2016年04月30日

行きつけの酒屋が、懐かしい秋田の酒を「最高金賞受賞」で陳列

健闘しているなあ「両関」。秋田県南部の町・湯沢で100年以上続く酒蔵です

ビールと日本酒(純米酒)を購入するのは、自転車で行ける近所の酒屋さん。
いつもの買い出しに行ったら「最高金賞受賞の酒・入荷」の金文字ポップに飾られて、「純米酒 両関」がたくさん並んでいる。
懐かしい、両関。秋田県南部の町・湯沢にある、100年以上続く酒蔵です。
両関20160429130055.jpg 両関20160429130108.jpg
さっそく購入して飲んでみると、うまい!
なんでも「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2016」という催しがあり、そこで「最高金賞」を受賞した由。確かに、日本酒にしてはとてもフルーティで、いかにもワイングラスで飲むのにふさわしい味です。
がんばってるなあ両関。http://www.ryozeki.co.jp/
この酒屋では、秋田の酒は「高清水」が常備され、他は入れ替わりで少品種という感じでした。両関は初登場です。これからずーっと両関も置かれますように。

東京の居酒屋で、看板に日本酒の銘柄を入れているところはたくさんあります。秋田の酒では「高清水」がダントツに多く、ついで「新政」「爛漫」まれに「大平山」といったところでしょうか。
「両関」が表示されている居酒屋は見たことがありません。ある日、調布の天神通りで一軒あるのを初めて見かけ、思わず入ってしまったことがあります。オヤジさんによれば、むかし調布に「両関」の出張所があったことがあり、それ以来の縁だということでした。
ま、日本全国どこの日本酒もおいしいのですが、やはり秋田の酒が賞をもらったなど聞くと、うれしいものですね。

秋田・湯沢の蔵元がつくった「最高金賞受賞」の「純米酒両関」に、乾杯。

関連:2015年05月07日、いいぞ「秋田NEXT5」http://boketen.seesaa.net/article/418542411.html
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2016年04月29日

胸郭成形を受けて健在の、Hさんのお話を聞く

吉村昭が20歳で受けた胸郭成形手術の恐ろしい描写

いまは亡き吉村昭は、1948年(昭和23年)6月に、東大付属病院分院で田中太平教授の執刀で、左胸部の肋骨を5本切りとる「胸郭成形」という大手術を受けています。
当時20歳。戦争中の中学2年生のとき肋膜炎にかかり、やがて肺侵潤、20歳になって結核となり吐血、体重は60キロから35キロになってしまった。このままでは死を待つのみだと考え、兄たちに頼んでこの手術を受けさせてもらった。わずか4か月前に初めて学会で実行が公的に決定された技術で、手術中に死亡するものも多く、手術後1年以上の生存が40%という、危うい方法だった。手術は局所麻酔だけで行われた。
この手術の模様は「殴る白衣の天使」(『お医者さん患者さん』所収、中公文庫1985年)というエッセイで克明に書かれています。
局所麻酔といっても麻酔はほとんど効かず、胸が開かれ肋骨が切られるその激痛で患者は体をのけぞらせ大声で泣きわめく。これを鎮めないと手術にならないので、白衣の天使・看護婦さんが殴りつけて患者を黙らせた。吉村は数時間の手術中「痛くない!痛くない!」と叫んで殴られずにすんだ…という内容です。
本当か?と疑うような、阿鼻叫喚の地獄絵図です。この手術を受けて生還したことが、以降の吉村昭の死生観、人生観に決定的な影響を与えました。
朝、めざめると「今日も生きている、よかったなあ。痛くなくて幸せだなあ」と口にだして言ったと、本人もエッセイに書き、伴侶の津村節子も書いています。
まさに地獄からの生還だったのでしょう。

知り合いのHさんが、胸郭成形手術の体験者だった

あるとき、囲碁仲間長老ご夫妻とたまたまこの話しになったとき、H夫人(90歳)が「あら、私もその手術受けたわよ」という。
「えーっ」とのけぞってしまいました。というのも、吉村はいろんなエッセイでこの手術について触れ、執刀した田中医師から「この手術を受けて生きているのはあなただけになってしまった」といわれたと記しているからです。
真相やいかに。
日をあらためてHさんからお話をうかがいました。

――私が結核を発症したのは昭和22年、22歳の時。戦時中は、杉並区にあった俘虜情報局というところで働いていたんだけど、その時の同僚に結核の人がいたから、感染したんでしょうね。
結核といえば国立清瀬療養所に入るんだけど、当時満室で入ることができなくて、村山療養所に入ることになったの。
当時、ストレプトマイシン(ストマイ)という薬が開発されていて、一本1万円というとんでもない高価なものだった。しかも一本では効かず、20本もうたなければならなかった。だから、誰でも受けられる治療ではなかったということよね。
私はストマイをうつとなぜか震えがきて、かえって容態がわるくなってしまうのよ。
だからストマイはやめて、胸郭成形手術を希望した。この手術は、当時村山療養所にいる人にとっては、あこがれの手術だったの。
どうしてかというと、まず手術を受けられるのは感染が片肺だけの人に限られていた。結核菌に冒された患部を押しつぶしてしまうという治療法だから、治療を受けた肺は完全に機能をなくしてしまう。のこされた片方の肺で生きていかなくちゃならない。つまり、この手術を受けられるということは、感染がまだ片肺だけで、生き残れる可能性が大いにあるということを意味していたの。
もう一つは手術をした人たちがみな助かっているということ。加藤先生という主治医が名医で、先生に執刀してもらえば確実に助かるという評判だったの。

そして昭和23年の暮れに手術を受けられることになった。「これで助かる」という希望で一杯だったわ。当日、恐怖とか痛みとか、そんなものぜんぜんないわよ。だって手術中に「先生、まだ?」とか会話してたんだから。意識ははっきりあって、痛みはぜんぜんない。それでも肋骨を切られるギコギコという音を聞きながら看護婦さんの腕をぎゅーっと握っていたみたいで、後で「痛かった」といわれたわ。
一回目の手術で4本、2回目で3本、計7本をきりとって、患部をおしつぶして手術は成功、それから3年間入院療養して退院したわ。
それで、このとおり、いまも元気で家事をするし、戦争法案には反対するし、生きています。
その吉村さんの受けた手術の様子はなんだったんでしょうね。同じ手術とは思えませんね。
やはり、東大病院というのはよほど腕が悪いんじゃないのかしら。
生きているうちにお会いできたら、私の経験を伝えてあげたかったわ。――(了)

驚きました。
同じ昭和23年に、同じ胸郭成形手術を受けた経験者の、この天と地のような違いは、なんなのでしょうか。素人考えで分かるのは、東大病院分院と村山療養所で、麻酔技術にものすごい差があったということでしょう。
それにしても、お話しくださったHさんが、安倍政権の危うい政治に歯止めをかけようと安保法制反対・反原発などの行動を今もされている姿には、頭がさがります。Hさんがこの手術を受けられて、ほんとうに良かった。

故吉村昭は、藤沢周平とともに、いまも私がもっとも敬愛する作家です。
吉村に、20歳以降の全人生を決定づけたともいえる大手術の、かくも異なる体験者がいたことを伝えるすべはもうありません。
ここに書き止めて、墓前に捧げます。
お医者さん・患者さん (中公文庫) -
吉村昭『お医者さん患者さん』中公文庫、1985年、590円+税。
posted by 三鷹天狗 at 09:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月28日

高野和明『ジェノサイド』上・下

ものすごいスケール、超のつく傑作エンターテインメントです。

さえないもてない日本人学生(薬学部、院生)古賀研人。
イラクで闘う傭兵ジョナサン・イエーガー。
二人の運命が、ネット空間を介して、コンゴの密林に誕生した「次世代人類」の抹殺・救出劇をめぐって交錯する。

いやはや、日本にもこんなにスケールの大きな小説を書く作家がいるのか。たまげました。
呆け天の読書歴で言えば、フレデリック・フォーサイス(『戦争の犬たち』『ジャッカルの日』)の政治・軍事小説と、小松左京のSF(サイエンス・フィクション)小説をミックスした小説です。
加齢とともにミステリーから遠ざかり、SFも読まなくなって久しいのですが、これだけハイレベルの作品を書く作家がいることに一驚しました。

読みはじめたら止まらない、ノンストップエンタメ小説の典型なので、余計な感想は無用なのですが、とくにひきこまれたこといくつか。
1、次世代人類の可能性と、アメリカによる抹殺作戦。
現人類が猿人から進化・変異して登場したように、次世代人類=超人類が現人類からの進化・変異として誕生するか。
養老孟司は、人間は想像したものは必ずつくってきた。だから必ず神をつくると予言しています。本作は、それとは少し意味が違い、遺伝子の変異で、一段階高次の脳を獲得した「次世代人類」が登場するお話です。
コンゴの密林の中で、ピグミー族の中に誕生した突然変異の新しい種、ヌース。大富豪の文化人類学者の庇護のもとにあるヌースを、アメリカ政府は「現生人類への脅威」と認定し、民間軍事会社の傭兵による抹殺を諮る。
文化人類学者とヌースは、傭兵たちを寝返らせ、アフリカからの脱出を図る。
重低音のように、同じ人類を大量殺戮(ジェノサイド)し続ける現人類に未来はあるか、という問いかけが響いています。また、ジェノサイドを繰り返す人類は、そういう自分たちに照らして、「次世代人類」が必ず現人類を死滅させるだろうと予測し、もし「次世代人類」の誕生を察知すれば先手をとってこれを抹殺するという小説です。
なんとも、作家というものはとんでもないことに思いをめぐらせるものです。
2、分子生物学と創薬。
傭兵のリーダー役イエーガーがヌース側に寝返る大きな要因が、息子の難病「肺胞上皮細胞硬化症」の特効薬です。余命一ヶ月にまで追い込まれている息子の命を救う薬を、ヌースがネット空間を通じて日本人薬学生・古賀研人につくらせることができる、そこに賭けて、イエーガーはアメリカを裏切ります(実は、アメリカ政府側も、作戦終了後に傭兵4人の抹殺を組み込んでいた。そのことを文化人類学者に知らされたことで、生き延びるためにはアメリカと戦うしかないと決断する。)
この、いかにもありそうな「肺胞上皮細胞硬化症」をめぐる分子生物学的なオハナシが、まるで門外漢の読者を物語にひきこむ重要な仕掛けになっています。
そうか、いまどきのSFは、分子生物学が最先端なのかという納得感があります。
3、アフリカの運命、ピグミー族の運命。
アフリカで今も繰り返される民族間の大虐殺。それは白人によるアフリカの植民地化、現地住民の奴隷化や大虐殺の歴史の後遺症なのだ、ということがなまなましく伝わってきます。
この本を読むまで、ベルギー人がコンゴで1千万人の現地住民を虐殺したなどという歴史があったことを知りませんでした。
文字をもたず、ジャングルの狩猟採集民として数万年を生き抜いてきたピグミー族の中から超人類が生まれるという設定も秀逸です。
誕生した超人類を抹殺しようとするアメリカ・ホワイトハウスの傲慢な権力者たちと、森の民・ピグミー族との対比。あまりにも強烈なコントラストです。

高野は、軍産複合体が支配するアメリカこそ世界の災厄の元凶になっていることを、冷静に描き出します。白人によるアフリカでの悪逆非道を描く筆で、日本が先の大戦で中国・韓国・アジアで行なった蛮行も描きます。
単純な正邪などない。それぞれがおのれの信じるところにしたがって、力を尽くして生きるよりない、というメッセージが全編に流れています。

これまた「すずらん本屋堂」のおすすめ。いいものを勧めてくれました。

4月1日のBS11「すずらん本屋堂」最終回、レギュラー陣おすすめこの一冊で紹介されたのが『スメル男』(原田宗典)『隠し剣孤影抄』(藤沢周平)そして『ジェノサイド』でした。
藤沢周平をあげるとは渋いなあと感心しましたが、他の2冊もじょうずにすすめられたので読んでみる気になったのでした。
いやあ、良かった。感謝です。こういうすぐれた作家がいることを知っただけで、心が潤います。

大傑作エンターテイメント小説に、乾杯。
ジェノサイド 上 (角川文庫) -  ジェノサイド 下 (角川文庫) -
高野和明『ジェノサイド』上・下、角川文庫、2013年、上600円+税、下640円+税。
関連:2016年04月23日、原田宗典「メメント・モリ」http://boketen.seesaa.net/article/437024879.html
2015年01月05日、養老孟司・阿川佐和子『男女の怪』http://boketen.seesaa.net/article/411822450.html

posted by 三鷹天狗 at 09:04| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする