2016年02月29日

青山文平『つまをめとらば』

ユーモア時代小説の名手登場です。

いうまでもなく第154回直木賞受賞作。『オール讀物』3月号に、受賞作品が掲載されました。全6篇の短篇連作ですが、そのうちの3篇が掲載されています。
一読、ユーモア時代小説の名手登場と感じました。
『つまをめとらば』は、幼馴染でともに隠居暮らしの武士ふたりが、それぞれに女性で苦労してきたことが、苦々しく、かつ噴きだすしかない滑稽さで描かれる。書き出しから結びまで、滑稽譚の語調も色調もいっさいないのに、可笑しくてしょうがない。
なるほどなあ、小説というのは、なんという豊かな表現形式なんだろうと感じ入ります。この作家を受賞者に選んだ選考委員のみなさんに拍手を送ります。
『ひと夏』は一転して、若くてやる気満々の若い侍が主人公。天領の中に「飛び地」で自藩の領地があり、その支配を仰せ付けられたが…という一編。こちらも、解けない難問のような江戸時代の藩組織のありかた、武士も百姓も姑息でという人間のしがらみを描いて、笑いの生じようのない設定なのに、なんとも可笑しい。
主人公が奥山念流の目録という剣の名手で、あざやかにその手並みを発揮するという時代小説の王道場面もあります。
『逢対』は、無役の旗本たちが実ることのない上役詣でを繰り返すという、これまた救いのない舞台設定のお話。固いんだか柔らかいんだかわからない主人公と、主人公との付き合いを子どもを産むための方便としか思っていない感のある煮売屋の女将との交情。これまた笑わせてくれます。

煮詰まってしまった文化・文政(1800年代前半、幕末期)のころの武家社会。身動きの取れない武家を尻目に町人文化は花ひらく。武家であれ町人であれ、女性のほうがはるかに緩やかに世の中を渡っている。
なんだか、煮詰まってしまった今の日本で元気なのは女性だけ、といった風潮と重ねて読んでしまいました。

掲載の「受賞者が語る直木賞受賞までの軌跡」も、さすが年功を経てきた物書きと思わせます。
経済関係の出版社に就職したら、記者としてではなく、広告部でコピーを書く仕事に配属されてしまった。そこで「読まれない」「信用されない」広告を、どうすれば読んでもらえるか、どうすれば信用してもらえるかという仕事をし続けた。別に小説好きでもなんでもなかった自分が、いま小説を書いたりできるのは、そのときの仕事=修行のおかげという。
「世間に出回っている通説はすべて、いったん洗濯してから自分の辞書に収める」
「絶対に一つだけのアングルから対象を見ない」
いいですねえ。ことばに信念と迫力が満ちています。
受賞記念対談の相手が宮城谷昌光で、宮城谷が「私は、小説というものは才能で書くものではないと思っている」「そもそも小説はそんなに高等な芸術分野でもないし、逆に優等意識なんて害になるだけです」と言いきるさまのかっこいいこと。

またしても芥川賞受賞作品の口直し。

何十年もの長いあいだ、芥川賞や直木賞の受賞作品だから読むということをしてこなかったし、特に芥川賞作品というのはつまらないものという固定観念を抱いてきた。昨年芥川賞の『火花』(又吉直樹)が100万部売れたというニュースに驚いて読んでみたら、やはりつまらない。同時受賞の『スクラップ・アンド・ビルド』(羽田圭介)は輪をかけてつまらない。これはもう同時代作品が読めなくなっている老化の証かと感じ、口直しに直木賞『流』(東山彰良)を読んでみたらこれがかろうじて面白かったのでほっとしました。
もう2度と芥川賞受賞作品を読む必要なしと思っていたはずなのに、なんだか気になって今年も「受賞作全文掲載」の『文藝春秋』3月号を買ってしまいました。2作品とも読みおえるのが苦痛という展開。いや、読んだ私が悪うございました。「芥川賞・直木賞作品だから読むなどということはしない」という元の暮らしに戻ります。
それにしてもなあ、なんでこんな…という気持をぬぐうために読んだ『つまをめとらば』。小説への愛着や信頼を失う必要はぜんぜんないということを確認させてくれました。ありがとう。
青山は、歴代受賞者で2番目の高齢(67歳)ということでも話題になったようです。

ユーモアに満ちた時代小説の登場に、乾杯。
オール讀物 2016年 03 月号 [雑誌] -  つまをめとらば -
青山文平『つまをめとらば』(『オール讀物』3月号)2月22日発売、980円+税。
青山文平『つまをめとらば』文藝春秋社、2015年、1500円+税。
関連:2015年09月15日、東山彰良『流(りゅう)』http://boketen.seesaa.net/article/426101660.html
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posted by 三鷹天狗 at 12:35| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月27日

啓蟄も近い。このまま暖かくなってほしい。

寒い日が続いて、散歩に行く気にもなれないとぼやいていたら、24日(木)はすっきりと晴れてくれました。いそいそと植物公園散歩です。
この時期はなんといっても梅園。ほぼ満開状態です。紅梅と竹林のミックスが美しい。
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手前の黄色はサンシュユ、白梅・紅梅との色の取り合 わせがきれいです。
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青空に葉を一枚もつけないでそびえたつ落葉樹、かっこいい(写真左はユリノキ)。ハクモクレンは、開花を待ってぷっくらと膨らんでいます(写真右)。
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今年は啓蟄が3月5日の由。虫が穴から出るように、私もお休み続きの散歩を再開します。
青空に、乾杯。
posted by 三鷹天狗 at 08:44| Comment(0) | 散歩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月25日

豊島ミホ『大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル』

気になる作家・豊島ミホが、小説家をやめていたとは!

岩波ジュニア新書、中高生でいじめにあっている若者向けの「リベンジ」への呼びかけです。
いじめられたり嫌な目にあわされた君が「殺してやりたいほど憎い」という感情を持つのはごく自然なことだよ。そういう感情が湧いてくる自分を責めたりする必要はないよ。
ただし、実際に相手を殺したり、逆に自分の肉体を傷つけたり殺したりしては「リベンジ」になっていないぞ。自分が幸せになることが最高のリベンジなんだ、という内容です。
この本を読んで、いじめに苦しんでいる中高生や若者が少しでも救われてほしいなあと切に願います。
リベンジ(revenge)の本来の意味は、復讐・報復・仕返しといったなまなましく強烈なものだが、このごろはスポーツ選手などが「雪辱する」「借りを返す」という意味で使う言葉になっています。この本のタイトルと内容も、「復讐マニュアル」というよりは「雪辱マニュアル」という意味になっています。

数年前に友人から『底辺女子高生』という本を「これ、あんたと同じ田舎の子が書いた本じゃないの」と勧められて、初めて豊島ミホを知りました。
秋田県南部の進学校で、おちこぼれてしまった女の子の内面を語ったエッセイです。たしかに35歳年下の後輩です。
「へー、こんな作家がいるのか」と気になって、図書館で借りたり、文庫になっているものは買ったり、主だったものを読んできました。デビュー作の『青空チェリー』など、面白い作家がでてきたという期待感があります。
老人にとっては「ジュニア文芸」の世界ですから、共感したりファンになったりとはいきませんが、母校初の小説家の誕生かというのは、やはり気になります。
ところが、この『リベンジマニュアル』によれば私が読みはじめた時には、すでに作家を廃業して(そのときまだ27歳です)田舎にひっこんでいたんですね。いやはや。
本書のハイライトにあたる作家廃業を決意する場面は、憎しみを駆動力とするこれまでの10年間の生き方考え方の誤りに気付く、私小説的な感動があります。

殺したいほど憎たらしい奴と会った時の、とても効果的な対処法を、私は20代の時に浅井慎平のエッセイで知りました(浅井の本そのものではなく「浅井さんから教えてもらった」と誰か他の人が書いたもののような気もします)。
夜、就寝前に、その日出会った殺したいほど嫌な奴、憎い奴を思いうかべ、拳銃でそいつのひたいを「バーン」と打ちぬきます。それだけ。
私は20代からこれを実践してきましたが、非常に効果があります。
次の日以降、そいつに会っても、怒りや憎しみの感情がとても薄れています。なにしろ相手はもう死んでいるんですから。
豊島の本を読むような子たちに、この浅井慎平式「憎いやつ処刑術」を教えてやりたいなあ。

なんだかとても幸せになっているみたい豊島ミホ。よかったね。

ひさびさに豊島の本が読めたのでうれしくて、いろいろネットをめぐっていたら豊島本人が開設しているブログがあり、なんと昨年、数歳年下の男と結婚して、いま人生最大の幸せに浸っているようです。臆面もなく「新婚万歳」をうたっています。良かったなあ。おめでとう。一読者として、こころから祝福を贈ります。(「雑記帖としま」http://fengdao.exblog.jp/
漫画家・官能小説作家へのインタビューなど、インタビューアーとして「ものかき業復活」を着々と遂げているようで、慶賀のいたりです。
そうでなくちゃ。これだけの文才があるのだから、いろんな本を書いてわたしたちを楽しませてくれなければ困ります。

「憎しみと不幸の連鎖」から抜け出して、最高に幸せになっている豊島ミホに、乾杯。おめでとう!、
大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル (岩波ジュニア新書) -
豊島ミホ『大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル』岩波ジュニア新書、2015年、840円+税。
posted by 三鷹天狗 at 08:33| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする