2016年04月05日

斎藤環著+訳『オープンダイアローグとは何か』

日本の精神医学は、薬物療法一辺倒から抜け出せるのか

フィンランドの一地方で、統合失調症に対する画期的な療法が公的な医療サービスとして行われている。薬の力でおさえこむ今の日本の治療法とは対極にある、開かれた対話を通じた療法で、統計的にもきわめて有効な療法であるというエビデンス(医学的根拠)が示されている…。
本書は、精神科医・斎藤環が、当初はまゆつばと思いながら調べはじめ、ついには、何十年もかかるだろうが日本にこの療法を広めるしかないと決意するにいたるドキュメントでもあります。とてもスリリングで、素人目にも、この療法こそ人間の心の病に向かいあういちばん真っ当な考え方だろうな、ということが伝わってきます。
斎藤による解説と、オープンダイアローグ療法の推進者ヤーコ・セイックラ教授の論文が掲載されています。

モノローグ(ひとりごと)の世界に沈み込んでいる患者との、オープンなダイアローグ(対話)を、医師・看護師・心理士・家族など重要なかかわりがある人たちのチームが即座に(依頼から24時間以内に)行う。約1時間半のミーティングが、当面の危機を脱するまで毎日のように行われる。
@依頼の電話を受けたスタッフ(多くの場合看護師)が責任者となる。Aスタッフ間には上下関係がない。B患者本人なしのミーティングはない。本人の同意なしにどんなことも決めない。C対話は手段ではない。それ自身が目的である。D薬物の機械的な否定ではない。本人の同意の上で、有用な処方は行われる。

「どれだけ時間とカネがかかるんだ」という感じがしますが、長期的にみればいちばんコストのかからない、時間も短くてすむ療法であることも説明されます。
まるで魔法のようなハナシですが、斎藤はこの療法が日本に受け入れられるのは絶望的に困難だろうと予測しています。
その最大の障害は、精神科医です。
「もし、この治療法が統合失調症に有効であることが実証されれば、薬物療法一辺倒だった精神科医は自らの存在理由を見失うことになります。職場でのヒエラルキーもフラット化しますから、単に処方箋を書き、非同意入院を指示できるといった手続き上の理由だけで、他のいかなる職種よりも高い給与が支払われる現状を居心地悪く感じざるを得なくなります。そんな自分の首を絞めるような治療法が歓迎されるわけはありません。」
ただし、斎藤はこうもいいます。
精神科医は安心していい。たとえ、オープンダイアローグが有効だと証明されても、国に承認されて健康保険の対象になるまでは数十年を要するだろうから、というのです。
なんだか精神科医のみなさんの神経を逆なでするようなものいいでもありますが、それが日本の現実なのでしょう。

オープンダイアローグの、とても重要な考え方として「不確かさへの耐性」があります。性急に「結論」を求めない、どういう出口になるかは見えない状態での対話に耐えよという意味です。
斎藤は、オープンダイアローグを日本に導入し根付かせようと思う人たちは、不確かな耐性を発揮する必要があると結んでいます。がんばってほしい。

変わっていってほしいなあ、精神病治療の世界。イタリアから北欧から、いいとこどりで。

私の雑駁な理解では、精神医学の世界ではフロイト流の精神分析は役立たずとして退けられ、大脳生理学と薬物療法がブイブイいわせていると思っていました。そういう単純なものではなかったようですね。家族療法とか、ラカンとか、「ぺてるの家」とか、興味深い話しがたくさんでてきました。
斎藤の「精神分析が言葉をメスとして用いるというのなら、オープンダイアローグは言葉を包帯として用いるのです」というキメゼリフなんか、とてもカッコいい。
まえにこのブログで、田丸公美子『シモネッタのアマルコルドーイタリア語通訳狂想曲』をとりあげた際に、イタリアの精神病治療に触れたことがあります。イタリアでは精神病の入院患者はいない、日本では数十万人が常時入院させられ、薬漬けにされているという、悲しくなるような現実があります。
南欧イタリアの実践、北欧フィンランドの挑戦、ぜひとも学んで日本の精神病治療が変わっていってほしい。

精神医学の世界を変えようとする斉藤環の奮闘に、乾杯。
オープンダイアローグとは何か -
斎藤環著+訳『オープンダイアローグとは何か』医学書院、2015年、1800円+税。
関連:2014年07月31日、田丸公美子『シモネッタのアマルコルドーイタリア語通訳狂想曲』http://boketen.seesaa.net/article/402936985.html
posted by 三鷹天狗 at 08:43| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: