2017年01月27日

『オール読物』2月号藤沢周平特集

阿川佐和子・遠藤展子対談、後藤正治ルポなど、読みどころ満載

『オール読物』2月号が、「藤沢周平没後20周年総力特集 藤沢周平の美学」と題して、楽しい企画を読ませてくれます。嬉しいなあ。
阿川佐和子・遠藤展子(のぶこ)対談「″作家の娘″に生まれて」。
藤沢周平の娘・展子は、『藤沢周平 父の周辺』(2006年)出版のときに、週刊文春の対談「阿川佐和子のこ人にあいたい」に、でています。
ずいぶん前の対談ですが、展子の「阿川佐和子にわたしが会いたい」という名セリフが、いまでも記憶にあります。阿川は、初めてインタビュー稼業に進出したとき藤沢宅を訪ねている(『あんな作家こんな作家どんな作家』)。そのころすでに阿川のファンだった展子は、父に阿川のサインをねだった。インタビューが終わったら、藤沢が恥ずかしそうに阿川にサインを頼んだ(ありえん)。
藤沢周平は、初めての妻の忘れ形見ともいうべき展子を溺愛していたようです。展子は、家に帰ると執筆中の父の部屋に入り、その日に学校であったあれこれを父にかたるというのを、高校生までやっていたという。父は、一度たりとも、うるさがったりめんどくさがったりしたことがなかった(ありえん)。
たいする阿川は、父が執筆中は物音をたてないように育てられた。まだ幼いころ、兄とひそひそ声で話していたら「気配がうるさい!」と怒鳴られたエピソードを語っています。
確かに、『強父論』に描かれる、わがままで横暴な作家・阿川弘之と、『藤沢周平 父の周辺』『父・藤沢周平との暮らし』の2冊に描かれた、一度として声を荒げる姿をみせたことがなかった藤沢周平は、対照的すぎます。
展子が家出したことがあり、それを職場に伝えた妻・和子に「ただですむと思うなよ」と藤沢周平が言ったという。拝むようにして一緒になってもらった妻にそのセリフ。ありえん。和子への遺書に「展子をたのむ」という一節がある。結婚して子供までいる娘を。さすがにそれについては展子自身が「それは違うでしょ」と思ったらしい。
藤沢周平の、おだやかで、バランスのとれた人柄・作風のなかに、一点かたよったところがあり、それは若くして死んだ最初の妻・悦子への想いです。もし小説というはけ口がなかったら、生きていることもできなかったほどの傷です。その想いが、忘れ形見・展子への溺愛となって噴出する。その人間くささが、また藤沢周平の魅力です。

後藤正治「藤沢周平への旅路ー娘・展子と家族たち」には驚きました。
あの『遠いリング』『清冽』の後藤正治です。当代一のノンフィクションの書き手が、遠藤展子とその夫・崇寿、息子・航平の一家について、おだやかな(ある意味ぬるい)、ほのぼのレポートを書いている。それだけで魂消ました。この仕事を引き受けたというのは、後藤がどれほどの藤沢ファンだったか、ということでしょう。
三屋清左衛門残日録で、派閥抗争には距離をおく清左衛門が、徐々に遠藤派に肩入れしていく成り行きを、夫婦で、わたしたちに配慮してくれてるのかしらと笑ったという。なるほどねえ。
三越の藤沢周平展の企画、なかでも、数十点の作品のなかの数行を抜き出してパネルにしたその選択のみごとさにうなりました。「監修:鈴木文彦 遠藤崇寿 藤沢周平事務所」とありましたが、なるほど、あの選択は娘婿の遠藤崇寿がやったのか。このルポによれば、崇寿は藤沢周平の娘とは知らず展子とつきあいはじめた。結婚後、大学に入りなおして学芸員の資格をとり、鶴岡市立藤沢周平記念館の設立に深くかかわった。現住所の杉並に藤沢周平事務所を構え、藤沢関係資料の第一人者になっている由。すばらしい。あのパネルの数行の選択をみるだけで、力量が伝わってきます。ぜひ、藤沢周平研究の本を書いてほしい。
後藤は「困難に直面しつつなお、秘めたる矜持をもつ」人々がいる限り、藤沢作品は愛されつづけるだろうとルポを結んでいます。確かに。そういえば後藤の描くルポルタージュの主人公も「秘めたる矜持」を抱くひとたちです。

高野秀行が、アジア・アフリカの深奥部で藤沢作品を読む

「私の一冊」と題して、林家正蔵など6人の人たちがいちばん好きな作品をあげている。
高野秀行も書いていて、アフリカやアジア深奥部に出かけていくとき、藤沢作品が心のバランスにいちばん良いのだそうだ。なるほど、分かるようなきがします。日本を持っていってることになるんでしょう。高野があげたのが『麦屋町昼下がり』で、シブい。わたしもとても好きな作品です。
他の人があげた作品もぜんぶ「そうそう、そこがいいんだよね」と納得できるものばかり。ファンクラブの楽しさ、ここにきわまれりです。

藤沢周平が好きな人たちの、作品讃歌のすべてに、乾杯。
オール讀物 2017年 02 月号 [雑誌] -
『オール読物』2月号藤沢周平特集、980円+税。
関連:2017年01月13日「没後20周年記念 藤沢周平展」http://boketen.seesaa.net/article/445877050.html
2014年05月13日、後藤正治『清冽ー詩人茨木のり子の肖像』http://boketen.seesaa.net/article/396920525.html
2014年10月02日、阿川佐和子『あんな作家こんな作家どんな作家』http://boketen.seesaa.net/article/406404578.html
posted by 三鷹天狗 at 11:57| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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