どこかのほほんと抜けてる感じの声が、大きな不幸のなかの、小さな幸せ(世界の片隅での幸せ)をみごとに表現しています。
監督が、すずの声は彼女以外にないとこだわったのだそうです。さすがですね。

そんなすずにも、直接的な不幸がおそいかかってくる。
通常爆弾に混ぜて投下された時限爆弾で、一緒に歩いていた晴美の命を奪われ、自分も右手を失う。意識を取り戻したすずに、径子は「晴美をかえせ」となじる。つらすぎます。
見舞いにきた妹が、つらい思いをしているのなら実家に帰るようにすすめ、8月6日の江波のお祭りに遊びにくるようにと誘う。6日の朝、帰り支度をしているすずに、径子が晴美のことですずを責めたことを詫び、二人は和解する。すずは北條家に残ることを決意し、実家への帰省を見合わせる。
そのとき、得体の知れない閃光と衝撃が感じられ、外にでると広島市の方向に巨大な雲があがっている。原爆の投下です…。

すずの日々の暮らしが明るく笑いに満ちているだけに、空襲・原爆の恐怖がいや増します。
なにもかもを奪う戦争の恐ろしさ。直接的な反戦のメッセージはひと言も語られません。しかし、かけがえのない反戦映画がまたひとつ誕生しました。すばらしい傑作です。

『この世界の片隅に』の製作費の一部は、クラウドファンディングで集められたそうです。エンドクレジットで出資者の名前が延々とながれるのを、なるほどこういうことが行われているのかと、感慨深くみていました。作品HPによれば、目標金額21,600,000円に対して、倍近い39,121,920円が3,374人から寄せられたという。それもひとつの事件といえるのではないか。
2016年11月の封切り時には63館での上映だったのが、いまでは200館を超えているそうで、いかに多くの人に支持されているかが分かります。わたし自身も、古い友人から「絶対見て」と強くすすめられたのでみました。口コミは強い。

こうの史代『夕凪の街 桜の国』を再読する

原作はこうの史代の、同名のまんがです。本棚に彼女の作品『夕凪の街 桜の国』があったので再読しました。広島で被爆した家族の、2世代にわたる物語です。明るい性格の主人公、明るく軽いタッチの絵。被曝という重く、暗いテーマ。その対比が強く印象に残る作品です。
あとがきに、広島に生まれ育ったにもかかわらず、原爆は「踏み込んではいけない領域」だと思っていたと率直に書いています。
オビで、みなもと太郎が「実にマンガ界この十年の最大の収穫」「マンガ史にまた一つ、宝石が増えました」と絶賛しています。絶賛に値する名作です。
『この世界の片隅に』も、『夕凪の街 桜の国』とまっすぐにつながっている映画でした。

すばらしいアニメーション映画の誕生に、乾杯。
この世界の片隅に.jpg 夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス) -
片渕須直監督『この世界の片隅に』2月7日(火)13:25〜、新宿ピカデリー。
こうの史代『夕凪の街 桜の国』双葉社、2004年、800円+税。
関連:2016年01月12日、山田洋次『母と暮らせば』http://boketen.seesaa.net/article/432413751.html
posted by 三鷹天狗 at 08:00| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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