2017年05月04日

初沢亜里:写真集『沖縄のことを教えてください』

不穏な、こころざわめく写真の群れ

いままで見たことがないタイプの、沖縄写真集です。
風景もあるし、人物スナップもある。しかし、これまで見なれてきた沖縄の美しいビーチや神秘的なサンゴの海、といった定型の写真は一枚もない。牧志市場のオバアの笑顔や、くったくのない子どもの笑顔、といったスナップは一枚もない。
非番の海兵隊員、深夜の那覇国際通り、エイサーを踊る若者、日本会議の集会で教育勅語を暗唱する幼稚園児たち、キャンプシュワブゲート前の山城博治、全身刺青のオトコ、闘牛場…。
百数十点の写真のどれもが、なにか不穏で、心がざわめく。
初沢は、写真にタイトルやコピーをつけず、老眼では読むことも困難なほど小さなキャプションを添えています。つまり、この写真だけを見てください。あなたが感じたことが、この写真のすべてです、というようなことでしょう(どこにもそんなことは書いていませんが)。

一点ずつの写真に説明がないかわりに、巻末に写真集としては異例なほどの長さの文章「沖縄滞在を振り返る」が掲載されています。ここで初沢は、自分はフォトジャーナリストではない、写真家だ、と自己規定し、フォトジャーナリストが扱うのは「不正義」であり、写真家が扱うのは「不条理だ」と定義しています。初沢流の定義が表現された写真集だと、素人にも伝わってきます。

初沢には、先行する二冊の写真集があります。
『True feelings 爪痕の表情』(2012年)。3・11東日本大震災の、直後に現場に入り、1年近く継続して被災地の表情を撮り続けた作品です。熊谷達也『希望の海 仙河海叙景』と響きあうような写真集でした。
『隣人、38度線の北』(2012年)。反北朝鮮ナショナリズムへの違和感を胸に撮った作品です。当然にもそこには、普通の暮らしをしている人々がおり、笑顔も、怒った顔も、とりつくろった表情も、みんなあります。初沢のねらいでもあったでしょうが、やけに美人が多いとも感じさせます。魔窟・恐怖支配国家というステレオタイプな北朝鮮像を、それって歪んでるよ、普通に暮らしている人たちがいることを忘れてるよ、と警告しています。
そして「北朝鮮のことを知らないのと同じくらい沖縄のことを知らないのではないか」と感じて、沖縄に向かった。1年間沖縄に住んで、人びとにカメラを向け、議論した。
ある夜更け、スナックのカウンターで、初老の男に「写真なんか持ち帰るくらいなら、基地の一つでも持ち帰ったらどうかね?」という、生涯忘れられない言葉をかけられたりもします。

三冊の写真集は、いまの日本で平均的に見慣れている映像情報とはきわめて異質です。単純な分かりやすさを拒否しています。分かりにくく、解きあかしにくく、一筋縄ではいかない、それが現実ってもんではないですか、という初沢の問いかけが聞こえてきます。

思い出す藤原新也のしごと。40年の歳月をこえて。

これに似た感覚をもたらす写真集が、昔ありました。藤原新也『印度放浪』(1972年)です。「人間は犬に食われるほど自由だ」という鮮烈なコピーと写真は、忘れられません。1980年におきた「金属バット殺人事件」の、事件現場の家をただ撮っただけの写真の異様さも、まだ脳裏に残っています(1981年、雑誌『FOCUS』連載『東京漂流』)。
「あとがき」のやけに理屈っぽいところまで、なにか似通っているように感じます。
異才登場。これからの仕事が楽しみです。

見たことのない沖縄の表情を見せてくれた、初沢亜里の仕事に、乾杯。
沖縄のことを教えてください -  
初沢亜里:写真集『沖縄のことを教えてください』赤々舎、2015年、3800円+税。
『True feelings 爪痕の表情』三栄書房、2012年、2667円+税。
『隣人、38度線の北』徳間書店、2012年、2800円+税。
posted by 三鷹天狗 at 08:27| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする