2016年06月28日

村上稔『買い物難民を救え!ー移動スーパーとくし丸の挑戦』

ソーシャルビジネスで「ハッピーになってやろう」という挑戦

著者は、勝利した住民運動として全国的にも有名になった「吉野川可動堰」住民投票運動の立役者です。
徳島市議会議員を三期つとめたあと県会議員に挑戦するも、あえなく落選。
無職となり、ハローワークで仕事探しをするがなかなか見つからない。
それじゃ自分でなんかビジネスを立ち上げようとはじめたのが「買い物難民を救え」というソーシャルビジネスです。
田舎の高齢者が買い物難民化している。これを、地域土着のスーパーと提携して「移動スーパー」で救っていく。さらに、その動きを「ネットワーク」化し、本部機能をもったビジネスとして成立させる。すばらしいアイデアですね。
世のため人のため、この身を犠牲にして、というのは必ずだめになる。ソーシャルビジネスで「自分もハッピーになってやろう」という挑戦なんだという。

住民運動で実績をあげたひとですから、社会的貢献とビジネスが結びついた「ソーシャルビジネス」という発想はごく自然です。
しかし、得てして運動家は金もうけが苦手。泥くさく、粘り強く、ときには厚かましくという商売の基本は、一緒に事業をたちあげた社長住友達也の経験や知恵がものをいったようです。
村上は自分のことを「根性なし」で「おっとり型」、マイペースの平和人間と称しています。謙遜含みでしょうが、ま、社会運動家にはありがちな性格でしょう。

2012年1月に、2台の軽トラックでトコトコと自分の家の周辺をまわることから始めたビジネスが、本の出版時点では、徳島県内で10台、京都、高知、広島、福島とネットワークが広がっている。ネットで見ると今では27都府県140台にまで発展しているようです。すばらしい!http://www.tokushimaru.jp/

それにしても買い物難民なんていう言葉、40年前には想像もつかなかったなあ。なんかTVで「大店法」云々という討論番組をやっていたという記憶があります。
その後自由化されたスーパーの出店は、すさまじい地域経済の破壊をもたらした。田舎町にできる大型スーパーにすべての客が吸い寄せられ、小さな地域商店は全滅する。シャッター通りと化した商店街の風景は、小さな旅にでればどこにもあります。
地域が破壊され、消費・購買力が落ちると、スーパーはあっさり撤退する。残された町は「フードデザート(食の砂漠)」とよばれるようになる。
まったく許しがたい「破壊のための出店」が、いまも日本全国でくり広げられ、食の砂漠化はこれからますます広がっていく…。

しかし、その状態は、移動スーパーとくし丸にとっては、新たな商圏の誕生であるわけです。究極の逆転の発想ですね。
とくし丸は、対面型販売、会話のある販売を通じて、食料品だけではなく、新たなさまざまなサービスを提供しはじめているという。
血で血を洗う競争的な商売のことを「レッドオーシャン(血の海)」といい、とくし丸のようなビジネスモデルを「ブルーオーシャン(青い海)」というのだという。いまだ競争のない、未開のフロンティアをさしてそういうらしい。村上は、少し意味をかえてブルー=憂えるとし、買い物すらできないという「憂える海」に漕ぎだす新ビジネスと位置付けます。一人勝ちしない、大儲けしない、しかし確実に事業が継続できる程度の利益はだす、というビジネス像です。とてもいいなあ。

こういうところから世の中が変わっていってほしい

村上のことは國分一太郎『民主主義を直感するために』で知りました。2013年8月の國分と村上の対談「変革の可能性としての市民政治」が収録されており、「吉野川可動堰」の住民投票運動がいきいきと語られています。
村上の発言には、現場できたえ抜かれた強さ、明るさがあります。そこで、現在はソーシャルビジネスにとりくんでいるとの発言があり、本書を知りました。
県議選に落選して無職になったときの、落ち込みや心の葛藤なども、すごくよく伝わってきます。
こういう人の実践こそ、世の中をじわりと良くするものだと感じます。

移動スーパーとくし丸の健闘を讃えて、乾杯!
買い物難民を救え―移動スーパーとくし丸の挑戦 -
村上稔『買い物難民を救え!ー移動スーパーとくし丸の挑戦』緑風出版、2014年、1800円+税。
関連:2016年06月19日、國分功一郎『民主主義を直感するために』http://boketen.seesaa.net/article/439128234.html

posted by 三鷹天狗 at 10:33| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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