2017年05月10日

朝井まかて『すかたん』

元・江戸の饅頭屋の看板娘が、商都大坂で生き抜く

元は江戸の饅頭屋の看板娘だった知里(ちさと)は、夫・三好数馬が大坂赴任中に急病死したため、一人大坂にとりのこされる破目になった。こどもができなかったので婚家に残ることもできず、江戸にある実家の兄夫婦のところにも戻りたくない。
寺子屋の女師匠として雇われるが、大坂の子どもたちのいじりに対応できず、くびになる始末。家賃も払えず途方にくれる。
進退きわまったときに、偶然の縁で大坂の青物商の大店・河内屋で働くことになった知里は、お家はん(女主人)付きの女中として厳しいしごきに耐え、大坂の商家のしきたりを身につけ、大坂の町の仕組み、人々の思考や情になじんでいく。

「天下の貨、七分は大坂にあり」といわれる大坂の繁栄ぶり、武士など足元にも及ばぬ大商人たちの豪奢な暮らし。亡き夫が「侍は戦をしなくなって久しいが、商人は毎日が戦だ。身上を懸け、いや命を懸けて生きている」と評した、仲買商たちの生存競争。江戸時代の大坂の情景が、ありありと浮かんできます。
なにかといえば「江戸には負けん」「江戸にはこんなおいしいものはなかろう」といいたがる大坂の人びとに対して、それ一人相撲だから、江戸っ子はあんたたちのこと相手にしてないから、と心のなかでツッコミをいれる知里の反応がおかしい。
河内屋の一人息子清太郎は、遊び人と「青物狂い」の要素が混在する「すかたん」。はちゃめちゃな行動で周囲をまきこみ、知里も呆れ、怒りながらしだいに憎めなくなっていく。
河内屋の主人夫婦の葛藤、清太郎となじみの芸者小万の美貌と意気地、にくにくしい敵役の策動、河内屋の大番頭の頭のキレと度胸、知里を気に入る女中仲間の先輩おかね、たいへんな数の登場人物がからみあい、お話はぐいぐいと大団円に向かいます。

恋が、ものがたりの推力になるという小憎らしいしくみ

江戸と大阪、武士と商人、商人と農民…とても大きな背景があり、いきいきと動きまわる若者の恋がある。呆け天は「恋愛小説」が苦手で、まず読みません。しかし、本作では、恋愛が物語の欠かせない推進力になっていて、読まないわけにいかない。読んで心地よい。
すばらしい時代小説の書き手がいてくれてうれしいかぎりです。

元江戸の饅頭屋の娘と、浪花のすかたんの恋に、乾杯。
すかたん (講談社文庫) -
朝井まかて『すかたん』講談社、2012年、1600円+税。現在、講談社文庫。
関連:2017年02月07日、朝井まかて『阿蘭陀西鶴』http://boketen.seesaa.net/article/446709713.html
2017年01月25日、朝井まかて『恋歌(れんか)』http://boketen.seesaa.net/article/446273767.html
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posted by 三鷹天狗 at 07:49| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする