2017年05月16日

奥田愛基『変える』

SEALDsを創った青年のつぶやき。誰にも似ていない。

2015年8月30日、10万人以上の市民が国会議事堂前の道路を占拠した。安保法制に反対する市民、労働者、学生の大きなうねりをつくりだした推進力は、数人の学生たちが2015年5月3日に結成したSEALDsだった。正式名称は「Students Emergency Action for Liberal Democracy-s」(自由と民主主義のための学生緊急行動)。
安倍ブラック政権の暴走に抗する国民のたたかいが、あれほどの盛りあがりと共感をよんだのは、ひとえにかれらの登場による。旧来型の「保守」と「革新」の、強権Vs無力な抵抗という、お約束のような図式に裂け目が入り、いきいきとした「個人」が街頭にあふれだして奔流となった。

本書は、SEALDs結成をよびかけ、創成した23歳の青年の独白です。
自分が23歳のときのことを思いおこしたり、時代のうねりの中で波頭に押し上げられてしまった過去の青年たち(唐牛健太郎、大口昭彦、秋田明大、山本義隆…)とくらべてしまったり、なかなかこころ穏やかに読むというわけにはいかない一冊でした。
読了して湧いてきたのは、この青年は本当に誰にも似ていないなあ、という感慨でした。

まず、リーダータイプでないこと。うじうじした思考。
中学生時代にいじめられっこで引きこもりで、自殺寸前までおいつめられていたという少年期が、「時代の波頭にたつ」タイプとは似ても似つかない。波頭に押し上げられてしまう若者には、まわりがなんとなく押し上げてしまうような磁力・吸引力・オーラがある。奥田はSEALDsのなかまである牛田に「政治家になるつもりか」といわれて「そんなこと言うなら俺には無理。帰る」と2週間も連絡不通になったり、「背負い込むな。もともとお前はしょ−もないし、本当に大したことのない奴だ」と「励まさ」れたりしている。自然に周りに人が集まってくる、といったタイプではぜんぜんない。本人としても、裏方で忙しくしている方が気性にあう。
よくもまあ、こんな若者があの役割りをひきうけたものだと、それだけでもウルウルきます。北九州市から鳩間島の中学校に逃れ、島根県の全寮制高校で回復していく。いじめ・ひきこもり脱出本としても、秀逸です。

次に、左翼的思潮との無縁さ。孤独な思考。
8月30日のデモのあまりの盛り上がりをみて、国民を慰撫するための参院「中央公聴会」が9月15日に開かれることになった。奥田は、民主党の推薦で6人の公述人の一人となり意見を述べた。寝ている自民党議員を起きるよううながして笑いをとり、奥田が訴えたのは自民党議員から一人でも安保法制反対に立つ人はいないかということだった。
「どうか、どうか、政治家の先生たちも、個人でいてください。政治家である前に、派閥に属する前に、たった一人の『個』でいてください。自分の信じる正しさに向かい、勇気を出して孤独に思考し、判断し、行動してください。」
この「一人ひとり孤独に思考し判断しろ」というのは、SEALDsの合言葉であり、奥田の全行動を貫いている。つくづく、誰にも似ていない。
本書の中で奥田は、影響を受けた本や映画、ラップ音楽をふんだんに引用しています。しかし、誰かのことばのとりこになったり、有力な思潮に染まったりしない。特に特徴的なのは、左翼的な思潮との無縁さです。1992年生まれ、彼が生まれた時にはソ連圏は消滅している。当然か。
「人は時代の支配的な思潮に飲みこまれ、悪戦苦闘しながら自分の着地点をみつける」(後藤正治『清冽』)。この定理にしたがえば、奥田が飲みこまれた「支配的な思潮」って、なんなのだろうか。「支配的思潮の不在」が、奥田たちの世代が体験したことだったのかもしれない。

グローバリゼーションの中で窒息しそうになっている世界中の若者たちのなかから、既成の政党やイデオロギーに影響されていない動きがでてきています。台湾のひまわり運動、香港の雨傘運動、アメリカのサンダース支持選挙運動…、奥田たちは2016年4月に、マニラで東アジアの学生たちの会合を開いた(日本、フィリピン、台湾、ベトナム、マレーシア、タイ、香港)。
彼らの未来に幸あれ、と願わずにはいられません。

なにも終わってはいない。また始めればいい。

本書は、奥田愛基が中学生の自分に書いた手紙ともいえます。
「やれることしかできないし、できないことはできないからできない」と、奥田は繰り返し中学生の自分に語りかけます。「よく寝て、よく食べろ青年。くだらないことで死んでる場合ではない」と語りかけます。泣けます。
本書はまた、「民主主義は終わった」とかすかしたセリフをすぐに口にする、日本の「左派リベラル」をたしなめる本でもあります。なにも終わってはいない。また始めればいい、と23歳の青年が言ってます。まぶしい。

SEALDsを創り、率いた青年のつぶやきに、感謝の乾杯。
変える -
奥田愛基『変える』河出書房新社、2016年、1300円+税。
関連:2015年08月31日、すごいなあ、8・30国会前12万…http://boketen.seesaa.net/article/425085268.html
2015年09月03日、戦争したくなくてふるえる、を聞くhttp://boketen.seesaa.net/article/425199709.html
posted by 三鷹天狗 at 08:09| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする