2017年03月31日

吉田勝次『洞窟ばか すきあらば前人未踏の洞窟探検』

「おとこの子」の妄想をかきたてる地底世界

巻頭グラビアの、洞窟内写真の美しさに圧倒されます。この神秘的な美しさのとりこになってしまい、全世界1000以上の洞窟を探検した男の半生記です。自分は決してやりたくないが、探検家がつき進むさまからは目がはなせません。
吉田は、探検で何度か死にかかっている。
アタマひとつやっと入るくらいのすき間に、からだをねじ込んで進んでいく。くだり45度くらいの勾配に入って行ったら、泥のぬめりで自然にずりおちはじめた。行った先に空洞があっったらそこで反転すればいいと思っていたら、行き止まりだ。動くのは手首と指だけ。前進も後退もできない。この絶望的状況から吉田はどうやって抜け出したのか(怖すぎ)。
地底300メートルの縦穴にロープで下り、戻ってくる時に落石で負傷、左肩骨折で右手一本しか使えない。気温は7度。ガタガタと震えがくる寒さのなか、片手でロープを登る。とちゅう何度かロープにつかまったま眠ったりしながら、30時間かけて生還する。
洞窟に広がる地底湖。未知の迷路にスキューバダイビングでもぐっていくのはまさに命がけ。
地底内環境に与える影響を最小化するために、排泄物はすべて持ち帰る。自分のウンコを密閉容器に入れ、ヘルメットの内側にはさみみ込んで帰還する。
見ている世界も異次元ですが、やってることも異次元です。

観光地に鍾乳洞があれば、だれでも入ってみたくなります。
地底にある異世界というのは、ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』(仏、1864年)以来、男の子が好む妄想の定番です。科学常識が浸透した今となっては、地底にもう一つの海がありキノコの森を古生物が歩いている…という妄想には無理がありますが、「未知の空間」への興味は尽きない。
NHKBS『グレートネイチャー』で地底探検・洞窟探検モノがあればまず見るし、はずれがない。本書を読んで、あの番組で「前人未踏の洞窟」に入っていく探検家が、この人だったと知りました。

吉田は、自分をかきたてるのは「まだ見ぬ先の風景がみたい」という欲望だと語っています。
エネルギー過剰で自分をもてあますタイプの人間が、めぐりめぐって洞窟探検にいきつく半生記としてもおもしろい。建築業で生計をたて、趣味で全世界の前人未踏の洞窟を探検している。プロの洞窟ガイド育成など、ビジネスの側面も着実に実らせててきた。単なる「洞窟ばか」ではない、事業能力もある人のようです。

なんて恐ろしいことを!…もっとやれ。

内戦のおさまらない「リアル北斗の拳」状態のソマリアに入っていく高野秀行。
「空白の5マイル」(チベットの世界最大峡谷)に挑戦する角幡唯介。
行く先になにがあるかまったく不明の洞窟に入っていく吉田勝次。
命がけ度合いでは、いずれも甲乙つけがたい人たちです。
こういう人たちがいてくれるから、ベッドにもぐったまま、手に汗にぎる興奮を味わえる。
なんて恐ろしいことを!もっとやれ、という闘牛場の観客モード。これも読書の楽しみのひとつです。

前人未踏の洞窟にいどむ探検家・吉田勝次に、乾杯。
洞窟ばか -
吉田勝次『洞窟ばか すきあらば前人未踏の洞窟探検』扶桑社、2017年、1400円+税。
関連:2016年03月14日、高野秀行『恋するソマリア』http://boketen.seesaa.net/article/434910746.html
2016年11月12日、角幡唯介『漂流』http://boketen.seesaa.net/article/443831958.html
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2017年03月29日

小森はるか:監督『息の跡』 陸前高田の希望の種

アイヌの叙事詩のような響きで、佐藤たね屋の、英語の朗読が流れる

見たことも聞いたこともないタイプの映画です。
どんなナレーションも、説明もない。
荒涼とした風景の中を、工事車輛とおぼしきトラックやダンプが、轟音をあげて走りまわっている。
その一角に「なえ たね 播きどき 植えどき 買いどき 木曜休日」という、手書きのかんばんをかかげたプレハブの店舗が営業している。「佐藤たね屋」です。
赤塚真人という役者(山田洋次『たそがれ清兵衛』などにでてくる脇役)によく似た風貌の男が、せかせかと働きながらカメラに向かっていう。
「歳なんぼだっけ、27、8?」「23」「はッ、まだそんなもんか。まるで豆粒だ」「豆粒?」…
男が、カメラをかまえている女性に好感や関心をいだいていること。カメラをかまえている女性(監督の小森はるか)が、男にただごとならぬ関心をよせ、一挙一投足を見逃すまいとしていることが伝わってきます。
やがて、男=佐藤貞一は、自分の店も含め、すべてが大津波で流されてしまった場所に、プレハブを建て「たね屋」の商売を再開したこと、商売のかたわら、自身の震災・津波体験を英文で自費出版していることが分かってきます。
まったくの自力で英文のレポートを作るにいたった動機は説明されないまま、まるでアイヌの叙事詩が朗誦されるような響きで、佐藤の声が英語で流れます。
「The seed of hope in the heart(ザ シード オブ ホープ イン ザ ハート)」(字幕:心に希望の種を)「たね屋の物語の幕が開こうとしている。震災の二日前、不可思議な出来事が私たちのふるさとに起きていた…」と英語の朗読は始まります(内容は字幕で追いながら響きを聞く)。

大きな悲劇が始まろうとしていることを予感させる、人の心をざわつかせる、独特の響きです。
なんなんだこの男は、なんで英文のレポートなんだ…という大きなとまどいのまま、映画はすすみます。感じ方や解釈は、見ているみなさんにお任せします、ということでしょう。しかし、前衛きどりの、意味不明の映画ではまったくありません。
日本に暮らしている人間なら、ああテレビでみた岩手県の陸前高田のかさあげ工事現場だな、と分かります。海外で上映されれば、日本の大津波被害を受けたどこかの地方の話しだな、と了解されるでしょう。それで充分です。大事なのは地名ではない。
巨大な自然災害の前に人間がいかに無力であるか、人間は必ずおこる自然災害にどうむきあうべきか、という普遍的な問いをこの男は発しているんだな、ということが、ゆっくりと伝わってきます。

日本語で記述された震災の記録が、またふたたびの大津波や社会変動、時間の経緯で、流されたり忘れ去られたりしても、自分の書いた記録が英文や中国語で異国の地にたどりつき、残されていく。
この男は、たったひとりでそんなのぞみを抱いている…滑稽さと偉大さが入りまじっています。

陸前高田のかさあげ大工事に、ひとりの「たね屋」の存在が、拮抗している

これから先は、呆け天の勝手な解釈なので、ご注意ください。
これは、陸前高田かさあげ工事に対する、強烈な批判・抗議の映像です。
街まるごとを、12メートルかさあげした土地に再建する。いったい誰が考えたのか、恐ろしいほどの費用を投じ、近隣の山をきりくずし、もう5年も工事は続いています。
しかし、2011年の津波の高さは18メートルだった。その規模の津波がきたらまた流されるんじゃないの?という、単純で素朴な質問には、誰もこたえない。まったくまちがった防災工事です。
住民の多くの方は、かさ上げ地ではなく、高台移転を希望・実行している。当然のことで、18メートルの津波にすべてを奪われたのだから、これまでのまちが見おろせる、18メートル以上の高台に全町移転する以外にありません。
「此処より下に家を建てるな」という石碑(1896年明治三陸大津波で建立)のおかげで、宮古市・姉吉地区の住人が死者ゼロだったニュースが、震災直後に大きく報じられました。その教訓に基づく以外の方法はないでしょう。
じゃあ旧市街地はどうするんだ、ということになるでしょうが、そこには住居を作ることを禁止する。漁業にかかわる事業所(せり市、魚介類加工場など)やビジネス用のオフィスビルなどは問題なし。津波警報がきたら大急ぎで高台に避難する訓練をふだんから徹底する。自力で避難できない幼児や老人ではなく、成人男女、しかも組織された指示命令系統の中で働いている人間は、ふだんから訓練していれば死者ゼロで避難できる。事例は『紙つなげ!』(佐々涼子、2014年)の日本製紙石巻工場にあります。
佐藤貞一や小森はるかがそう主張しているわけではなく、呆け天がそう思うという意味ですので、ご了解ください。
わたしには、人間の愚かさをむきだしにしたかさあげ大工事に、たった一人のたね屋の存在が拮抗している、とみえました。

「たね屋」にして哲学者・歴史記述者、佐藤貞一の営為に、乾杯。
巨大な悲劇の現場から、深い悲しみと希望をたたえた映像を掬い出してくれた小森監督に、乾杯。
息の跡.jpg ここより下に家を建てるな0410-kokoyorishita_NP.jpg
小森はるか:監督・撮影『息の跡』東中野ポレポレ、3月20日12:20〜
関連:2014年04月18日、陸前高田、奇跡の一本松http://boketen.seesaa.net/article/395018334.html
2016年06月07日佐々涼子『紙つなげ!』http://boketen.seesaa.net/article/438603050.html

ポレポレ座IMG_20170320_142428.jpg東中野ポレポレ
東中野ポレポレは初めて来ましたが、雰囲気いいなあ。客はあふれるほど入っている。上映後、小森監督のトークがあり、カメラをまわすことへの初々しいためらいを語ってすばらしかった。なんとこの日(3月20日)が誕生日とのことで東中野ポレポレのスタッフからケーキのプレゼント。よいところに立ち会いました。
posted by 三鷹天狗 at 09:01| Comment(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月27日

沖縄の友人より(25)3月18日夜、山城博治さん保釈。

保釈金は700万円。「事件関係者との面会を禁じる」との保釈条件。

3月17日の第1回公判のあと、那覇地裁はいったん保釈を認めたのに、那覇地険が抗告を行なったため保釈を差し止めた。しかし、18日、福岡高裁那覇支部が検察の抗告をしりぞけ、保釈を認めた。
保釈金は700万円。「事件関係者との面会を禁じる」との保釈条件が付されている。すでに公判が始まり証拠隠滅の恐れもないことが明白であるにもかかわらず、最後まで保釈を妨害した検察の悪意と、検察にほとんど従属する裁判所の姿には怒りを禁じえない。
18日午後8時ごろ、知らせを聞いて駆け付けた150人にのぼる人々の出迎えを受けて、那覇拘置所から出てきた山城さんは、妻の多喜子さんから花束を受けたあと、5か月にわたる獄中生活で10キロもやせた細い体から元気な声を振り絞り「千秋の思いで待っていたみなさんと再会できてこんなに嬉しいことはない」と述べ、涙を浮かべみんなと喜びの抱擁を交わしカチャーシーを舞った。そして「裁判では無実と無罪、沖縄の正義を訴えて頑張りたい」と語った。
 山城博治26f79e970eca396431da9889f33192a3.jpg 山城保釈imagesBZKDSVDS.jpg
写真はネットより拝借

3月17日の第1回公判には500人が参加した。午前9時から裁判所向かいの城岳公園で「山城議長たちの裁判勝利!即時釈放!政治弾圧を許さない大集会」が開かれた。池宮城紀夫弁護士は「これまで山城さんの釈放のため、保釈請求、準抗告、特別抗告合わせて21回行なったが、すべて却下された。高江・辺野古ごり押しのための権力の弾圧は尋常ではない。司法が人権の砦を捨て行政の手先になり下がっている。関係者に会ってはいけないなどという保釈条件は人権侵害であり、憲法違反だ」と述べた。
午前10時から始まった法廷は正午を大きくオーバーして終了した。報告集会で三宅俊司弁護士は「今日の裁判所の厳戒態勢は弁護士生活の中で初めての異常事態だ。検察の言う通り有罪を認めなければ外へ出さないという裁判所の態度は、自ら判断できない無能を自ら認めるものだ。3人は罪状認否で無罪を主張した。法廷の内外で闘おう」と述べた。
午後6時からは県庁前の県民広場で集会とデモが行われた。
早朝から夜中まで、全島からかけつけた人びとの怒りが裁判所を包囲し、ついに18日夜の保釈を実現させた。
@2017.3.17 山城博治さんら3人の第1回公判。那覇拘置所前の抗議行動
A第1回公判に先立つ集会で発言する池宮城紀夫弁護士
B城岳公園の集会。
2017.3.17 第1回公那覇拘置所前の抗議行動.jpg@2017.3.17 発言する池宮城紀夫弁護士.jpgA
2017.3.17 城岳公園の集会.jpgB
山城博治さんたちを取り戻した沖縄のみなさんの闘いに、敬意と連帯を表します。
posted by 三鷹天狗 at 09:37| Comment(0) | 沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする