2015年09月11日

五木寛之・古市憲寿対談(『中央公論』9月号)の五木発言に耳を傾ける

戦争を求める「津波のような民意のたかまり」がありますか?という問い。

月刊総合誌「9月号」は各誌それぞれの企画で「戦後70年」を特集した。『中央公論』も「戦後70年 日本を問い直す」と題してさまざまな学者・作家・有名人たちによる何本もの対談を掲載している。
この中に、五木寛之・古市憲寿対談「世代間対立が生み出す『嫌老社会』」が載っている。
対談の主旨は「高齢化社会」の進行が、現役世代に社会保障の過重な負担をしいることになり、それは「嫌老社会」に至るという五木の懸念。「高齢者を駆除しろ」というようなヘイトスピーチが公然と言われるような社会がくるという五木の「予感」がこわい。古市はさかんに「そんなことはありません。そうならない世の中にしましょう」となだめるという対談です。
対談の主旨も気になるところですが、それは9月中に『嫌老社会を超えて』(中央公論社)という単行本になるようですから、そちらでゆっくり読みます。

わたしがこの対談で「ん?」となったのは、五木の次の発言です。
五木 「いま、戦前の雰囲気だ」ってよく言われるんだけど、ぜんぜん違いますよ。「国益を守るために、中国と一戦まじえろ」「韓国を攻撃せよ」という津波のような民意のたかまりが、今の日本にありますか?
古市 それはほとんど皆無でしょう。
五木 国民の間に、そういう昂揚、加熱した熱狂がなかったら、戦争なぞできるわけがない。あの日中戦争だって、軍部の暴走というけれど、国民の圧倒的な「支持」がなかったら、暴走なんてできないのです。(以下略)

これは、注意深く耳を傾ける必要のある発言だと感じました。
五木は1932年生まれ、現在83歳、対米開戦(1941年12月8日真珠湾攻撃)時9歳。戦時中、父の仕事の関係で植民地統治下の朝鮮で少年時代を過ごし、「自分は特攻隊員として死ねるか」を自問自答しながら眠りにつく「軍国少年」だったと述懐しています。
五木の発言は、例えば吉村昭(1927−2006.開戦時14歳)が「国民は軍部にだまされた」といった戦後「文化人」の発言を強く否定し「戦争は日本国民・庶民が自ら望んでしたもの」という観点に立っていることとよく似ています。

これに対して、たとえば瀬戸内寂聴(1922年生まれ、現在93歳、開戦時19歳)はいたるところで、今の空気は戦前と似ていると語っている。
「なんか、今の時代の空気が戦前と同じ臭いなんですよ。本当に似ているんだもの。具体的には例えば特定秘密保護法なんて、あれは前の戦争のときとおんなじ感じですよね」(『死ぬってどういうことですか』堀江貴文との対談本)
あるいは飯田進(BC級戦犯被告、1923年生まれ、現在92歳、開戦時18歳)は語る。
「いまの世相は普通ではない。二・二六事件(1936年)のころと非常に似通っている。」(『たとえ明日世界が滅びるとしても』)
瀬戸内寂聴、飯田進といった、信頼できる発言と行動をしてきた人たち、開戦時18〜19歳だった人たちと、五木の感覚の違いはどこからきているんだろうか。
瀬戸内、飯田は、1941年12月8日真珠湾攻撃がラジオで報じられたときの国民の熱狂を、青年として、大人として経験している。それまでつみかさねられてきた行き詰まり感、閉塞感が、一気に取り払われたように感じられ、国が戦意一色に染まる瞬間を、二人は見た。
二人だけではない。さまざまな階層・年代の人々が「暗雲が吹き払われたような」開放感、高揚感につつまれたことを日記に書き残している。(半藤一利『十二月八日と八月十五日』文春文庫、2015)。

バブル崩壊以来、日本は長い低迷・閉塞状態に入っている。格差は深まり、若者は未来に希望がもてず、政治家と官僚が積み上げた日本の借金はギリシャなど問題にならない「対GDP比229%」に達している。
この、暗鬱な状態の中で、たとえば尖閣諸島周辺で偶然の軍事衝突など起きれば、景色がガラリと変わるように国民世論が変わる可能性を、瀬戸内寂聴と飯田進は感じている。
私は、瀬戸内や飯田の危惧に、大きなリアリティを感じるものです。

しかし、今回の五木寛之の発言にも、しっかり耳を傾けたい。
五木や吉村は、真実や正義といったものがいかに信じられないものであるかを、身をもって体験した世代だ。なにも信じないことを信条として戦後を生き、たくさんの作品を書き、わたしたちに多くのことを伝えた。
「明日にも戦争がくる」と叫びまわるのではなく、戦争をしたがる者たちの蠢動、危険の兆候を冷静に見つめ、どうすれば愚かしい暴走にブレーキをかけられるのかを考え続けていきたい。

五木寛之の発言に、沈思の一杯を。
中央公論 2015年 09 月号 [雑誌] -
五木寛之・古市憲寿対談「世代間対立が生み出す『嫌老社会』」(『中央公論』2015年9月号930円)

posted by 三鷹天狗 at 09:25| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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