2017年06月02日

菅野完『日本会議をめぐる四つの対話』

日本会議の「分かりにくさ」に迫るための対談

菅野完『日本会議の研究』は、衝撃の書だった。
長崎大学の右翼学生運動活動家(安東巌、椛島有三…)を核とする、新興宗教・成長の家の学生組織が、数十年の時を経て「日本会議」といういまの日本の政治を動かす集団へと変貌してきた。想像もつかないような、しかし説得力のあるルポルタージュでした。

本書は菅野が、「彼らを戦後史のどこに位置付けるべきか」「なぜ彼らの愚にもつかない主張が世間に受け入れられるのか」「なぜ彼ら以外の民族派や右翼がこんな珍奇な集団をみすごしてきたのか」「なぜリベラル論壇が彼らに敗退を余儀なくされているのか」というじぶんの疑問を解きあかすために、4人の論者と対話する本です。「左派」の白井聡、魚住昭、「右派」の村上正邦、横山幸平の4人です。
「リベラルの自壊だ」「不景気が排外主義の風潮をうんでいる」「反知性主義とポピュリズムは先進国共通」といった分かりやすい解説をいったん留保して、しつこく「どうしてこんなことがおきたか」に迫っています。

白井聡(『永続敗戦論』)との対話では三つのことが印象に残ります。
一つは「黒子のバスケ」事件の被告の法廷陳述を例にひいて「じぶんはネグレクトされている(承認されていない)」と感じている層が増大していること。その感覚は、経済的な貧困層だけに限らず広がっている。
二つは、日本会議の特徴は「アンチ・言挙げする人間」であり、「理屈を言う奴が嫌い、筋道立ったことを言う奴が嫌い」という「日本のおっさん会議」だという指摘。それが世代をこえて広がっている。
5月24日の朝日新聞社会面で、コラムニストの小田嶋隆が「権力に反発する人間に反発する人」が急増していると語っている。この情動は、かなり怖い。日本が第2次世界大戦に突っ込んでいったときの「庶民感覚」って、たぶんそういう感じなのでは。
三つが、安倍政権が本当に「有事をおこして」一気に改憲や国家緊急事態にもっていく危険が迫っている(白井)という指摘。恐ろしいことですが、かなりリアリティあります。

村上正邦(元自民党参議院会長)との対談では、村上が安東巌を「あの影響力は本当に怖かった」と怖れていること。村上が魚住昭のインタビューにこたえて『証言 村上正邦』をだしたことへの嫌がらせとして、日本会議の面々は「子どもの障害は親のせいだ」(村上の娘に障害がある)などといいはじめたという。カルト的な狂気や暴力装置を内包している集団だということが伝わってきます。

横山孝平(民族派・國の子評論社社主)との対談では、横山の「年金左翼、年金右翼は運動に戻って来るな」ということばが可笑しい。こちらが政治を見限っても、政治はこちらにふりかかってくるのだからしょうがない。

魚住昭(ジャーナリスト)は「陰謀論」に陥らずに歴史をみることを強調します。松本清張が戦後の事件をなんでもキャノン機関の暗躍で説明してしまう、孫崎享がなんでもアメリカの仕掛けで説明してしまう。司馬遼太郎の、明治までは良かったがそのあと悪くなったというのも単純すぎ。もっと長い歴史の、複合的な要因から右派の台頭を見るべきだ。
日本会議の力を過大に見積もりすぎず、たとえば外務省勢力の動向をウオッチせよ。日本の戦後は「修正資本主義」がみごとに成功した例だった。日本の左派・市民派はそれに安住していたので、新自由主義的な攻撃に対抗する論理をきたえてこなかった…。多くの点でうなずける指摘です。
魚住はいま危険な右への流れに抗し得ているのは沖縄だけであり、「今の流れをみていると、やっぱり沖縄の人たちが勝つかなという風に思っています。」「現地に行けば分かるんですが、本当に綺麗な海なんですよ。ここに砂利をつっこんで海を殺してしまうというのは、いくら国家権力をもってしてもできないんじゃないかと思う。」と語っています。
ぜひ、そうあってほしいと願います。

「戦前回帰のゾンビ集団」では、日本会議をとらえ損なうという指摘。

わたしは日本会議のことを「戦前回帰をめざすゾンビ集団」と思っています。生長の家を率いた教祖・谷口雅春が「現憲法破棄・大日本帝国憲法復活」を政治活動の根幹に据えていたのですから、そうしかいいようがない。石原慎太郎なんかも「簡単なことで、現憲法の破棄だけ決めれば、自動的に大日本帝国憲法がたちあがる」なんてことを放言してました。
菅野は、そうではなく「左翼運動へのカウンター」「左翼嫌い、左翼いじめ」集団としての日本会議というとらえ方が大事といっているようです。戦後の日本は左翼が支配してきた、その左翼から「日本をとりもどす」というのが日本会議だというわけです。
たとえば内田樹も、安倍や橋下を突き動かしているのは戦後民主主義的なものへの破壊衝動だと指摘しています。
「共謀罪=現代の治安維持法」が衆議院を通過し、彼らに残されているのは「本丸攻略=憲法改悪」だけというところまできています。どこにかれらのつまずきの石があるのか。

菅野完の「日本会議ウオッチング」は、これからも貴重です。
日本会議をめぐる四つの対話 -
菅野完『日本会議をめぐる四つの対話』K&Kプレス、2016年、1500円+税。
関連:2016年07月08日、菅野完『日本会議の研究』http://boketen.seesaa.net/article/439820184.html
2017年03月15日、すごいなあ菅野完。森友学園疑惑の…http://boketen.seesaa.net/article/447906994.html
posted by 三鷹天狗 at 09:07| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする